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2019.05.22

F.I.N.的新語辞典

第40回| エコツーリズム

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値が理解され保全に繋がることを目指す仕組み・エコツーリズムをご紹介します。

エコツアー「奥入瀬渓流 コケさんぽ」は、ルーペ片手にのんびりと森を散策。奥入瀬渓流のコケを観察する。

写真提供:NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会

エコツーリズム【えこつーりずむ/ecotourism】

 

自然の生態系、自然に育まれた暮らしや文化に触れることで深い感動を生む旅の考え方であり、地域の環境や暮らしの文化を守り続けるための仕組みを作る運動。“エコツアー”とは、エコツーリズムの考え方に沿ったツアーの総称です。今回は、地域主体のエコツーリズムの普及を目指す日本エコツーリズム協会で広報を務める高野千鶴さんに、エコツーリズムが生まれた背景やその歴史について教えていただきました。

 

エコツーリズムが生まれたのは地球規模で環境保護が叫ばれるようになった1970年代から1980年代前半にかけてのこと。発祥地は中南米とアフリカの二地域だと言われているそうです。

 

「自然を守るために地域住民を阻害することは過ちだと気づいたケニア政府は、1970年代初頭に自然保護地域内に観光施設を作って収益を上げ、コミュニティに還元する実験を開始しました。成功したこの仕組みは世界に“エコツーリズム”という名称で紹介され、東南アフリカを中心に普及が始まります。また1970年代後半のコスタリカでは、生物多様性を守り、持続的に維持するための手段として観光を捉え始めていました。自然が豊かな地域への旅を通じて観光客を環境保護の担い手に変え、“生態系を脅かす観光”を、“環境保全、観光客と地域住民の交流を進める観光”へとシフトさせていったのです」

 

エコツーリズムが日本にやってきたのは1980年代の末。小笠原諸島や屋久島、西表島などで先進的にエコツアーが行われるようになり、1990年代に入ると国(当時は環境庁)も西表島でエコツーリズムの仕組み作りを始めました。エコツーリズムは、今ある資源を活かす観光によって地域活性化を持続させる方法として、少しずつ各地で受け入れられていきます。

 

2000年代に入るとエコツーリズムを導入する地域は、国立公園地域だけでなく、里山や里海へと広がります。「地域の自然や文化、人を主役とする“もうひとつの観光”として、さまざまな地域が取り組みを始めたのです。自然保護と観光の調和や、地元経済と自然保護の両立などに迫られ、政策としてエコツーリズムに取り組んできた海外に対し、日本の特徴は、今ある宝を活かして地域振興を図る手段として観光を捉え、地域主体でエコツーリズムに取り組んでいることだと言えます」。

 

最後に、最近話題の国内のエコツアーを教えていただきました。

 

「まずは、NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会の『奥入瀬渓流 コケさんぽ』です。これまでの奥入瀬観光は車やバスで通過するだけ、足早に名所を巡るだけといった“見流す”スタイルが主流でしたが、こちらはコケを見ながら遊歩道をゆっくり歩くネイチャーツアー。何気なく見ているコケですが、ネイチャーガイドの案内でルーぺを使って覗き見ると、その奥行きの深い世界に感動しますよ」

 

「第14回エコツーリズム大賞で大賞を受賞した飛騨小坂200滝のツアーにも注目です。岐阜県下呂市小坂町は日本一滝の多い町として知られる場所。滝を活用したシャワークライミングや、氷瀑めぐりのツアーが人気を集めています」

 

ほかにも、水中ライトを持って夜の海の生き物を観察する八丈島自然ガイドサービス 椎(しいのき)のナイトスノーケリング、オオサンショウウオ研究者から生態についての解説を受け、調査の補助を行う鳥取県日南町のBushidoのツアーにも注目が集まっているそう。今年の夏休みには、いつもとはひと味違った“もうひとつの観光”を楽しんでみてはいかがですか?

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