2022.06.24

人の輪が広がり、コミュニティを形成。自由で豊かなこれからの小屋での暮らし。

F.I.N.編集部が6月のテーマとして掲げるのは「暮らす」。昨今ではライフスタイルの多様化やコロナ禍の到来などによって、その価値観にも変化が訪れているように感じます。そこで今月は、未来の定番となり得る家族のカタチや暮らしの道具などを探究していきます。

 

今回は、自宅や仕事場以外の第3の居場所として活用され始め、自作する人も増えているという小屋に着目。なぜ今、自分の居場所として小屋が求められているのか。どうして人は小屋を作るのか。はたまた、この先の新しい小屋の姿とは? DIYライフマガジン『ドゥーパ!』やムック本『小屋を作る本』の編集長・設楽敦さんに、こうした小屋の価値観の変化を伺います。

 

(文:船橋麻貴/撮影:森本絢)

Profile

設楽敦(しだら あつし)さん

『ドゥーパ!』『小屋を作る本』編集長。大学卒業後、バックパッカーとして2年ほど海外放浪した後に、『ドゥーパ!』編集部に入社。自らも小屋づくりや車中泊カスタム、セルフリノベーションなど、さまざまなDIYに挑戦し、企画・執筆も行う。

ドゥーパ!:https://dopa.jp

スモールハウスムーブメントによって、

日本における小屋の価値観に変化。

DIYライフマガジン『ドゥーパ!』やムック本『小屋を作る本』の編集長として、小屋の潮流を見つめてきた設楽敦さん。『小屋を作る本』の創刊は2015年ですが、それより前の2005年に『ドゥーパ!』で小屋づくりの特集を組んでいたそう。

 

「当時はもちろん、今のように小屋が注目されていたわけではありません。どちらかと言うと、DIYなど日曜大工好きのお父さんたちの憧れの対象として小屋づくりがありました。小屋という言葉も浸透していなかったので、木の家を表すウッディハウスという言葉を使っていましたね」

2022年の現在、自宅や仕事場以外の第3の居場所として活用されていたり、家族や友人が集う場所としても愛用されている小屋。日曜大工を行うお父さんたちの憧れから一転、一般の人にも幅広く愛されるようになったのは、2007年にアメリカで起きたサブプライムローン問題が起因していると設楽さん。

 

「1990年代後半にアメリカで、建築家によるスモールハウスムーブメントが提唱され、当時から海外では小さな家で豊かに暮らすことが注目されていました。そういう背景がある中、小屋が広く認知されるきっかけとなったのは、アメリカで住宅バブルが起こり、買い手市場となったサブプライムローン問題。住宅ローンの金利が下がったため、どんな人でも住宅が購入しやすくなったのですが、バブル崩壊とリーマンショックが続き、2008年には世界同時不況が起こります。

 

そうすると、これまでのお金のかかる大きな家での暮らしから、小さな家での暮らしに転換する人が続々と出現。本当の暮らしの豊かさを求め、不要なものを手放し、タイニーハウスと呼ばれる小さな家を作って暮らすようになります。こうした暮らし自体の価値観の変化が世界で起こったことをきっかけに、日本でも小屋での暮らしが少しずつ広がっていったように思います」

仲間との小屋作りイメージ/撮影:福島章公

東日本大震災やコロナ禍を経た今、

小屋が分断された社会をつないでいく。

アメリカをはじめとした世界で注目され、海を渡って日本国内にも徐々に浸透し始めた小屋での暮らし。そうした中、日本での小屋の捉え方や価値観に大きな変化が訪れたのは、2011年に起きた東日本大震災の存在が大きいと設楽さんは話します。

 

「デジタル化が進み、日常のあらゆることがどんどん便利になっていく中、東日本大震災に見舞われたことで、そういった価値観がゼロベースになりました。電気やガス、水道などのインフラが届かなくなり、生きる術としてDIYやものづくりが必要でした。それで実際に自分で暮らしを構築していくと、その楽しさや重要性に改めて気づいたんだと思います。かつて暮らしは自分たちで作っていくものでしたが、テクノロジーや科学の発展によって見失ってしまった。東日本大震災によって、自分らしい暮らしを作るという選択肢があることに気づいた時、それを叶える手段の一つになったのが小屋だったのではないかと思います」

設楽さんが編集長を務める『ドゥーパ!』では、アウトドアスタジオ兼DIYフィールドにガレージやサウナ小屋、アウトドアキッチンなどさまざまなものを自作している

2015年には建築家や工務店、クリエイターたちが作った小屋を体験できる「小屋フェスティバル」が開催され、小屋の裾野がさらに広がっていきます。そして、2020年に訪れたコロナ禍以降は、自分の居場所として小屋を求める人が増加。どうして今、人々は小屋を必要とするのでしょうか。

 

「釣りが好きなら釣り小屋に、バイクが好きならバイクガレージにと、作る人の趣味が投影されることの多い小屋ですが、こういう秘密基地のような空間に直感的に惹かれるというのはあると思います。また、コロナ禍になってよりプライベート空間が必要になったことが考えられるのではと。家の中ではなく、少し離れた場所に独立した空間を設けることで、気持ちの切り替えもしやすくなりますし、テレワークの広がりも一因だと思います。

 

それに小屋を作るという観点で考えると、コロナ禍で分断された社会になりつつある今だからこそ、小屋が必要なのだろうと思います。もちろん、1人で作られる方もいますが、週末に友人同士で集まって小屋づくりをするのは純粋に楽しい。小屋のディテールについて語り合ったり、空いた時間にバーベキューをしたりと、人との交流が限られる今だからこそ、小屋づくりをすることで友人たちと絆が深めていける。その友人たちがまた新たな友人を小屋に連れてきてくれることもあります。このように小屋を媒介に、人と人の輪が広がって新たなコミュニティを形成していける。つまり、小屋づくりは仲間づくり。それが今みなさんが求める小屋の魅力なんじゃないかと思います」

廃材を使って再生&循環。

小屋はもっと自由に、おもしろくなっていく。

木を組み合わせたものや、石造の小屋、竹や藁で作ったもの、トラックの荷台に小屋を作ったモバイルハウスなど、さまざまな種類がある小屋。日曜大工やDIYが好きでない人にまで広く浸透したからこそ、この先は自由度の高い小屋が出てくると設楽さん。

 

「DIYやものづくりは、作り手の人生が投影されるもの。同じものを作っても、どうしてもその人のクセが出ちゃうんですよね。そういう側面があるから、DIYやものづくりの常識にとらわれない人たちが小屋を作れば、これまで以上に個性豊かで自由度が高いものが生み出せるはず。この先、そんなめちゃくちゃおもしろい小屋がたくさん出てくるといいなと思います」

トラックの荷台に小屋をつくれば、移動可能なモバイルハウスとして活用することもできる

また、世界的な木材不足によって、これまでにない素材で作る小屋の出現もあり得るそう。

 

「昨年あたりから、海外からの木材の供給が不足するウッドショックが起きていますし、近年はサステナブルや環境問題や取り沙汰されていることもあり、小屋に廃材を使って再生・循環しようという動きも考えられます。建築廃材や流木などの異素材を組み合わせて小屋を作るのは、これまでの小屋づくりのルールや常識を飛び越えないとできないので、自ずと新しいタイプの小屋が生まれていくかもしれません。

 

あと、地産地消の小屋みたいなものを作れたらおもしろいですよね。海外からの木材に頼るのではなく、日本の森で伐採した木を製材して小屋を作るというような。その土地で採れた季節のものを食べるのが健康にいいという、『身土不二(しんどぶじ)』といった言葉があるように、その地域で育った木材をその土地の小屋に使うと長く使えるかもしれません。必要以上に自然に負荷をかけることなく、人々が暮らしていけるといいですよね」

■F.I.N.編集部が感じた、未来の定番になりそうなポイント

・小屋の使い方が多様化。

・小屋が媒介物となり、人と人がつながる。

・小屋は単に孤立した物ではなく、親しい友人やそのまわりの友人たちをつなぐコミュニケーションツールにもなる。

【編集後記】

小屋は、もちろん大きさを定義した呼び方なので、大きさは変わりませんが、時代の中の数々の出来事を経て、小屋を求める価値観や、その中身、使い方は変化しているようです。また、作りやすさから、その時代のマインドが顕著に現れるのも特徴なのかもしれません。

最近の動きとして、1人になりたいから小屋を作るではなく、共感しあう仲間で小屋を作る、まるで小屋が人と人をつなぐ媒介物の役割を果たしているのも興味深いです。小屋から滲み出る、作り手の思いから未来の価値観を導き出せそうです。

(未来定番研究所 窪)