2022.09.13

K-POPアイドルの「ファンダム」、世界に拡がる新たな「愛で方」。

何かの熱狂的なファンである状態や熱狂的なファンのグループ、またそこから生まれた文化のことを「ファンダム」といいます。まさに愛でる集団ともいえる彼らの動向を探ることで、5年先の愛で方が見えてくるかもしれません。

 

では、あらゆるポップカルチャーの中でも、コロナ禍に特に注目を集めたK-POPは、どのように人々から愛され、どのように世界中で「ファンダム」を形成し、現在も拡大し続けているのでしょうか。

 

ファンカルチャーに詳しい東京都市大学の岡部大介教授と、長年韓国エンタメを追い続けているライターのK-POPゆりこさんに、K-POPファンの「愛で方」について伺いました。

 

(文:松田美保/イラスト:岡田成生)

Profile

岡部大介

東京都市大学メディア情報学科教授。横浜国立大学教育学研究科助手、慶應義塾大学政策・メディア研究科講師(特別研究教員)を経て、2009年4月環境情報学部情報メディア学科専任講師、2012年4月より同准教授、2017年4月より現職。著書に『ファンカルチャーのデザイン』『デザインド・リアリティ』『オタク的想像力のリミット』など。

Profile

K-POPゆりこ

音楽・エンタメライター。専門はK-POPと韓国カルチャー全般。雑誌編集者を経て渡韓、1年半のソウル生活を経験。現在は帰国し、女性誌やニュースメディア等で執筆、ラジオ出演なども行う。

なぜ、K-POPがこれだけ世界で大きなムーブメントになったのか。

F.I.N.編集部

韓国のポップカルチャーと出会ったきっかけを教えてください。

ゆりこ

学生時代に韓国映画にハマったことが最初です。当時は『冬のソナタ』ブーム直後の2005年頃でした。韓国にすごいエンタメを生み出すパワーと才能があると気がついたんです。映画やドラマから主題歌、OST(オリジナルサウンドトラック)を聴き始め、R&Bシンガーのユン・ミレ(TASHA)さんやCLAZZIQUAI PROJECTから、東方神起や少女時代といったK-POPアイドルなどに、どんどんハマっていきました。

岡部

私は大学で教員をしているので、きっかけは学生でした。特にBTSについては、研究室にARMY(BTSのファンの呼称)の大学院生がいて、その影響もありコロナ禍にハマってしまいました。彼らは学術界でも人気があるんですよ。BTSについての国際会議「BTS: A Global Interdisciplinary Conference Project」をご存知でしょうか。フェミニズム、カルチュラルスタディーズなどの文化研究の学者がBTSをテーマに、アイコンとしての彼らが各国でどのように受け入れられているかという研究や、フェミニズム、もしくはレイシズムなどの事柄について、BTSを切り口にディスカッションをしています。ミュージックビデオに手話を取り入れたり、考察を促す要素が配置されていたりと、社会的なムーブメントを率先することもあって、学術界の先生方が反応しているのかもしれません。

ゆりこ

K-POPアイドルが学術界までも巻き込み、世界規模で展開しているのは、BTSが初めてのことでしょうね。このK-POPの強さは、BTSが一代で築いたものではなく、BoAやWonder Girls、PSYなど、以前から世界進出に挑戦してきた先人が築いたという土台があったことも注目すべきポイントです。BTSが素晴らしい曲とパフォーマンスで人気を集め、さらに、あらゆる差別や暴力に反対するような社会的メッセージを発信していたから、さまざまな国籍や人種の方にも広まったのではないかと思います。BTS現象は、長い時間をかけて挑戦したことの結果であり、まだ途中経過であり、これからも続いていくのではないかと思っています。

コロナ禍でも、ファンダムが拡大した秘密はSNS。

F.I.N.編集部

コロナ禍で、ポップカルチャーの多くは停滞を余儀なくされました。そのなかでも、K-POPがファン層を拡大できた理由はなんだと思いますか?

岡部

コロナ禍では、ほとんどのポップカルチャーにおいて活動機会が減少したか、もしくは、ファンが不満に感じる場面が多かったように思います。しかしその中で、K-POPはアーティストとファン、ともにSNSの構造をうまく使っています。コロナ以前から「古参」(昔からのファン)が温めていたオンラインの場所に、コロナ禍で「新規」がアクセスして、ファンダムが一気に拡大したのは間違いありません。

ゆりこ

そうですね。よく「ロックの聖地」「アニメの聖地」と言いますが、K-POPの本拠地は韓国・ソウルでありながら、同時にオンライン上でもあったので、必然的にK-POPとのタッチポイントが増えたのでしょうね。それから韓国の世界戦略は1990年代後半からスタートしたので、20年以上続けた努力がちょうどコロナ禍のタイミングで花開いたこともひとつの理由だと思います。

岡部

コロナ禍で印象的だったのが、BTSがSNSで「BLACK LIVES MATTER」運動への連帯を表明し、ARMYがそれに追随したことです。これはBTSを「愛で」ながら、BTS越しに社会問題に関与していることにもなります。こういった現象があるから学術界も注目しているのだという印象を受けました。

ゆりこ

たしかにBTSをはじめとしてK-POPが、メイクやファッション、考え方など、もはや音楽を超えたものになっているような気がします。

岡部

特にBTSは、ファンにとって世の中を見渡すための行動指針、考え方の拠り所になっている側面はありますね。この現象は、私が知る限り、日本のアイドルを対象とした研究では着目されてこなかったことです。

これからのファンダムは「推し」ながら「学ぶ」。

ゆりこ

K-POPアイドルファンの特徴のひとつが、自分の語学能力や知識を使って情報交換をすることです。映像コンテンツがアップされると、瞬時に各国の語学ができるファンが、自ら「翻訳班」を買って出て、Twitterに翻訳をアップします。自分の能力をみんなのために使い、みんなでアイドルを「愛でよう」というわけです。韓国の私設ファンクラブが、アイドルの名前で募金したり、貧しい人にお米を寄付するボランティアをすることもあります。韓国語で貢ぎものを「チョゴン」というのですが、ライブなどでファンがお米やプレゼントをするんです。それをアーティストの名義で恵まれない人たちに寄付します。アーティストの名前を高めるために、推し活動が社会的貢献になるというのは面白いですよね。

岡部

そうそう、ライブ会場前に米俵がどーんと積まれるんですよね。寄付やボランティアという考え方が社会に根付いている国では起こりやすい現象です。アメリカでは、ハリー・ポッターのファンが、恵まれない国に有益な本を贈る「アクシオ・ブック・ドライブ」という活動があります。「アクシオ(accio)」は作中に出てくる、自分のもとに物体を引き寄せる呪文です。ファン心理としては、ただSNS上で「アクシオ」という言葉をつぶやきたいだけ、というのもあるんですよね。テレビで『天空の城ラピュタ』の放映時に、視聴者が作中のキャラクターと同時にTwitterで「バルス!」とつぶやく「バルス祭り」と同じです。本人が目先の生活を楽しむためのちょっとした営みが、社会貢献や社会参加になっているという構図ですね。

ゆりこ

まさに。ファンがお金を集めて、駅やバス停、バスの車体や、屋外ビジョンに、自作のアイドルの広告を出稿して誕生日をお祝いする「お誕生日広告」も面白いですよね。

岡部

肖像権としてはグレーの部分もあるのですが、ファンが自分たちで集金して広告ビジュアルをクリエイトするというのは、もはや生産者なのか消費者なのか曖昧です。ファンアートもそうですね。デコレーションしたトレカや、ファンが描いたイラストなどをファンの間で交換して楽しむことは、日本の声優ファンコミュニティでも行われていて、アジア特有のものかと思っていたら、BTSのラスベガス公演でも行われていたそうです。

ゆりこ

「マスターさん」と呼ばれる、昔で言う「カメコ(カメラ小僧)」的な存在の方が、撮影した画像をネット上にアップするとファンが反応しますし、ライブ会場で自作のアイテムを配布することをSNSで告知すると、みんながもらいに行くんですよね。もちろん著作権的にはグレーな部分でもありますが。

岡部

公式のアイテムよりマスターさんのアイテムの方がファン目線を理解しているので、みんなが欲しがりますよね。ファンが単なる消費者ではなく、事務所側もある程度、字幕やマスターによる撮影、ファンアートなど、ファンが自走することを許容しているというのもK-POPの特徴です。

ゆりこ

ファンのみんなが広報隊長なのかもしれません。自分の行動によってアーティストの名前を汚さないように律しながら、自由にクリエイトしている。絶妙なバランスを保っているというか。

岡部

最近のバズワードに、「モラル・エコノミー」「ソーシャル・エコノミー」「ギフト・エコノミー」というものがありますが、K-POPファンダムには、それが以前から存在しています。はたして、K-POP業界がどこまで戦略的だったのか、放っておいたからこそ豊かなものが出来たのか、と考えると、日本のコミケもそうですが、後者だと思います。国家戦略としてコンテンツを売り出す戦略上に、あえて穴というかファンがクリエイトできる隙間がある。非常に正しいやり方です。

岡部

それから、私のゼミ生の中にも、BTSのファンの間で議論されているトピックをヒントにゼミの発表を行う学生がいるんですね。日常のものの見方、価値観、考え方にBTSの活動が影響していて、さらに自分の言葉にして他者に発信する。これは「愛でる」を超えています。推し活が、学ぶ喜びにまで及んでいるのは、K-POPファンダムにおける新しい「愛でる」方法なのかもしれません。

ゆりこ

なるほど。韓国語や韓国の文化を学ぶことだけでも、知的好奇心は満たされるけれど、K-POPを通して社会のことやどういう価値観で生きていけたら幸せなのかを学ぶことまで広がっていますね。知識を増やしたり勉強すると、昨日よりも成長できた自分を好きになることができますが、K-POPアイドルという他者を愛でることで、自分のことを好きになり、ファン同士の交流や社会活動で愛がどんどん巡っていく。それがずっと続いていくと理想的です。

岡部

「他者貢献」という意味での学習がアイドルというコンテンツを通じて発生しているのが現代的です。ライブや楽曲にお金を払い資本主義の恩恵を受けつつも、自分で楽しみを作りだして物々交換するというのは、前時代的な贈与経済と現代のハイブリッドです。

 

日本のアニメがもっとアンダーグラウンドだった時代は、アニメ好きが独自に英語字幕をつける「ファンサブ文化」があり、日本人留学生、日本留学経験者や中国系で漢字が読める人が活躍していました。今は著作権が厳しくなり、サブスク配信でもすぐに英語字幕をつけてくれますが。アニメエキスポの参加者にはアジア系の人が多かったんですね。アニメのコスプレによくフィットするということもあって。ファンサブやこういったイベントは、アメリカでマイノリティだったかもしれない彼らがいきいきと愉しめる場でした。K-POPにもそれと近いものを感じていて、韓国から生まれたものがアメリカを席巻し、ついにはホワイトハウスで大統領と会談しました。これはアメリカ在住のアジア人に訴えるところがあったのではと思います。

ゆりこ

アメリカで行われたBTSのコンサートでも、アジア系のARMYの姿が多く見受けられました。そして同時にBTSはどれだけグローバルに活躍しても、韓国のファンも大切にしているし、彼ら自身も「フロムコリア」「フロムアジア」という自負があるのではと思います。

推しを愛することが自分の成長に繋がる、

愛で方の進化形。

F.I.N.編集部

K-POPアイドルのファンダムに見る、5年先の愛で方とは?

ゆりこ

アイドルを推すことで、自分の世界が広がり、学ぶきっかけになり、さらに周囲からも感謝もされて、誇れる自分になる。他者に愛を与え、それが自分に戻ってくる、そのサイクルがどんどん大きくなっていくのではないかと思います。それから、先日デビューしたBTSの後輩、NewJeansの曲もすごく良かった。90年代のR&Bの要素が感じられる部分と、今の時代の新しさが同居していました。そうやって音楽のDNAは変化しながら続いていくと感じました。K-POPを聴いて育った「K-POPネイティブ」も出てきていますし、そこから新しい音楽も生まれて、ファンの「愛で方」も進化していくのではないかと思います。

岡部

アイドルから受け取る歓びと、他者に与えることの歓びがどんどん増していくのが、K-POPファンダムの現在でもあり、未来でもありますね。アイドルにハマったら自分も表現していいし、自分がクリエイトしたものが、誰かの歓びになる。この循環がどこに着地するかわからないけれど、そういった実験をできることが素晴らしい。また、グローバルに展開しているK-POPだから、ニュースにも敏感になりますよね。世界で起きたことが他人事ではなくなります。それに、K-POPファンダムは世代が異なるファンとのコミュニケーションが発生する仕組みなので、いろんな視点に触れる機会が多くなります。K-POP的、あるいはBTS的な視点を通して、価値観や物事の捉え方をアップデートしていくことは、結果的に自分の生活に彩りを与えることに繋がります。それがSNSなどでファンがそれぞれ言語化することで、ファンダムから生み出される循環が未来もずっと続いていくのではないでしょうか。

■F.I.N.編集部が感じた、未来の定番になりそうなポイント

・アイドルを愛でることが、異なる文化への興味や社会課題への意識など、価値観をアップデートする機会になる。

・権利の問題はあるものの、自身のスキルを活かして自由に創作しながらアイドルを愛でることが社会貢献や業界の活性につながる。

・「推し」を愛でること自体の歓びに加え、それを他者に与えることの歓びも得ることで自身を誇れるようになる循環が生まれる。

【編集後記】

ファンが自身のスキルを活かした創作を許容することが業界の活性化につながっている、というお話は、日本のエンタメ業界しか知らないわたしにとってとても衝撃的でした。

個人が自由に発信できる現代において、それを規制するのではなく、各自の創造性に任せてアイドルの価値を拡張してもらうというK-POP業界の方針は、ファン自身、他のファン、業界の三方よしの実績も相まって、アイドルの推し活の領域を超えて影響を及ぼしていくのではないでしょうか。推しを愛でることが社会をハッピーにするなんて、こんな素晴らしい未来はありません。

(未来定番研究所 中島)