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2021.01.06

F.I.N.的新語辞典

第78回| ウォーカブル

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「ウォーカブル」をご紹介します。

提供:nest 南池袋公園とグリーン大通りで行われた「IKEBUKURO LIVING LOOP」の様子

ウォーカブル【うぉーかぶる/walkable】

「歩く」を意味する「walk」と「できる」の「able」を組み合わせた造語で、文字通り「歩きやすい」「歩きたくなる」「歩くのが楽しい」といった語感をもつ。それまでの車中心だった都市から、歩くことが中心の都市へシフトするための都市戦略用語として使われる。21世紀に入り、ヨーロッパや欧米でこの政策が取り入れられ、2009年に施行されたニューヨーク・ブロードウェイの歩行者天国化などの代表例も。日本でも、2019年に国土交通省が「まちなかウォーカブル推進プログラム」を提言。「ウォーカブル推進都市」を全国的に募集した。

今回お話を聞いたのは、ウォーカブル政策を推進するきっかけとなった、国交省主催の「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」で副座長を務めた、馬場正尊さん。建築家として、建物から都市設計まで幅広く手がけるほか、大学でも教鞭を取る馬場さんに、ウォーカブルなまちづくりについて伺いました。

 

「国土交通省が主催した懇談会の中で、世界における生産性の高い都市とは、歩きやすい都市であるということがわかってきました。歩きやすい道の途中には、美味しいお店や偶然の出会いがあり、街自体に居心地の良さを感じます。すると、クリエイティブな人や企業が集まってきて、都市の楽しい風景やコンテンツを生み出していく。いい環境こそがいい人を呼び、いい産業を生み出し、またそこに人がやってくる、という好循環が生まれます」。

1990年代までは、便利で高機能な都市こそが“いい都市”だと思われていた、と馬場さん。これからはその逆で、一見すると無駄だと思えるものが増えていくだろうと言います。

「街は車中心に考えられていたので、道路は通行のためのもの。通行に邪魔だから、という理由で看板やベンチなど、どんどん余計なものが取り除かれていきました。今後は、ちょっと腰掛けられるイスとか、囲碁や将棋が打てるテーブルとか、ゴロゴロできそうな場所とか、私たちが身近に感じられる規模や大きさで作られた、ノイズのようなものが再び道路に出現し始めると思います」。

既に、コペンハーゲンやヘルシンキなど北欧では、ウォーカブルを取り入れた街の再生が進んでいます。日本でも南池袋などで社会実験が始まっているそう。

「今はまさに『ウォーカブルなまちづくり』の黎明期。南池袋を始め、姫路や仙台、佐賀など、全国各地で実験が進行中です。道路交通法における安全の規制との調整も必要ですが、今後もウォーカブルな街をつくる取り組みは、全国的に広がっていくと思います」。

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