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2023.06.30

地元の見る目を変えた47人。

第15回| 地域の人と技能実習生をつなぐ、高知県土佐市「わくせいプロジェクト」阿部航太さん、美香さん。

「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。

 

第15回にご登場いただくのは、高知県土佐市に「地域おこし協力隊」として移住し、技能実習生と地域の人々が交流する場をつくるべく奮闘している、阿部航太さん、児玉(阿部)美香さん。もともと東京と名古屋という別々の土地で、デザインやまちづくりの仕事に励んでいたお二人。結婚を機にともに暮らす場所を探るなかで、国際交流のミッションがある土佐市に興味を持ちました。移住から1年が経ち、街や人々、そして自身の生活はどのように変化したか、お話を伺います。

 

(文:大芦実穂)

Profile

阿部航太さん

1986年生まれ、埼玉県出身。ロンドン芸術大学卒業後、廣村デザイン事務所入社。2018年に退社後、「デザイン・文化人類学」を指針にフリーランスとして活動を開始。2018年から2019年までブラジルのサンパウロに滞在し、現地の路上文化についてのプロジェクトを実施。帰国後、東京にて海外に(も)ルーツを持つ人たちと協働するアートプロジェクトを実施するなかで技能実習生の存在を知る。土佐市が掲げた技能実習生に関わる国際交流のミッションに興味を持ち、パートナーと共に移住。2022年4月から土佐市で活動を始める。

Profile

児玉(阿部)美香さん

1985年生まれ、三重県出身。アメリカ・ミズーリ州にあるリンデンウッド大学を卒業後、あいちトリエンナーレのスタッフとして働きはじめる。アーティストのサポートと展覧会の運営を行うなかで、まちなかで人と人が関わりながら進んでいくプロジェクトに興味を持つ。2014年から2022年まで、名古屋市港区にある港まちづくり協議会にて勤務。まちの人の話に出てくる外国人住民の話をきっかけに、地域に暮らす外国人の存在を意識。2022年4月にパートナーと土佐市に移住し、地域おこし協力隊としての活動を始める。

高知県土佐市が抱える課題は、
外国人技能実習生と地元住民の交流

四国の南部に位置する高知県は、坂本龍馬の出生地としても有名。航太さんと美香さんが「地域おこし協力隊」として暮らす土佐市は、県庁所在地がある高知市から車で30分ほどのところにあります。高知県の34市町村のうち5番目に人口の多い町で、海や山、川に囲まれながらも居住に適した環境が整っており、暮らしやすい街だと航太さんは言います。

高知県土佐市の街並み。

航太さんと美香さんが土佐市に越してきたのは2022年3月。航太さんは東京でデザインの仕事に従事し、美香さんは名古屋でまちづくりのプロジェクトに参画していました。結婚をきっかけに二人で住む場所を探すなか、目を留めたのが、土佐市が掲げるミッション「国際交流:外国からの技能実習生と地域住民との交流づくり」。「地域おこし協力隊」として、土佐市に暮らす外国人技能実習生と地域住民の交流を促進してほしいというものでした。

 

「実際、昔住んでいた名古屋などでも、自転車に乗る実習生らしき人を見かけていましたが、彼らがどんな暮らしをしているのかまでは見えてきませんでした。コンビニで見かけるあの人はどこで暮らしているんだろう、そんなところから実習生には以前から興味を持っていました。

 

土佐市には現在*、401人の外国籍の方が住んでいて、総人口26,418人に対しての比率は1.52%。そのうち技能実習生は186人です。土佐市の実習生たちは、農業や漁業などの第一次産業をメインに、電子部品工場や惣菜工場などで働いています。実はこの数字、全国的に見ても低い割合。高知県全体でも外国人住民の人口は4,832人で、全国で46位**。ただし、2016年から2020年の間に約2倍となっていて、ハイペースな増加が見られるとのこと。
*2020年5月末時点のデータ/**2020年末時点のデータ
(『わくせい PROJECT in 土佐市 2022レポート』より)

 

全国的にみても決して外国人住民の人口が多いわけでもない土佐市が、このようなミッションを掲げたのには理由があります。数年前、母国ではめずらしい雪を見た実習生が、外で遊んでいる小学生に声をかけ、雪で遊んでいる様子を写真に収めたようなのです。実習生のほうに悪気はなかったのですが、小学生は知らない外国人に声をかけられて驚き、警察が呼ばれる騒ぎになってしまったそうです。実習生と地域住民の交流がないから起きてしまったのかもしれないと、市役所の方が言っていました」(美香さん)

みんなの交流の場をつくる

「わくせいプロジェクト」が始動

これまでも多文化共生などのプロジェクトに関わってきた二人は、かねてから技能実習生に関する社会問題に興味を持っていました。しかし都会だと、地方に比べさまざまな人々が暮らすため、「技能実習生」という存在だけをクリアに見ることは難しかったと言います。実習生のことを考えるのであれば地方に行かなくてはと考えていたときに、土佐市の地域おこし協力隊の募集を発見。すぐに応募することになりました。

 

「移住する際に僕らが目標と据えたのは、デザイナーがまちづくりに関わる際にありがちな、地域を表面的に“リブランディング”する広告的な手法ではないプロジェクトの在り方でした。地域の人と関わり、共に時間をかけてひとつの場をつくることを模索してみたいと思いました。」(航太さん)

 

「そういった意味でも、技能実習生の存在をきっかけに改めて地域のことを考え、場を通してそれぞれの関係がどう変わっていくかを時間をかけて見ていきたいと思い、土佐市に住まいを決めました」(美香さん)

「わくせいプロジェクト」のメインビジュアル。製作はイラストレーターの山口洋佑氏に依頼した。

そうして移住を果たした航太さんと美香さんは、これまでの経験を生かし、「わくせいプロジェクト」をスタート。プロジェクト名には、世界各国、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集い、ひとつの惑星のようになってほしい、という願いが込められています。まずは、技能実習生と地域の方、中高生などが自由に集ったり、交流したりできる、「わくせい」という名の拠点づくりを考えているようです。

「わくせい」の計画図。

「交流自体が目的ではなく、それぞれがやりたいことや学びたいことなどがあったうえで集まり、お互いをなんとなく認識していたり、たまに顔を合わせて話したり。そんな状態をつくれたらいいなと考えています。

 

そこで私たちが計画しているのが、施設内に『多国籍スパイスショップ』と『デザインの学校』を設け、かつ『コミュニティスペース』としても機能するというもの。

 

多国籍スパイスショップには、実習生たちの慣れ親しんだ調味料やスナック菓子などを置くことを想定しています。土佐市にはベトナム料理屋やインドネシア料理屋なども無く、かつ実習生の足は自転車なので、そのような店がある高知市の中心部へは頻繁に行けません。彼らが気軽にほしい食材を手に入れられる場所にしたいですね。また、地域の人たちでもベトナム料理やインドネシア料理に馴染みがない方はいると思うので、実習生たちと一緒に料理をつくるイベントなどもあったら楽しそうだなと思います。

 

デザインの学校では、主に地元の中高生などに来てもらえたらいいなと思い考えました。僕が唯一教えられるものというのもありますが、デザインを学ぶことは人生のいろんな場面で役立つこともあると思います。それから、若いうちにいろんな世界の方と触れ合う機会というのは大事なのではないかと」(航太さん)

「トライアルで実施した「デザインの学校」では、さまざまなルーツを持つ人たちが“つくる”ことを通じて接点を持ってほしいという思いから、リソグラフプリンターをつかったZINEのワークショップ「International ZINE Exchange」を開催。

「なぜ若い人にフォーカスを当てたかというと、技能実習生は20代の若い方が多いのですが、日常生活で日本の若い人に出会う機会があまりありません。やはり同年代の人たちと話すのは楽しいですから」(航太さん)

技能実習生が直面する課題と

これからの異文化交流

学生時代、航太さんはロンドンの芸術大学で学び、その後ブラジル・サンパウロに現地の路上文化についてのプロジェクトで滞在。美香さんもアメリカの大学を卒業するなど、二人とも海外に身を置いた経験がありました。このことが、技能実習生に興味を持つきっかけになったと航太さん。

 

「イギリスやブラジルでは、本当にさまざまなルーツをもつ人たちが共生しており、その環境が新しい文化を生み出していました。また、それらの国はもともと移民として外国人を受け入れてきた歴史があり、日本のような技能実習制度は存在しません。日本の技能実習制度は移民の受け入れではなく、『実習を通して技術を身につけて、自国で生かしてください』という建前があります。ただ実際には、労働力確保が目的となっていて、その歪みから実習生たちに皺寄せがいくという現実があり、まだまだ多くの課題があります」(航太さん)

 

今、直面している課題は、技能実習生たちの地域社会からの孤立化ということでした。寮と職場の往復で日々が過ぎ、そのなかで地域との接点はわずかなようです。また、農業に従事している実習生は、休みが不定期だったり、農繁期は働き詰めで時間がなかったりして、地域活動に関わることが難しい状態にある。以前イベントを実施した際も、なかなか時間が合わずに参加が叶わなかった方もいて、やはりイベントのように単発ではなく、いつでも都合のいいときに訪れられる“場所”が必要だと痛感したそう。

2022年7月には神戸大学の教授と留学生のゼミ生、通訳を招いて勉強会を実施。「技能実習制度の仕組みと課題を理解しよう」をテーマに、技能実習制度と関わりのある、または今後関わる可能性のあるさまざまな部署の市職員の方々を参加者として招いた。

納得のいく場所探しという点で、難航もしているようですが、これからどんなことをやってみたいか伺いました。

 

「実習生の出身国で制作された映画の上映会をやってみたいです。例えば、インドネシアの映画を上映したら、その国の歴史や言葉、文化などを考えるきっかけになると思うんです。地域住民の方や、他の実習生に観てもらって、それぞれが異文化に触れて、何かを考えるきっかけになったらいいですね。映画のほかにも、文学とか音楽などもやってみたいです」(航太さん)

 

「多国籍スパイスショップのアドバイザリーを実習生たちにお願いしてみたいです。スパイスや調味料などを仕入れるときも、いくつかブランドなどもあるので、どれがいいかわかりません。実習生たちにおすすめの商品や使い方を聞けたらいいなと思います。実習生等にも何かしらの役割を担ってもらって、一緒に場をつくってもらえたら私たちも心強いし、たくさん学ばせてもらうところがあると思っています。ただの“お客さん”にしない方法というのは考えているところです」(美香さん)

活動を通して仲良くなった実習生たち。

技能実習生は最長で5年の滞在が可能。その5年後、土佐市がどんな町になっているといいと思いますか?という質問に、次のように答えてくれました。

 

「まだ大きな変化はないのですが、最近一緒に考えてくれる人が増えてきた気がしてうれしいです。僕たちのような取り組みは、変化を実感するまでに5年はかかると思うんです。地道に向き合い続けて、いろいろなことに対して寛容な地域になっているといいなと思います。実習生とすれ違ったら気軽にあいさつをするとか。『知らないから怖い』と避けてしまうのではなくて。地域の人たちや技能実習生たちが、何かあっても、何もなくても、ふらっと立ち寄れるような、『わくせい』がある。そんな場所になったらうれしいですね」(航太さん)

 

「地域の人と実習生の関わりが増えていき、ご近所さんのような存在として声をかけあったりして、両者にとってここでの暮らしが楽しいと感じる瞬間が増えていくといいなと思います」(美香さん)

高知県土佐市の地域おこし協力隊として活動をはじめてから半年後の2022年10月に、「外国からの技能実習生と地域住民との交流づくり」というミッションのために何ができるかをリサーチした半年間の報告書を発行。Web上でも閲覧できる。

わくせいプロジェクト

【編集後記】

技能実習生の存在については、時折ニュースなどで報道されますが、その多くは受け入れ拡大に向けた制度面などに関する話であり、阿部さんもおっしゃるとおり彼ら、彼女らはどこから来ていて、どこで働いているのかなどを知る機会は極めて少ないということに改めて気づきました。今後、技能実習生の増加が予想される中で、地域の方々と技能実習生が自然に関わり合える機会や場所が益々必要になっていくのだと感じました。

約1年前にスタートしたプロジェクトですが、どんどんと一緒に考えてくれる仲間も増えてきているとのことで更に活気づいていくことが期待されています。この取り組みが続いていくことで地域全体が活気に満ち、相互に学び合う機会も次第に増えていくのではないでしょうか。

(未来定番研究所 榎)

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