地元の見る目を変えた47人。
2021.03.27
かつては「静かな空間で本を借り、読書をする場所」というイメージが色濃かった図書館。しかし近年では、地域コミュニティの醸成や課題解決など、まちづくりの拠点としての新しい機能を持つ施設が日本各地に誕生しています。そのうちの一つが、宮崎県にある都城市立図書館です。季節や時流に応じて、スタッフによるユニークな分類法がなされた「見せる」書架や、館内で得たさまざまな学びを形にするための「ファッションラボ」、表現することを支えるためのプレススタジオなど、利用者の感性をくすぐる独自の仕掛けが話題を集め、開館からわずか1年で述べ100万人が訪れました。今回は館長を務める井上康志さんに、図書館づくりから考える地域の公共空間の未来について話を伺いました。
ショッピングモールのDNAを継ぐ、
あたらしい地域図書館。
かつては大型ショッピングモールだった建物がリノベーションされて生まれた都城市立図書館は、1階フロアは黒、2階フロアは白を基調としたシックでモダンな空間が広がり、まるでホテルのラウンジのような快適で洗練されたつくりになっています。
施設の立つエリアは、20年ほど前までは都城市の中心街として賑わっていました。しかし時代の流れとともに人の行き来が減退。施設自体もショッピングモールとしての経営が立ち行かなくなり、後に地元の商工会議所が買い取り、2016年に市が譲り受けました。
「街の中心部をもう一度人が集まる場所につくり直したい、と都城市役所が声をあげたことが、当施設ができたきっかけです。地域に点在していた主要な公共機関を束ねて、今の若い子育て世代がゆっくり過ごせる場所を作ろうという試みでした。そうして、子育て支援施設や保健センター、イベント広場、そしてこの都城市立図書館などで構成される中心市街地の複合施設『Mallmall(まるまる)』がオープンしました」。
晴れて開業したのは2018年4月のこと。催し用のイベントホールや館内を移動するためのエレベーターホールは、あえてかつての雰囲気を残した形にしているそう。当時を知る地元の方からは、「懐かしい」という声も。
「当時のDNAを引き継いでいる部分でいうと、あえて『私語厳禁』などのルールを設けておらず、多少の会話は許容範囲としています。赤ちゃんの泣き声や子供たちが走る音なども、館内スタッフから厳しく注意することなどはしていません。もともとは地域の人が楽しく行き交う商業施設として使われていた場所だからこそ、可能な限り一人ひとりがのびのびと自由に過ごすことができるような、この場所らしさを引き継いだ図書館づくりを目指しています」。
学んで、感じて、形にできる。
一人ひとりの感性を育てる図書館。
都城市立図書館には、さまざまな本やあたらしい知識との出合いを偶発させるためのユニークな仕掛けが数多く存在しています。まずメインエントランス付近にあるのが「インデックス[さくいん]コーナー」。都城市立図書館オリジナルの索引機能です。「アウトドア」や「おみやげ」「消しゴムはんこ」などのあいうえお順に並んだインデックスワードごとにQRコードが付いたスタンプが並べられており、来館者は気になった言葉を選び、ノートやメモ用紙などに自由に押すことが可能。QRコードを館内のタブレット端末や、手持ちのスマートフォンなどで読み込むと、そのキーワードの説明や関連する本の情報が一覧で表示される仕組みになっています。
また、本の並べ方のユニークさも、都城市立図書館らしさのひとつ。この図書館では、一般的な書架の配列方法である「日本十進分類法(NDC)」のみならず、季節の旬なトピック別で分類分け・セレクトされた独自の並べ方を採用している書架が館内のあちこちに置かれています。それらの“自由書架”には九州産クスノキを使った大中小、およそ800個の木箱が使用されており、ボルト締めで最大5段まで積み上げ可能な仕様になっているため、フロアや本のジャンルによってさまざまな見せ方の書架をつくることが可能です。スタッフが自由に選んだおすすめの本を木箱を使って面出しして並べることで、ただ館内を歩くだけで興味・関心のある本が勝手に目に入る仕組みをつくっています。都城市立図書館が大切にしている本の並べ方や見せ方について、井上さんは次のように話します。
「さまざまな特集コーナーがこの図書館にはありますが、その内容はすべて、館内スタッフの感性に委ねていまして。並べ方も、入れ替え頻度もすべて自由なので、毎日どんどん本の並びが入れ替わります。まるで本が走り回っているような。さまざまな人の感覚によって、変化し続けていく空間になっているんです。そういう自由さを、この図書館では大事にしています」。
さらには本だけではなく、表現することを楽しむための設備があるのもこの図書館の大きな特徴。例えば、メインエントランス付近にある「プレススタジオ」は、編集者、デザイナー、クリエイター、ライターなどの専属スタッフが、近隣地域に取材に出かけ、編集・印刷して冊子等を制作する際の拠点となっています。成果品を展示することで、地域の資料を自ら形にし、ストックしていこうという試みです。
また館内には、つくることを楽しむための「ファッションラボ」も併設されています。これは「ファッションブランドのデザインが生み出されていく研究工房」というコンセプトでつくられたスペースで、主にティーンズを対象にワークショップを開催しています。
これらのさまざまな設備を館内に取り入れたのはどのような狙いがあったのでしょうか。この施設が大切にしている空間づくりのコンセプトをもとに、教えていただきました。
「当館は、市民にとっての『一人ひとりの大事なものを見つけるための場所』でありたいと考えています。本を貸したり読んだりするだけではなく、それぞれが感じたことを表現することもまた、大事なものを見つける手段になると思うんです。学んで、何かを感じて、そして形にしてもらう。それらのすべての体験ができるということが最大の特徴です」。
“街の交差点”としての図書館が、
あたらしい地域の未来をつくっていく。
都城市の方々にとって、この図書館はひとつの“居場所”として根付いていると井上さんは話します。
「3、4ヶ月ほど前、館内にいたとある高校生と話す機会がありました。その時、自分が座っていた場所を指差しながら『ここ、僕の席なんです』と教えてくれたんです。その時、この図書館が地域の子どもたちの居場所のひとつとして機能しているとわかり、嬉しかったですね。今って、街の中に自分の居場所を見つけるのがなかなか難しい時代だと思うんです。ショッピングモールやレストラン、コンビニなどさまざまな建物が街中にはありますが、基本的に長居ができない。そんな中で、うちの図書館は利用者の平均滞在時間がすごく長いんです。例えば中高生の試験期間となると、朝早くから来て、夜の閉館時間まで滞在する学生さんたちが大勢います。あとは小さいお子さん連れのお母さんも、ゆっくり過ごしていく人が多いですね。隣の子育て支援施設で遊んだ後、図書館で本を借りて読んでから帰る、というような。地域の方々が、心を落ち着かせて自由に過ごすことができる空間でありたいなと思います」。
この都城市立図書館以外にも、全国各地にはさまざまな地域図書館が存在します。地域図書館がより地域の暮らしに根付き、利用者にとっての“居場所”となれるような図書館になるためには、今後どのような試みが必要なのでしょうか。
「地域の中の立ち位置に沿って、それぞれできることがあると思います。例えば、当館にはおよそ49万冊の本がありますが、2、3万冊しかない小さな図書館もありますよね。それぞれの図書館で、その場所でしかできない、市民のことを考えた独自の取り組みをしたら良いと思うんです。例えば、宮崎県には椎葉村という2,500人くらいの人達が住んでいる秘境があります。そこに最近、小さな〈ぶん文Bun〉という村の図書館ができたんです。が、なんとその図書館の真ん中には本棚でできた滑り台があるんです。図書館でありながら、子どもたちの遊び場にもなっているというわけです。こういう遊び心って、すごく素敵だと思います。地域の人達がアイデアを出し合いながら、手探りで作っていけることが地域図書館ならではの面白いところなのではないかと思いますね」。
最後に、井上さんが考える、5年先の未来における地域の公共空間が果たすべき役割について教えていただきました。
「今よりさらに、街の一部として機能していくようになったらいいなと思います。例えば、都城市立図書館は、東側と西側で入り口が2つあるので、人の行き交いがさまざまな方向に混在していて。人と人がすれ違うたびに『お久しぶりです』と、ちょっとした挨拶があちこちで聞こえる。これはまるで、街の中の交差点のような場所だなと。そんな風に地域の暮らしに溶け込み、そして人と人を繋ぐ場所として機能するような街中の公共施設が今後もっと増えていったら良いなと思いますね。館内で出会った人にお辞儀や挨拶をしたり、そのまま世間話をしたり。そういう地域の人とのふれ合いが自然にできる場所が各地にできることで、新しいコミュニティが生まれ、街がより元気になるのではないでしょうか」。
市民一人ひとりの “居場所”となるような公共施設こそが、5年先の豊かで暮らしやすい地域を支える大切な要素になるのかもしれません。
〈都城市立図書館〉
井上康志さん
大学卒業後、民間勤務を経て1981年に宮崎県庁入り。都市計画課長などを経て、2012年に県土整備部次長(都市計画・建築担当)を務める。2014年退職。そして2018年、市立図書館の指定管理者である株式会社ヴィアックスに入社し、都城市立図書館館長に就任。
編集後記
静かに本を読む場所というのが、当たり前だと思っていました。ですが、図書館をコミュニティ形成の一つの機能として考えると、都城市のようにもっと自由で楽しめる場所になることに気がつくことができた取材でした。人と人が交流し新しいアイデアが生まれ、更に進化していく、そんな可能性を感じました。
(未来定番研究所 窪)
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