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2019.08.08

ノルウェーで見つけた、自由な”愛”のカタチ

第2回 「自分の心に正直に。ポリアモリーという選択」

スカンジナビア半島の西側に位置するノルウェーでは、同性愛の差別禁止から約30年かけて異性婚・同性婚の平等の実現に至りました。とりわけ人口64万人の約30%が移民や外国人労働者で構成される首都オスロは、バックグラウンドや価値観を超えて、多種多様な人々が交わるマルチカルチャー(*1)な都市です。毎年初夏に国内最大規模の「プライド・パレード」(*2)が開催され、近年のパレード参加者は5万人、27万人以上の観光客が集まるほどの賑わいを見せています。日本はLGBTQへの取り組みが遅れていると言われる中、ノルウェーのカップルたちはどのように暮らしているのでしょう。3年半にわたってオスロで暮らすコーディネーターの山岸早李さんが、自由なパートナーシップを築くカップルたちを訪ねました。

撮影:Emil Vestre

取材協力:山岸早李

 

*1

マルチカルチャー(Multicultural)

「多文化な」を意味する英単語。異なる文化を持つ集団が存在する社会において、それぞれの集団が対等な立場で扱われるべきだという考え方や政策をマルチカルチュラリズム(Multiculturalism)という。

 

*2

プライド・パレード

世界各地LGBTQに賛同する人たちが集うパレードのこと。アメリカが発祥、ノルウェーでは80年代初頭に初開催された。

メディアや広告が伝播する、多様性への理解

「みんな違うのが自然で当たり前」の社会を実現しているノルウェーでは、その変化と主張が日常生活の至るところで目にするメディア(オンラインコンテンツ、TV番組、映画作品、ミュージックビデオなど)や広告にまで反映されています。2019年3月、オスロ交通局 Ruter(ルーテル)が公開したばかりの新しいキャンペーンも国民の大きな反響を呼んでいる広告のひとつ。

 

「Uansett hvor du finner kjærligheten, står vi klare til å ta deg dit(あなたがどこに愛を見つけようが、私たちはあなたをそこへ連れていく用意ができています)」

撮影:山岸早李

肌の色が異なるカップル、障害があるカップル、同性同士のカップルなど……。多様性にフォーカスした、頭を寄せ合うさまざまな「ふたり」が、上記コピーと彼らの利用駅名とともにクローズアップで映るポートレートシリーズです。交通局の公式SNSページには「このシリーズが大好き!」、「毎日バスの車内で目にします。本当に美しい広告をありがとう!」など、数え切れないほどの「いいね!」と多くのポジティブなコメントが市民から集まりました。

 

またノルウェーを含む北欧諸国で近年よく見られるケースとして、子ども向けのイラストレーションやアニメーションにおいて、人種や性別を特定できない色使いやデザインが採用されることが非常に多いと筆者は感じています。化粧品の広告に男性モデルが起用されることも昨今の新たな動きです。

ポリアモリーという新しい愛のカタチ。

「型にはまった価値観、またジェンダーに基づくステレオタイプが植え付けられた環境に取り囲まれて育てば、それが”普通のこと”としてなってしまうのは当然です」と語るのは、バイセクシャルであり、ポリアモリーと呼ばれる愛のカタチを結ぶマルタ(Martha)さんとルカ(Luca)さん。マルタさんはテレビ局でジャーナリストとして働き、ルカさんはジェンダーの多様性に関するノルウェー最大の会員組織 FRI(The Norwegian Organization ofr Sexual and Gender Diversity)のアドバイザーです。マルタさんは生まれた時に診断された身体的性別と性自認が一致するシスジェンダー、ルカさんは生まれた時に診断された身体的性別と性自認が一致しないトランスジェンダー。ふたりは、男性女性にかかわらず惹かれるバイセクシャルであり、ポリアモリーと呼ばれる愛のカタチを結ぶ、交際5年のカップルです。

写真左から、マルタさん、ルカさん。/撮影:Emil Vestre

近年、LGBTQムーブメントの影響で、性の多様性が少しずつ可視化されてきていますが、ポリアモリーという言葉を聞いたことがある、正しく理解している、という方はまだまだ少ないのではないでしょうか。ポリアモリーとはギリシャ語の「Poly」(複数)とラテン語の「Amor」(愛)に由来した英語の造語で、恋愛対象をひとりに絞ることなく、同時に複数のひとと親密な関係を築く恋愛スタイルのことを指します。いわゆるモノガミー(一夫多妻制)や結婚における世間的ルールや常識(特定のパートナー以外の人物とはデートをしない、関係を結ばない、休暇を過ごさない等、あえて話し合わなくても多くのひとにとって「一般的」とされていること)にとらわれる事ない、いわば究極の自由恋愛とも言えますが、ポリアモリーにおいて重要なのは、お互いが合意の上であること、また常に正直であること。自由恋愛というと「無法地帯の恋愛?公認の浮気?」など語弊がありそうですが、その自由を得るには、ものすごいエネルギーと話し合いを要するとマルタさんは話します。

 

マルタさんは自身がバイセクシャルであり、またトランスジェンダーのパートナーがいることに関して、「ノルウェーの西海岸に面した人口200人程度の小さな島で生まれ育ちました。子どもの頃から『ずっと私はひとり、誰とも結婚しない。』と公言していたから、家族もカミングアウトに際してはそんなに驚かなかった(笑)。いつも味方でいてくれていると感じるし、とてもハッピーですよ」と話します。

 

さらに、ポリアモリーに関して家族にどう思われているかについて、「とくに何も言われないかな。自分の恋模様について、いちいち事細かく親に報告なんてしないでしょ?」と清々しく続けるマルタさん。

 

一方で、「子どもの頃から、自身の性別に関して「これだ」と決めることができず、いつも流動的でした。32歳になる現在は、バイセクシャルの「トランスマン」として生きています。」と優しい眼差しで述べるのはルカさん。

「ポリアモリーは、人間関係を築く上で大切な考え方です」

「ポリアモリーではなんでも可能で、なんでも起こりうる。しかし、それゆえコミュニケーションがとても大事なんです。疲れることでもありますが、自分にとってなにが本当に大切か?何が欲しいのか?ポリアモリーに出会うまでは、それほど自分や相手の心に耳を澄まし、深く向き合うことはなかったのです。またポリアモリーの考え方は、私の人生において、より意味のある人間関係を築く上で重要なものとなっています。どんなカップルもお互いを支配することはできません。たとえ複数の相手と関係を結ばないにしても、ポリアモリー的考え方は誰にとっても大切なのでは、と思うんです」(マルタ)

 

最後に、自分の性的指向に自信が持てない、恥ずかしく思っている、カミングアウトすることを恐れているひとに向けて、こう話してくれました。

 

「あなたが小さな村に住んでいても、大きな街に住んでいても、決してひとりではありません。あなたの人生とアイデンティティはほかのすべてひとたちのそれと同じように尊いもの。誰もあなたにとって何が正しくて、何が悪いのか、決めつけることはできません。オンラインでもほかの場所でも、ありのままのあなたを愛してくれる誰かを見つけて。時にあなたの本当の「ファミリー」は必ずしも血縁の家族ではありませんから。自分で見つけることができます」(マルタ&ルカ)

あとがきー北欧で暮らし、感じること

多様性の共存が進んでいる北欧に暮らしていると、「他人との比較ではなく、自分の意思と感情に重きを置くこと」、「自分の幸せは自分が決める」という価値観がいかに社会に根付いているかということを日々実感するとともに、この3年で自身の価値観にも大きな変化が起こったように思います。

 

 

日本で暮らしていたとき、お互いの性質や外見、体型の変動についてのコメントが「親しみを込める意味合いで」頻繁にやりとりされているように感じていました。しかし、これらの多くは、一方的なイメージの押し付け合いに過ぎませんし、振り返ってみれば、決して気持ちの良いものではありませんでした。

 

こちらに来て以来、初めは意識的に、今では自然としなくなったように思います。稀に傷つく発言を受け取ってしまったとしても、気にすることなく、堂々としていられます。北欧の人々から学んだ「世間の目」を気にしない、ある意味「自分のことだけに専念する」カラッとした生き方は社会の風通しの良さを生んでいると思いますし、その空気感は自然と連鎖するものです。

 

今回トピックになっている愛の価値観だけでなく、個人の外見、大切にしていること、信念、好きなものなど……。あらゆることは、他人のそれと比較するような発言(たとえネガティブな意味合いがなくとも)をしたり、させたり、優劣をつけることのできないかけがえのないものであり、それは誰にとっても同じなのです。

 

インタビューをおこなった二組のカップルからもその意思を強く感じました。お互いの多様性を認め合いながらも、自分の幸せに忠実に生きていく。それを実践しているひとたちは自然と他人の価値観も認め、尊重することのできる余裕があると感じています。

Profile

山岸早李/コーディネーター

東京生まれ。美大のデザイン科を卒業後、外資系マーケティング会社を経て20代半ばでノルウェー移住。クリエイティブなアプローチを得意とし、首都オスロを拠点にグラフィックデザイナー、現地コーディネーター、ライターとして活動中。

編集後記

「ポリアモリーはなんでも可能で、なんでも起こりうる。」というマルタさんのお話が印象的でした。深い人間関係を結びたいと思う人と徹底的にコミュニケーションをとって向き合おうとする姿勢は、誰にとっても大切なこと。しかし「言わなくてもわかってもらえる」という甘えから、コミュニケーションを怠ってしまいがちに・・・という経験が、多くの方にあるのではないでしょうか。(私自身、サボってしまいがちです)

マルタさんのお話から、今までもこれからも変わらない、幸せに暮らすためのヒントが得られたように思います。

(未来定番研究所 菊田)

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