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2019.10.28

F.I.N.的新語辞典

第49回| 産業観光

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は、「産業観光」をご紹介します。

「第13回 産業観光まちづくり大賞」で金賞を受賞した広田湾遊漁船組合(広田湾漁業協同組合)。海中熟成酒作りというユニークな体験を提供し、産業観光を中心に地域活性化のためのさまざまな取り組みをしている。写真提供:広田湾遊漁船組合(広田湾漁業協同組合)

産業観光【さんぎょうかんこう/industrial tourism】

 

日々の暮らしに欠かせない日用品、家具、乗り物などの生産現場や、伝統が生み出す焼き物、漆器、織物などの技術や芸術、さらには日本の近代化を支えた鉱山、製糸工場、橋、運河などの産業遺構を観光資源とする観光形態。

 

「産業観光と聞くと、食品会社の工場見学のようなものを思い浮かべる方が多いかと思いますが、我々が考える産業観光の“産業”には第二次産業だけでなく、農林水産業や伝統産業、テクノロジー産業、サービス産業まで幅広い分野を含みます」と話してくれたのは、公益社団法人 日本観光振興協会 総合調査研究所で産業観光を担当する近藤千恵子さん。一般的には観光資源として見られることのない地域の産業を観光資源という視点で見ることで、地域に新たな魅力を生み出すのが産業観光です。「“観光資源が何もない”という地域でも、“産業が何もない”ということはありません。どの地域でもその地域に根差した独自の産業があり、それは地域内の人にとっては人に見せるものではなかったとしても、地域外の人からすれば魅力的なコンテンツになり得るのです」。

 

では、産業観光の魅力・意義とはどのようなものなのでしょうか。「産業を広く公開することでその産業の隆盛や働き手の確保に繋がります。CSR目的で工場見学などを行っている企業も多いですが、それだけでなく、観光を通して産業を活性化させようと取り組んでいらっしゃる地域、企業も多くあります。目に見える数値的な成果はなくとも、お客様からの声やお客様に見られることそのものが従業員の力になる、といった声もよく聞きます」。

 

一方で、産業観光への参加者にとっての魅力は「自分の身近にあるもののルーツを知ることができたり、ダイナミックな現場を間近に体験できたりと、一般的な観光とは違う体験ができることにある」と近藤さん。「一般的な観光は“非日常体験”“異日常体験”といわれますが、産業は自分の生活に根差すものなので、産業観光は“日常の延長体験”といえるのではないでしょうか。社会科見学など、子どもたちの教育旅行にも産業観光は多く取り入れられており、教育という観点からも注目されています。ただ楽しさを提供するだけでなく、参加者に何らかの知識を提供してくれる点も産業観光の魅力といえます」。

 

公益社団法人 日本観光振興協会では、毎年、産業観光による地域活性化に取り組む団体を表彰する「産業観光まちづくり大賞」を行なっています。2019年度の受賞団体は、“海中熟成酒”作り体験を提供する岩手県陸前高田市の広田湾遊漁船組合(広田湾漁業協同組合)、職人が働く現場を間近で見学し、鋳物製作体験もできる富山県高岡市の株式会社能作、「真珠取り出し体験」「オリジナル真珠アクセサリー作り体験」を中心とした市内周遊型観光を提供している志摩市など。地域の未来に貢献する産業観光への注目度は、今後もますます高まりそうです。

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