2020.07.27

〈6curryKITCHEN〉に学ぶ、「サードコミュニティ」としての新たな飲食店のカタチ。

いまや、飲食店が果たすべき役割は、料理の提供だけにとどまりません。普段はお客さんとして通っていた人が「1日店長」としてカウンターに立つ。ある日は、メンバーそれぞれの特技を活かしたワークショップを行う「場」になる。そしてまたある日は、漫画や登山など共通する趣味で集まる「部室」にも。コミュニティブランド〈6curry〉は、さまざまな機能を持つ拠点〈6curryKITCHEN〉を恵比寿と渋谷に構え、都内の働く20〜30代を中心に話題を集めています。そこで、ブランドデザイナーであるYOPPYさんに、〈6curryKITCHEN〉によって実現した現代の「サードコミュニティ」について教えていただきました。

(撮影:小野真太郎)

「カップカレー」を売るゴーストレストランから、

“みんなを混ぜる”カレーコミュニティへ。

野菜たっぷり、ヘルシーなカップカレーは発売当初からSNSを中心に大きな話題に。

カレーを中心に新しいコミュニティを生み出していくブランド〈6curry〉。2017年6月に、カレー好きのクリエイターたちが集まり、ラーメンや寿司に並ぶ日本のソウルフード、カレーで革命的なことを起こそうとスタートしました。

「その頃は、“インスタ映え”という言葉が登場したばかりで、パフェやスターバックスのフラペチーノのように、健康に気遣う女性も食べたくなるような、可愛くて美味しいカレーとはどんなものだろうと考えて、カップカレーという商品を開発しました。野菜やライス、カレールーが層になっています」

カラフルな野菜がたっぷりでヘルシー。気軽に食べられて、忙しい働く女性がオフィスで食べても匂いがあまり気にならないカップカレーは、1日100食を販売するほどのヒット商品となりました。

「店舗を構えると固定費がかかりリスクも高いので、販売はUber Eatsのみでしたが、それが、店舗をもたない“ゴーストレストラン”ということで話題になりました。新しいスタイルのカレーとして、カップカレーでニューヨークに進出することも考えていたのですが、そもそも、私たちってカレーを売りたいわけではないのではという疑問が生まれて。

そこで、一旦、Uber Eatsを終了して、コンセプトから考え直しました」

新たに生まれたアイデアは「ルーとライスを混ぜるカレーのように、人と人を混ぜるコミュニティ」。2018年9月に、コミュニティの拠点となる〈6curryKITCHEN〉を、恵比寿と渋谷にオープンしました。

〈6curry KITCHEN EBISU〉オープニングイベント終了後のスタッフ写真。調理場を囲むようなカウンター席にすることで、お客さん同士のコミュニケーションがしやすいレイアウトに。

会員はお客様ではなく参加者

自分たちで作るサードコミュニティ。

取材に応じてくれたブランドデザイナーのYOPPYさん。YOPPYさんが着ている黒のワンピースは〈6curry〉とアパレルブランド〈LEBECCA boutique〉のコラボ商品。

「ただカレーを食べる場所というのでは、普通のお店と変わりません。そこで、〈6curryKITCHEN〉は会員制の月ごとの定額方式をとり、1日1杯のカレーを会員特典のひとつにしました。コンセプトは“EXPERIENCE THE MIX.”。入会は完全紹介制で、会員の知り合いがいたり、ワークショップに参加したりなどしてコンセプトに賛同した方がメンバーになってくれるので、あまりにも価値観の異なる方はいらっしゃいません。現在、会員は約450人。累計来店者数は1万人を超えます。メンバーの方は、本業のほかに副業をもつ人や、フリーランスで活動している人が多く、20〜30代を中心に、学生さんや40〜50代以上の方もいらっしゃいます」

〈6curry KITCHEN SHIBUYA〉入り口に掲示されているメンバープロフィール。年齢、職業、住まいなど、全てバラバラ。

定期的に開催するワークショップでは、スパイスカレーを作ったり、梅酒を漬けたり。会員になると、1日店長をすることもできます。また、中にはお皿洗いを手伝ってくれるメンバーも。さらに、時にはメンバーがこの場所を自分の言葉で語る“プレゼンタイム”を設けることもあるそう。さらに、マンガや登山、ランニングなど、メンバー同士が共通の趣味で集まる「部活」も発足。カレーを中心にしたコミュニティですが、広がりはカレーだけに止まりません。

 

「お皿ソムリエをしている人とフルーツサンドを作る人、スイーツを専門に撮るフォトグラファーがここで出会い、一緒に写真集を作るなど、新しいプロジェクトが始まることも。6curryのメインシェフでありカレープロデューサーの一平ちゃんは“カレーは宇宙。限りがない”と言っているのですが、ここの場所でも、ひとりひとりが混ざって、私たちも予想しなかったことが起きています。〈6curry〉は職場、自宅のほかの第3の場所です。だからこそ、やりたいことを見つけたり、新しい自分になれたりする場所なのかなと思っています」

この日はメンバーの1人、eat designerのにしむーさんがキッチンに。毎週金曜は、にしむー特製のフルーツサンドを数量限定で販売。

〈6curryKITCHEN〉は誰かが中心となるリーダーではなく、一人ひとりがこの場所を作る参加者です。店長ではなく名前で呼び、お客さんは「メンバー」、お店は「キッチン」。来店したら「こんばんは」「久しぶり」、店を出るときには「おやすみなさい」と声をかけます。

〈6curryKITCHEN〉店内で使用できる会員限定共通通貨「コイン」。メンバーそれぞれニックネームを書いて、一角に保管されている。

「ここでは、知らない人にも話かけるのが普通なんです。人と人が出会うことが当たり前の場所で、来るたびに知り合いが増えていきます。だから、来ることが楽しくなるし、出会いの化学反応で、新しいことも始まる。今話題のオンラインサロンでは、著名なひとりに対して多数の人数が参加する“1対n”の構図ですが、コミュニティは“n対n“。だから、私たちも予想しなかったことが起こるんです」

行動範囲が狭まるからこそ、

温かな人間関係が築けるお店が求められる。

今年、新型コロナウィルスの影響で、営業を自粛した際には、自宅でおいしいカレーが作れるスパイスキットをネットで販売。オンライン上でメンバーが交流できる場を開設し、スパイスカレー作りのワークショップも開催しました。

6curryKITCHENで大人気の「サバカレー」が4食分作れる「スパイス」とレシピのセット。6curry BRAND STORE  にて好評発売中。

「同じ工程で同じものを作っても、素材や火通りによって味が変わるんです。オンラインなので、一平ちゃんにアドバイスをもらえたり、一緒に試食して感想を言い合ったり。コミュニティでつながっている価値は、オンラインでも感じることができる。今、メンバーは、キッチンに来られる人だけに限られていますが、今後、東京以外の参加者も増やして、もっとミックスの輪を加速できたらと思っています」

営業自粛期間中には、オンライン上で“部活”が行われたり、メンバー間で〈6curry〉を応援するバトンが始まったりなど、メンバー起点の新しい取り組みが行われていました。営業が再開した現在は、恵比寿と渋谷の拠点の運営のほか、オンラインコミュニティ〈6curryROOM〉、メンバー専用ストアなど、オンラインとリアルの両方で様々な試みが行われています。

YOPPYさんは、5年先の未来は、サードコミュニティのような飲食店が増えるのではないかと語ります。

「おいしいものを食べるだけならたくさんお店がありますが、店員さんと話したり、お店で友達ができたりしたら最高ですよね。コロナ後の世界では、行動範囲は限られてしまうかもしれないし、大人数で集まることは難しくなるかもしれません。でも、その分、新しい人間関係が生まれる場所は必要とされるんじゃないかと思います」

 

〈6curry KITCHEN SHIBUYA〉

住所:〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町7-10 12マンス 1F

電話:080-7119-4958

営業時間:11:30-15:00,19:00-22:30

定休日:隔週土曜、日曜、月曜、祝日

〈6curry KITCHEN EBISU〉

住所:非公開

電話:非公開

営業時間:19:00-22:30

定休日:土曜、日曜、月曜、祝日

 

※非会員は〈6curry KITCHEN SHIBUYA〉のランチ営業のみ利用可能。

※非会員でもテイクアウト、デリバリー、オンライン通販は注文可能。

※会員になるには、メンバーからの紹介が必要。

編集後記

今回YOPPYさんから伺ったお話はカレーもさることながら、多くがメンバーやお店のスタッフなど、「人」のことでした。お客さんとお店の役割が明確で、両者の境界線がはっきりと存在する従来の飲食店の方への取材ではなかなかない、6curry Kitchenさんならではだと思います。

あまり人と集まれなくなってしまったこの時期だからこそ、「こんばんは」と迎えてくれてホッと一息つける場所は、前向きで豊かな生活を送るうえでとても重要なのではないか、と改めて考えました。

(未来定番研究所 中島)

F.I.N.的新語辞典

第65回 C2C