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    キュレーター・田中みゆきさんが選ぶ「エンパワメント」するアカウント。

2022.11.07

目利きたちの、目が離せないアカウント。

第1回| キュレーター・田中みゆきさんが選ぶ「エンパワメント」するアカウント。

普段から目にするSNSのなかには、陰ながら応援したくなる人、刺激を与えてくれる人がたくさんいます。目利きたちは一体どんな人をフォローしているのか、いま注目しているアカウントを教えていただく連載です。

 

第1回目の目利きは、展覧会やパフォーマンスのキュレーター、プロデューサーを務める田中みゆきさんに登場していただきます。義足をきっかけに障がいに興味を持った田中さんは、視覚障がいを持つ人たちに音で視覚情報を補助する音声ガイドを複数つくって目の見える人と見えない人が共にさまざまな「視点」からダンスを見て感想を交わす実験的なプロジェクト「音で観るダンス」など、障がい当事者と物事の見方の多様性を共有する機会をつくってきました。

 

今回、田中さんに挙げていただいたのは人間の多様な側面をありのままに発信することで、人々を勇気づけているアカウントです。

 

(文:宮原沙紀/イラスト:sanaenvy)

Profile

田中みゆき(たなか・みゆき)

キュレーター/プロデューサー。アートセンターなどでの勤務後、「障がいは世界を捉え直す視点」をテーマに活動をはじめる。近年は、生まれながらの全盲者が映画をつくる過程を追ったドキュメンタリー映画『ナイトクルージング』(2019年公開)や、音声ガイドを使って目の見える人と見えない人がダンスを鑑賞する『音で観るダンスのワークインプログレス』(2017年〜)、画面のいらないゲームセンター『オーディオゲームセンター』(2017〜)、展覧会ディレクターを務めた21_21 DESIGN SIGHT企画展「ルール?展」など、カテゴリーにとらわれないプロジェクトを企画。2023年1月までアジアン・カルチュラル・カウンシルのフェローシップでアメリカ・ニューヨークに滞在中。

https://twitter.com/miyukitanaka23

ありのままの自分を正直に発信するZ世代。

私は、今年の7月からニューヨークに滞在しています。アメリカと日本を比べることでより強く感じたことですが、日本のSNSでは悲観的なニュースや物議を醸す発言の方がポジティブなニュースよりシェアされることが多い気がします。また「コミュニティ」という概念の捉え方にも違いがあります。日本では、同じ土地で生活している人や同じ活動をしている人など、共通項がある人たちでコミュニティをつくろうとする傾向があると思います。それに対しアメリカでは、それぞれが違うことを前提に、共通する信念や、つくりたい社会の形を共有してコミュニティができていく。特にZ世代では、SNSを通じて人々をエンパワメントし、自分含め思いを共有する人たちの存在を肯定することによってコミュニティが形成されています。

 

「他者の声を代弁すること」を意味するアドボケイトもアメリカでは盛んです。アドボケイトとは、当事者ではなくても障がい者やマイノリティに代わり、その権利を擁護する人。SNSで理解を深めるような発信をしたり、声を上げたりする人のことです。

 

今回は日本にはまだ足りていないと感じる、自分や他人をアドボケイトし、エンパワメントするアカウント、それによってコミュニティを築いている人々を紹介します。

華々しい舞台で闘う当事者に寄り添う擁護者、竹田ダニエルさん。

まずひとりめは、竹田ダニエルさん。Z世代のライターで、フリーランスの音楽エージェントでもあります。アーティストのマネジメントもされていて、音楽の話題を中心にジェンダーやセクシュアリティをめぐる運動などマイノリティの問題についても積極的に取り上げています。彼の発信から感じるのは、一見華々しく見える舞台に立つ当事者に寄り添う視点。私がテーマにしている障がいの分野でも「ダイバーシティ」や「共生」の名の下に、現在の権力の構造に回収されてしまうような政策が蔓延っています。そこでは結局権力を持つ人たちの素材として障がいが使われることになりかねない。最近では、音楽などいろんなクリエーションの現場でも抑圧する/される関係性があることが明るみになってきていますよね。そういった事実に対して、竹田さんは弱いものへの尊重をもって光を当て、きちんと自分の意見を発信している人だと思います。

竹田ダニエルさんのSNSアカウント

言葉に収まりきらないアイデンティティの複雑さを伝える、Chella Manさん。

次に紹介するのは、アメリカで活躍するモデルでアーティスト、トランスジェンダーであり、ろう者でもあるチェラ・マン。彼は中国系アメリカ人とユダヤ系アメリカ人の両親のもとに生まれ、さまざまなアイデンティティを持っています。チェラ・マンは、その男性/女性、聴者/ろう者など、どちらにも収まりきらないアイデンティティを人にどう伝えればよいのか、葛藤してきました。彼はInstagramのストーリーズなどでそのことに対しての悩みや決意を長い文章で綴っています。彼はいわゆるインフルエンサーという存在にあたりますが、そういった人たちは光の部分しか出さないことが多いですよね。しかし彼はそれだけでなく、アクティビストとして自分が立ち向かっている問題や、まとまっていない段階での言葉もちゃんと発信していて、そこが多くの人の共感を呼ぶのだと思います。

Chella ManさんのSNSアカウント

パフォーマンスの表と裏を見せる、MORIKO JAPANさん。

もうひとり、MORIKO JAPAN。東京パラリンピックの閉会式にも参加していた白杖を使って踊るダンサーです。彼は少しずつ目が見えなくなる「網膜色素変性症」という病気で、全盲ではありません。世間一般的に視覚障がい者というと、みんな全盲である思い込んだり、生まれつき見えないという誤解を持つ人もいます。視覚障がい者を一面的に扱おうとすることに対して、彼は実際に質問に答えたり、やって見せる様子をYouTubeで公開しています。彼のアカウントでは、まずかっこいい踊りを見せることが前提にあり、それと同時に日々ぶつけられる偏見や勝手な期待みたいなものに対する違和感も発信する。他の視覚障がい者も交えて話すこともしています。自分がまず声をあげることで、自分含め障がいのある人たちへの見方も変わっていくことを意識していると感じます。

他にも、アーティストのJezz Chungのインスタグラムも印象的です。彼女自身はクィアで自閉症、ニューロダイバージェント(*1)であり、セルフケアとコミュニティケアのアドボケイトを標榜しています。SNSでは「最近落ち込みぎみだけど、こんなことをして少し気持ちを上向きにしようとしている。みんなもやってみて」などメンタルヘルスに対する発信が多い。日々ストーリーズで、人と違うことで孤独を感じる人を鼓舞するようなメッセージを発信しています。そしてSNSだけでなく実際にも彼女の態度に共感した人たちが集い、ありのままでいられる場所をつくる大切さが共有されていると感じます。ここに名前を挙げた4人の方たちは、光と影、特に弱さや脆さを隠さずに発信しているので共感する人が多いのでしょう。彼らが次世代を担う年代だということをとても頼もしく感じます。

 

*1 ニューロダイバージェント・・・脳の機能が異なることによる物事の受け取り方などさまざまな違いを示す個人のこと。神経発達の多様性から生まれた造語で、肯定的な意味合いを持つ。

【編集後記】

田中さんの「もっとグレーゾーンの重要性を感じるべき」と仰っていたことがとても耳に残っています。 日本では「光」の部分=明るくてきれいで華やかな部分が主にSNS上で発信されているイメージですが、「光」と「影」・「公」と「私」と二項対立で捉えるのではなく、発信者のありのままの姿をSNS上で届けることで、支持につながる。 田中みゆきさんの視点でご紹介いただいたSNSアカウントのお話は、日本にしか未だ住んでいない自分にとっては衝撃的で、欧米と日本の文化・社会的背景の違いを身にしみて実感されているからなんだろうなと感じました。

(未来定番研究所 小林)

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