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2020.12.18

F.I.N.的新語辞典

第77回| 堆肥葬

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「堆肥葬」をご紹介します。

堆肥葬【たいひそう/Human composting】

人間の遺体を堆肥化させる埋葬方法。火葬や土葬に代わる「エコな埋葬法」として、近年注目を集めている。二酸化炭素の排出量は、火葬の8分の1。2019年4月、米ワシントン州の州議会で「人の遺体を肥料にすること」を認める法案が可決された。2021年には、世界初となる「人の遺体を堆肥化する施設」がシアトルにオープン予定。

 

まだ日本ではあまり馴染みのない「堆肥葬」ですが、今後取り入れられていく可能性はあるのでしょうか。日本人の死生観や宗教的な慣習について、浄土宗光琳寺の住職・井上広法さんに話を聞きました。

「日本では火葬が一般的ですが、実は戦前くらいまでは土葬が主流でした。火葬はエネルギーを大量に必要とするため、昔は裕福な人しかできないことでした。欧米やヨーロッパなどのキリスト教・イスラム教文化圏では、今でも土葬文化が強い。これは、神が降りてきたときに死者が復活すると信じられているからです。一方で、仏教はより多様的で、どのような弔い方でも問題ありません。チベットでは鳥に屍を食べさせる鳥葬がありますし、日本でもかつて、遺体を舟に見立てて流す水葬もりました」。

しかし、日本で堆肥葬を考えたとき、課題となるのは宗教観ではなく倫理観だと、井上さんは話します。

「一見すると堆肥葬と土葬は、土に還るという点では似ています。しかし、堆肥葬は『肥料としてその土を有効活用する』という点で土葬と大きく異なります。仮に、遺体を堆肥化した畑で野菜をつくったとして、その野菜を抵抗なく食べられるでしょうか? また、日本では他国に比べ祖先崇拝の意識が強く、お墓自体が遺された人々の支えとなっている場合もあります。お墓がなくなることに違和感を感じる人もいるでしょう」。

堆肥葬に近い考え方として、墓石の代わりに木を植える「樹木葬」という葬送があるそう。樹木葬方式であれば、堆肥葬が日本でも浸透するかもしれないとのこと。

「最近、樹木葬が人気です。お骨は骨壺に入れて納骨するので、実際には木の養分にはなっていないのですが、ヨーロッパで実際に行われているように、木の下に遺体を土葬すれば、日本でも堆肥葬的な考え方は成立すると思いますね」。

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