もくじ

2019.08.05

ノルウェーで見つけた、自由な「愛」のカタチ。<全2回>

第1回| 「私たちはふたりのママ」

スカンジナビア半島の西側に位置するノルウェーでは、同性愛の差別禁止から約30年かけて異性婚・同性婚の平等の実現に至りました。とりわけ人口64万人の約30%が移民や外国人労働者で構成される首都オスロは、バックグラウンドや価値観を超えて、多種多様な人々が交わるマルチカルチャー(*1)な都市です。毎年初夏に国内最大規模の「プライド・パレード」(*2)が開催され、近年のパレード参加者は5万人、27万人以上の観光客が集まるほどの賑わいを見せています。日本はLGBTQへの取り組みが遅れていると言われる中、ノルウェーのカップルたちはどのように暮らしているのでしょう。3年半にわたってオスロで暮らすコーディネーターの山岸早李さんが、自由なパートナーシップを築くカップルたちを訪ねました。

撮影:Emil Vestre

取材協力:山岸早李

 

*1

マルチカルチャー(Multicultural)

「多文化な」を意味する英単語。異なる文化を持つ集団が存在する社会において、それぞれの集団が対等な立場で扱われるべきだという考え方や政策をマルチカルチュラリズム(Multiculturalism)という。

 

*2

プライド・パレード

世界各地LGBTQに賛同する人たちが集うパレードのこと。アメリカが発祥、ノルウェーでは80年代初頭に初開催された。

そもそも、LGBTQって?

「L」はレズビアン、「G」はゲイ、「B」はバイセクシャル、「T」はトランスジェンダー(身体の性と心の性が一致せず、生まれた時の性別とは異なる性別で生きる人、および生きていこうとする人)の頭文字であることは日本でも浸透しつつありますが、近年では「Q」を含む表記が増えています。Qはクエスチョニング(Questioning)そしてクィア (Queer)ふたつの頭文字をとったもので、前者は「自己のセクシュアリティをひとつに絞ることができない、自分のセクシュアリティをカテゴライズしたくない、形成している途中である」人たちのことを指します。後者は、同性愛者を含むセクシャルマイノリティの総称であり、元来は同性愛者に対する蔑称でしたが、近年では肯定的な意味で用いられるようになりました(Qの代わりに「インターセックス(Intersex)を意味する「I」が用いられることもあります」トランスジェンダーが精神疾患ではないことはWHOが2018年に正式に発表しています。

多様性への理解が進む、北欧の国々。

北欧諸国では、ふたつの性にとらわれず、自己のセクシュアリティをどのように定義するかは個人の自由であり、また同性異性に関わらず愛し合ったり、婚姻関係を結んだりすることが自由に法律で認められています。特にノルウェーでは1981年、世界でもいち早く同性愛に対する差別とセクシャルマイノリティに対するヘイトスピーチが禁止され、1993年にはパートナーシップ法制定、2001年、登録パートナーの一方の実子を養子縁組にすることが可能となりました。今から10年前の2009年には「性別による区別のない」婚姻法をいよいよ導入。これに伴ってパートナーシップ法は廃止。新たな婚姻法では、同性カップルの結婚、養子縁組およびレズビアンカップルの人工授精による子どもを持つ権利が認められました。加えて、2016年には、出生時に登録された性別と異なる性に属すると本人が認識した場合、16歳以上であれば本人が変更申請を行えるようになりました。ノルウェー政府の公式見解によれば「オープンで寛容な、包摂/受容する社会であること」を、国をあげての目標として掲げています。(参考:駐日ノルウェー大使館公式サイト)

撮影:山岸早李

「お互いを想い合って生きて行く、それがノルウェー人である」

現ノルウェー国王であるハーラル5世(82歳)が2016年秋に行った「ノルウェーとはなんでしょうか」という問いかけで始まる名スピーチがあります。その中で「ノルウェー人とは、女の子を愛する女の子であり、男の子を愛する男の子であり、そしてお互いを愛する女の子と男の子です」と声明。また性別のみならず、国籍、外見、宗教観、役職、年齢を超えて、すべてのひとが「お互いを想い合って生きて行く、それがノルウェー人である」と述べ、大きな感動と共感を呼びました。(*3)英翻訳された字幕付きのビデオは、SNSやバイラルメディア等を通して瞬く間にノルウェー国外にも広がり、ノルウェーが多様性をなによりも大切にしている国であることが世界に大きくアピールされました。

 

*3

出典:ノルウェー王室公式サイト

https://www.kongehuset.no/tale.html?tid=137662&sek=26947&scope=0

「私たちはふたりのママ」

写真左から、アンリズさん、シリエさん。/撮影:Emil Vestre

オスロの東部、トイエン(Tøyen)地区でふたりの子どもと暮らす女性カップルを訪ねました。マーケティング会社でPRを務めるシリエ(Silje)さんは、大学職員のパートナー・アンリズ(Ann-Liz)さんと8年の交際を経たのちに結ばれた結婚10年目のカップル。「女性を愛する女性」としての家族にカミングアウトしたのは18歳のときでした。

 

「18歳の時にはじめて女の子を好きになるまで、バイセクシャルかもしれないと思っていたから、カミングアウトは遅めなんです。アーティスト気質でヒッピーな両親だったので(笑)、特に問題なく打ち明けることができました」(シリエ)

 

「一緒にうちでディナーをどう?」この夜、ふるまってくれたのはノルウェー人家庭で根強い人気のタコスでした。ノルウェーでは金曜の夜は、タコス!と決めている人も多く、”tacofredag(タコフライデー)”という言葉が存在するほど。「とにかく簡単でおいしい、子どもたちの大好物。でもうちは肉を食べないからサーモンタコスね」とシリエさん。食事を含む家事の分担はせず、常に手の空いたほうが協力して行うそう。食卓のセッティングから食事中の子どもたちへの配慮、声掛け、片付け、そして食後のコーヒーを淹れる姿まで。そこにあったのは、ただ「仲睦まじい保護者ふたり」と愛くるしい子どもたち。ごくごく自然な光景です。

 

2歳と8歳のお子さんは、同じドナー(精子提供者)から生まれた姉弟で、近所の保育所、小学校に通っています。「上の子は私が、下の子は妻が出産しました。お互いがお互いの”ワイフ”であり、子どもたちは私たち両方をママと呼んでいます」と微笑むシリエさん。ドナーとは直接会ったり、連絡を取ったりすることはできませんが、子どもたちが成人(ノルウェーでは18歳)したときに希望すれば、機関を通して連絡を取り合うことが可能だといいます。

「私たち、”ごく普通の生活”を送っているんです」

では、子どもたちは二人の関係についてどう理解しているのでしょうか?シリエさんはこう話します。

 

「私たちの関係や性的指向について、子どもたちには、まだ事細かくは説明していません。特に下の子はまだ小さいから。上の子からはときどき質問を受けるようになりましたが、ノルウェーにはさまざまなカタチのカップルがいるので、彼女なりに受け止めた上で ”私にはふたりのママがいて、パパはいない”と学校では友だちに説明しているよう。ただし聞かれたことについては、はぐらかしたりすることなく正直に話します。ふたりもママがいることを羨ましく思う同級生もいるとか(笑)」(シリエ)

 

お互いが、男女格差、また性差別のない職場でフルタイムの仕事に就き、育児をするレズビアンカップルである二人。異性愛者カップルとなんら変わらない社会保障を受け、ごく”普通”に生きることができるノルウェーで暮らすことができ、幸運だとシリエさんは話します。

撮影:Emil Vestre

「もし自分の性的指向に自信が持てない、恥ずかしく思っている、カミングアウトすることを恐れているひとがいれば、とにかくひとりでも信頼と安心を寄せ、打ち明けることのできるひとを見つけて、話してみることをすすめます。自分自身に安心感を持つことができれば、あなたをからかう人はいないはずです」

 

さらに、シリエさんは、自らの果たすべき役割について、次のように続けます。

 

「より自由な愛が溢れる社会のために私ができること。それは、同性愛者を含む、かつて”奇妙だとか普通じゃない”と後ろ指されてきた新しい愛のカタチを持つひとびとも異性愛者となんら変わりのない同じ人間なんだ、ということを世の中に見せることじゃないでしょうか。私たち、本当に”ごく普通の生活”を送っているんですよ(笑)」

 

次回は、バイセクシャルであり、ポリアモリーと呼ばれる愛のカタチを結ぶカップルを訪ねます。

Profile

山岸早李/コーディネーター

東京生まれ。美大のデザイン科を卒業後、外資系マーケティング会社を経て20代半ばでノルウェー移住。クリエイティブなアプローチを得意とし、首都オスロを拠点にグラフィックデザイナー、現地コーディネーター、ライターとして活動中。

(続く)

ノルウェーで見つけた、自由な「愛」のカタチ。<全2回>

第1回| 「私たちはふたりのママ」