2022.12.19

47人に聞く、地元の見る目を変えた人。

第8回| 地域に開かれた場を弘前に。〈HIROSAKI ORANDO〉石山紗希さん。

「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。

 

第8回にご登場いただくのは、青森県弘前市の〈ORANDO PLUS〉(オランド プラス)代表・石山紗希さん。カフェ&バー、ギャラリー、ゲストハウスからなる小さな複合施設「HIROSAKI ORANDO(ヒロサキ オランド)」を運営し、地域に開かれた場づくりをしながら、弘前市を拠点にチャレンジする人たちや、地域・地場産業をつなぐコーディネートを行っています。

 

青年海外協力隊として活動された経験も持ち、海外へ目が向いていた石山さんが、地元へ戻った理由とは? そして、あらためて感じた地域の魅力についても伺います。

 

(文:栗本千尋)

Profile

石山紗希さん

〈ORANDO PLUS〉代表。

青森県青森市出身。弘前大学卒業後、青年海外協力隊としてアフリカのガボン共和国へ渡り、2年間、現地で農業支援を行う。帰国後は東京のNPOに3年間勤務したのち、弘前市の地域おこし協力隊としてUターン。Next Commons Labから委託を受け「HIROSAKI ORANDO」の立ち上げに携わる。2022年、〈ORANDO PLUS〉を設立。

https://www.hirosakiorando.com/

2年間の海外経験を通して気づいた、

自分のアイデンティティのもと。

パソコンを立ち上げて作業するワーカーに、勉強する学生、黙々と読書する人。常連同士なのか、別々にやってきて何やら話しはじめた人たちーー。ガラス張りになったファサードから中を覗き込むと、色々な世代の人たちが、自由に過ごしているのがわかります。

 

ここ「HIROSAKI ORAND」は、青森県弘前市の弘前城近くにある小さな複合施設。1階にカフェ&バーとギャラリー、2階には今年オープンしたばかりのゲストハウスがあります。

 

施設を運営するのは、4年前にUターンしてきた〈ORANDO PLUS〉代表の石山紗希さん。青森市出身の石山さんですが、弘前との縁ができたきっかけは弘前大学へ進学したこと。大学生の当時からまちづくりに興味があったのかと思いきや、「実は全然そんなことなくて、海外志向でした」と笑います。

 

「大学のゼミの先生の紹介で、青年海外協力隊をしていたOBと出会いました。その方がJICA(国際協力機構)の農業支援プログラムでシリアに行く機会があるのことで、私たち学生も連れていってくれたんです。このときの体験を通し、日本の会社で働くよりも、青年海外協力隊として海外で農業しているイメージが湧き、新卒で青年海外協力隊になりました」

「HIROSAKI ORANDO」に置かれていた、JICA海外協力隊のチラシ

日本での農業の実地研修や語学研修などの派遣前訓練を経て、2012年9月末にアフリカのガボン共和国へ。石山さんは人口2000人ほどの小さなまちへ派遣され、「農業の活性化」をミッションに、近隣の小学校や病院で野菜を育てたり、住民の家庭菜園をサポートしたりしました。

 

ガボンという日本とは何もかも違う国で過ごした2年間、日常的に自分のアイデンティティを意識する場面に遭遇した、と石山さんは振り返ります。

 

「ガボンには47の民族があり、彼らは自分の民族についての話を日常的にしていたんです。民族としてのアイデンティティを持っている人たちを前に、果たして自分は何者なんだろうかと、自分の輪郭がぼやけるように感じました」

石山さんは、自分自身と向き合ううちに、日本人であること、そして日本のなかでも青森という、世界的に見たらマイノリティなまちに生まれ育ったことを意識するようになったといいます。それと同時に、青森についての課題にもぶちあたったのです。

 

「青森の外に出たとき、色々な日本人と出会う機会がありました。協力隊員は、聞いたこともないような国やまちに行っているのですが、『青森には行ったことがない』という人が多くて、こんなに知られていないんだとすごく悔しい気持ちになりました。

 

海外や途上国の支援をする前に、自分の地元である青森を盛り上げる仕事をしなければと思うようになったんです」

魅力的な地域には、

ハブとなる人の存在がある。

2014年9月に帰国した石山さんは、〈NPO法人ETIC.〉(エティック)へ参加。起業家の育成や、学生の実践型インターンシップなどをコーディネートしている団体です。

 

「求人の募集要項に『数年働いたあと、自分の地域で何かしたいと思っている人』と書かれていたので、ここで修行を積みながら色々な地域の方たちと知り合い、3年勤めたら青森へ帰ることを目標としました。私が所属したローカルイノベーション事業部では、地域の人たちと連携したプログラムやイベントを企画しました」

 

地域の中小企業を対象としたインターンシッププロジェクトや、UJIターン希望者を集めたイベント、学生の面談まで、石山さんの活動は多岐にわたりました。

「全国各地を視察した際に、先進的な取り組みをしている地域には、必ずハブになる人の存在が。また、地域コーディネーターという仕事を知り、私も青森へ帰ったら、企業や自治体と人材をつなぐような仕事をしたいと考えるようになりました」

 

こうして、当初予定していた3年間を勤めあげ、2018年4月に弘前市の地域おこし協力隊としてUターン。企業や自治体と連携してローカルインキュベーションを実践する〈一般社団法人Next Commons Lab〉(以下、NCL)から委託を受け、地域コーディネーターとしての役割を担うように。

 

弘前の地域資源や地域課題に対してプロジェクトをつくり、起業家をサポートするような取り組みで、石山さんはそのコーディネートや事務局の立ち上げなどを行いました。

「HIROSAKI ORANDO」に集まる人のチャレンジを紹介するボード

「弘前には面白い取り組みをしている人たちが多いのに、横のつながりがなくてバラバラしていて。それぞれがまちのために頑張っているのに、連携できていないから『点』に見えてしまっていたんです。なので、弘前にいる人たち同士をつなぐこともとても大事だと感じています」

どんな人がいて、どんな暮らしがあるのか、

今の弘前を知るための場所。

イベントスペースとしても利用される、1階奥のギャラリー

「『HIROSAKI ORANDO』は、そうした『点』だった人々をつなぐための開かれた場として2019年の4月にオープンしました。『ORANDO』とは、弘前の言葉で『おらんど=私たち』という意味です」。

 

かつてセレモニーホールだった建物を使い、移住して起業を目指す人たちが集えるような場所、いわゆるサードプレイス的な存在として誕生。1年目はカフェスペース、2年目に奥のギャラリー、今年はゲストハウスと、段階的に進んでいきました。

 

一見、他の地域にもありそうなものですが、この施設がユニークなのは、「箱モノ」としての機能だけでなく、人同士をつないだり、地域でチャレンジする人を応援したりといった、コーディネート機能を持っていること。

 

当初は時間制でコワーキングスペースのような運営をしていたそうですが、一般的なカフェと同じスタイルで、予約なしでもドリンクや食事を注文すれば、誰でも自由に利用できるように。カフェスペースでは地元の人たちが交流できるようなイベントも企画されています。

地元の人による「日替わりバーテンダー」は、その日、お店に立つバーテンダーに会いたい人たちが集まって交流する人気イベント

イベントを始めたきっかけは、実は石山さんの課題意識から生まれたとか。

 

「東京にいた頃、インターネットを通じてリサーチしても、弘前で目立つ取り組みをされている方の情報しかヒットしませんでした。弘前にはどんな人がいて、どんな仕事をして、どんな暮らしをしているのかという情報にアプローチするのが大変だったんです。

 

そこで、市井の人同士をつなぐ場としての機能を持たせたほか、イベントページや、レポート記事を作成して、『弘前にはこういう人がいる』ということを発信しています。こうすることでより今の弘前がどんなまちで、どんな人たちがいるのかを広く伝えていき、弘前のまちから循環を生み出したいと思っています」

今年オープンしたゲストハウス「ORANDOの二階」

そして今年、2階にはゲストハウスをオープンしました。クラウドファンディングで400万円の目標を大幅に上回る、560万円以上の支援が集まったそう。

 

「『ORANDO』を続けるなかで、インターン生や学生、アーティストなどが訪れる機会が多いので、宿泊機能があるともっとできることが増えそうで、ニーズもありそうだと考えました。きちんと事業化する覚悟を決めて、今年2月に会社をつくりました」

りんご箱を活用して誕生したゲストハウス

りんご箱を積み重ねた二段ベッドがある宿泊スペース

石山さんが考える、

「お金でははかれない豊かさ」とは。

地域の課題解決を目的に開業した「HIROSAKI ORANDO」。オープンからの3年でさまざまなイベントやプロジェクトが誕生し、その人たちがつながることで、さらに大きなうねりとなっています。

 

「『ORANDOに来れば誰かに会える』とか、『おもしろい人たちが集まっている』と言われると嬉しいですね。初対面で『名前は知っていて、会いたいと思っていた人と会えた』というシチュエーションも見かけます。私がいるときは、できるだけ積極的に紹介しています」

 

人と人とをつないで、いろんな人たちが化学反応を起こしていくのを見守っている石山さん。地域での関係性を築くうえで心がけているのは、どんなことでしょうか。 「同じ時間を過ごすことです。青年海外協力隊としてガボンへ派遣された時、お酒を飲んでばかりで仕事に来ない人がいました。その行動の背景にあることを理解しようと、一緒に一日過ごしてみたんです。すると、ただイライラするだけではなく、相手の尊敬できるポイントも見つけることができました。

 

私の場合はお酒の席が好きなので、弘前に帰ってからは、一緒に飲み交わしながら時間を過ごすことでコミュニケーションをとっています。そうしていたら、いつの間にか応援してくれる方が増えたように感じます」

カウンターの横に設置されたブラックボードに貼り出された「恩送りカード」。事前に料金を支払い、その金額とメッセージを添えて貼っておくと、学生はそのカードを受け取り、金額分の飲み物や食べ物を注文できる

右下のノートには、恩送りカード利用者からのメッセージが

地方都市の課題である、人口減少。それは弘前市も例外ではなく、人口が減り続けています。「私が越してきた4年前は17万4000人くらいいたのですが、今は16万7000人くらいまで減っているんです」と、石山さん。しかしながら、悲観しているわけではなく、また、必ずしも人口を増やしたいというわけではないと続けます。

 

「まずは、ここで暮らしている人たちが楽しく幸せにやりたいことに挑戦できるのが大切。それってお金じゃはかれない豊かさだと思うんです。これまでの活動を通して、持続可能なまちづくりには、チャレンジできる環境と、地域に根ざして活動する人が大事だと感じます。私はコーディネーターとして、チャレンジする人のサポートをしていきたい。

 

自分自身の経験を振り返ると、学生時代に出会った大人たちからの影響も大きかったので、今度は私が応援する立場になって、『ORANDO』に来ると誰かがいるとか、背中を押してくれるとか。そういう存在としてあり続けたいですね」

【編集後記】

青森市、東京、アフリカを経て、石山さんが様々な環境で見て感じたものが、この弘前で活かされているようでした。 「ORANDO」のように、様々な人たちと、交流できるような、開かれた場にいることで、自分のアイデンティティを見出し発信するきっかけになりそうです。

まちづくりと聞くと、大きな施設や公共事業の必要性を想像しやすいですが、その前に、人の力もとても大切だと思います。それぞれのアイデンティティを分かち合い、自分たちの意見を主張できるそんな風土が、誇れる地元になるはじまりのように思えます。

(未来定番研究所 窪)

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