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2023.06.11

F.I.N.的新語辞典

第89回| SBNR

F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「SBNR」をご紹介します。

 

(文:大芦実穂)

SBNR【宗教的ではないがスピリチュアル/Spiritual But Not Religious】

欧米を中心に広まった、特定の宗教を信仰しているわけではないが、精神的な豊かさを求める動きのこと。例えば、近年のマインドフルネスやウェルビーイングの流行が挙げられる。1970年代から80年代にかけて、米国でキリスト教を信仰しない層が増加し、近年さらに宗教離れが進み共通の信じる対象がなくなっていることも要因のひとつだと考えられている。2000年に出版されたスヴェン・アーランドソンによる著書「Spiritual but not Religious」からその名前が知られるようになった。日本では、禅体験やお遍路などがインバウンド的に注目されている。

今回は、「SBNR」を軸に、消費や社会、つながりなどについて言及している、『カルチュラル・コンピテンシー』共著者で、季刊誌『tattva』編集長の花井優太さんに話を聞きました。

 

まず、同様の動きはこれまでにもあったと花井さん。
「60年代には、資本主義および自由競争が加速するなかで、人間回帰しよう(ヒューマン・ビーイン)という機運が高まりました。いわゆるヒッピー・ムーブメントと呼ばれるものもこれに含まれますが、これまで当たり前だったものが揺らぎ、急激な変化があって心の“拠り所”を見つけたいときに、精神的な豊かさを求める傾向は歴史的にもったことです。最近でいうと、やはりコロナもそれに値するでしょう。仕事や生活など、さまざまなものが揺らいだときには、誰だって多かれ少なかれ拠り所を要します。コロナ禍以前から見られた傾向ではありましたが、改めて注目されたのは、これまでなんとなく信じられていた『変わらない日常』が集団的にも喪失されたからですよね」

 

コロナ禍で、ものをたくさん持っていても幸せになれないと感じる人も多くいました。これまでのモノ・コト消費から、体験に意味性を求めたり、消費のあり方そのものを問うたりする「イミ消費」へとシフトしてきています。享受したものから選ぶのではなく、共感するものを選ぶときは、拠り所性が重視されると花井さん。拠り所への所属という点では、どこか一箇所に集まるのではなく、何かの共通認識を持ちながら、プロジェクトごとにチームを組むような働き方のスタイルも増えつつあるようです。

 

では、SBNRという言葉が生まれたことで、私たちの暮らしはどう変化するのでしょうか?
「そもそも、心身の充実を人間が求めるのは当たり前ですし、自称したり、自分を定義づけたりするものでもないと思います。SBNR的なアクティビティとして括られているマインドフルネスなどを行っている人が、日常的に『スピってるんだよね』くらいは言うかもしれませんけど。現在、もしこの言葉が急激に広まったり使われたりするのだとすれば、それはビジネス用語としてではないでしょうか」

 

言葉そのものがマーケティング的に消費される未来を指摘する一方で、花井さんは人々の「共通の信じられる対象が欲しい」という価値観から、人々の拠り所となる場所について考えを巡らせていると話します。

東京都台東区の浅草寺に集まる人々の様子。

「SBNRとは違いますが、『スピリチュアルな拠り所』という点において僕としては今一度、神社仏閣や御神体に着目したいです。神社仏閣は日本全国に15万件以上あり、実はコンビニの合計数よりも10万ほど多い。お祭りをしたり、学び舎になったり、いろんな役割を持ちながら、地域に点在しています。神様を信じる、信じないといった信仰面は別として、スピリチュアリティのあるアイコンが拠点となり、コミュニティがそれに合わせて細かく形成されてきました。また、神社や寺で悪さをしようという人はそうそういない。明らかな信仰が無いのにもかかわらず、『なんとなくちゃんとしないといけない』場所とは思っているんです」

 

コロナで住む場所や働く場所が分散されましたが、最近では賛否両論あるのも事実。居住地が定まらない人々の拠り所として、神社やお寺のような存在が機能していく可能性は大いにあると花井さんは続けます。

 

「流動的なノマドワーカーとは対局の存在であり、動かせないからこそ生まれるのが長期的思考です。5年後、10年後もそこにいるのだとしたら、未来のプランを立てざるを得ません。では何を軸に未来を考えて行けばいいでしょう。短期的な得を取りに行くことで、将来大きく実るかも知れない何かまで刈り取ってしまう。コスパではなく、土地を長い目で耕していくような視点が必要です。そのときに頼りになるのが、神社仏閣に対して生まれる『なんとなくちゃんとしないといけない』感覚だと思っています。それが細かい集団で地域ごとに存在することが、包摂的で持続可能な社会形成への一歩であるはずです。SBNRも単なるブームとしてアクティビティ化するのではなく、現代人と道徳的理性を結び直すものとして機能すればいいですね」

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