2020.07.07

STUDIO DOUGHNUTSと考える、未来のオフィス。

数年前から推進されてきたリモートワーク。今まではなかなか導入が進まない企業が多かったように感じます。しかし今年は、新型コロナウィルスの影響でそれが一気に普及しました。この機会に自宅で仕事をする人も増えていきそうです。働き方が変わっていくと、オフィスにはどんな機能や役割が求められるようになるのでしょうか。今回お話を聞くのは、温かくも機能的な店舗やオフィスを作り上げてきた設計事務所<STUDIO DOUGHNUTS>を主宰する、鈴木恵太さんと北畑裕未さん夫妻です。

(撮影:下屋敷和文)

最近のオフィス設計の傾向。

F.I.N編集部

はじめに、STUDIO DOUGHNUTSさんのお仕事について教えてください。

北畑裕未さん(以下、北畑さん)

私たちは、2015年に独立してSTUDIO DOUGHNUTSを立ち上げました。主にショップや飲食店のデザインをすることが多いです。オリジナルプロダクトの開発や、展示会の主催なども行っています。

鈴木恵太さん(以下、鈴木さん)

個人住宅やオフィスの設計、デザインも手掛けます。

F.I.N編集部

最近のオフィスの特徴はありますか?

鈴木さん

2016年に手掛けたオフィスは、ワンルームで間仕切りをしていない物件でした。ワークスペースとして使う時もあれば、イベント会場にもなるなど用途が変わる空間だったので、テーブルを可動式にして簡単に片付けられるようにしました。固定席をつくらず、フリーアドレスにするというのも最近依頼が多い事例です。

さまざまなアプローチで地方創生に取り組む〈Next Commons lab〉のオフィス。あえて仕切りを無くすことで、多様な用途で使える空間に。

テーブルは可動式のものを使用することで、イベントスペースとしても使える空間に。

北畑さん

あるオフィスでは、卓球台を置いてほしいというリクエストがありました。ワークスペース以外を充実させるというのは現代的だと思いました。

F.I.N編集部

やはり、フリーアドレスの人気があるのですね。ショップとオフィス、設計する際の違いはなんですか?

鈴木さん

オフィスの方がショップに比べて余白が多いのです。例えば店舗は限られたスペースと予算のなかで「200個のやりたいことを、どうにか100個に収めるか?」という作業をしながら形にしていきます。オフィスの場合は、広い空間のなかにワークスペース、ミーティングスペースなど必要な部屋を組んでいく。すると最終的に空間が余ることがあります。このような余白を、働く人が気分転換できる場所にすることを考えています。ソファに座って雑談やミーティングができる場所、コーヒーを置くカウンターなど人が立ち止まるポイントを意識してつくっています。

〈Next Commons lab〉オフィス内のキッチンスペース。コーヒーを片手に、ほっとひと息つける場所に。

北畑さん

オフィスの場合、防音やセキュリティが大切です。そして、どこかに逃げ場があるというのが居心地の良さに繋がるのでしょう。ひと昔前は喫煙所にタバコを吸いに行って、休憩をしたり同僚とのコミュニケーションをとったりする人も多かったと思いますが、今はそれがなくなってきています。喫煙所のような機能を果たす場所をいかにつくるのかが、オフィス設計の課題です。

鈴木さん

今までのオフィスは、エントランスや門構えの装飾がしっかりしていて、そこで会社のカラーを表現することも多かったと思います。今後このようなオフィスの捉え方は、変わっていくのではないでしょうか。多くの会社が、そのカラーを表現するための装飾にこだわるというより、機能的な部分に力を入れるようになるのではと思います。

アニメ制作会社〈MAPPA〉のオフィス入り口。テーマカラーである深緑を基調としている。

多様な用途に対応するSTUDIO DOUGHNUTSのオフィス。

F.I.N編集部

STUDIO DOUGHNUTSさんの仕事場は、どのような環境ですか?

鈴木さん

僕たちは、独立してからずっと自宅兼事務所で仕事をしてきました。2年前に子供が生まれて、だんだん自宅で仕事をするのが難しくなってしまったので、去年から事務所を借りて仕事をしています。

北畑さん

一戸建ての物件を借りました。現在改装中で、私たちがつくっているオリジナルプロダクトのショールームにもしようと思っています。広い物件なので、ゲストルームも構えようと計画中。地方や海外に住む友達が、上京した時に使ってもらえたらいいなと考えています。

F.I.N編集部

オフィスとして使用するだけでなく、いろんな用途に使える空間なのですね。完成が楽しみです。

北畑さん

このオフィスでたくさんの人と交流して、また面白いことが生まれたらいいなと思っています。

F.I.N編集部

新型コロナウイルスの影響で、働き方が変わってきたという実感はありますか?

鈴木さん

僕たちは家のリノベーションも手掛けます。最近は、家のなかに仕事がしやすい小さな空間が欲しいというリクエストが多くなりました。

北畑さん

家で仕事をする前提で、リノベーションを考えている人が増えているのかもしれません。

鈴木さん

もうひとつ、緊急事態宣言が発令されてオンラインでの会議が一般的になってきました。これが定着していったら、今までのように全員が集合して、顔を合わせて会議をするという価値が今までと変わっていきますね。

これからのオフィスの姿とは。

F.I.N編集部

この経験を経て、オフィスはどう変わっていくのでしょうか。

鈴木さん

今は働き方も過渡期です。フリーアドレスを導入した会社でも、結局席は固定になってしまっているという現状を聞くこともあります。みんなトライ&エラーを繰り返している状況。リモートワークにしても、完全に移行するのは難しい会社もあります。家で仕事もできるし、出勤することもできるという両方を選べるのが一番だという人も多いのでは。

北畑さん

毎日の出勤が必須でなくなったら、オフィスは仕事だけをする場所というより、コミュニケーションの場としての役割が増えてくるかもしれません。

制作会社〈DOMANI〉オフィスに併設されたフリースペース。仕事の合間にキッチンで料理をしたり、ソファーで雑談やミーティングをしたり。使い方は自由。

鈴木さん

そしてコロナ禍の経験を経て、これからの生き方や暮らし方、住む場所を改めて考えてみる人が多くなると思います。地方に住むという人も増えてくるかもしれない。

北畑さん

多くの人が地方に住んで普段はリモートワークをするとしたら、私たちの事務所のように宿泊施設がついたオフィスがあったら便利ですね。会社は都心にあり、出張した時に会社に泊まれるなんてことも可能になるかもしれません。

F.I.N編集部

そんな働き方ができたら、理想的だと思います。仕事以外にも使えるオフィス、STUDIO DOUGHNUTSさんだったらどんなものをつくりたいですか?

北畑さん

人と会うためにオフィスに行くと考えると、デスクで話すだけではなくて食事をしながら話せるようなスペースがあるといいと思います。社員が使えるキッチンとダイニングがあって、仕事の合間に料理ができるような。同僚と一緒に料理をして交流することもできるし、仕事のストレス解消にもなると思います。

〈DOMANI〉オフィス内のキッチンスペース。元々料理好きの社員が多く、昼休みにはランチを作って食べている人の姿も多い。

鈴木さん

仕事のモチベーションが上がる楽しい仕掛けをつくりたいです。例えば、アウトドアブランドのスノーピークの新潟の本社にはキャンプ場があります。込み入った話があったら一泊できる用意を持って出社し、夜は焚き火をしながら話をして、テントで寝る。そして次の日また仕事をする。憧れますね。

F.I.N編集部

そんなオフィスなら、積極的に出勤したくなりますね。

Profile

STUDIO DOUGHNUTS

ランドスケーププロダクツで働いていた鈴木恵太さん、北畑裕未さんが独立し、主宰する設計事務所。日本全国のショップ、飲食店の設計やデザインを手掛ける。それぞれのカラーを大切にするデザインで人気を博している。

http://www.studio-doughnuts.com/

編集後記

コロナ禍において、仕事と暮らしの境界線は急速に滲んでいきました。そのようななかで、今回鈴木さんと北畑さんご夫妻のお話をお伺いして、これからのオフィスには余白から生まれる交流や休息など、いわゆる効率的ではないけれども、その場にいる人の心が豊かになる機能がますます求められるのだとわかりました。

働くことが見直されているこの時期、スタジオドーナツさんが仰る「仕事のモチベーションが上がる楽しい仕掛け」を想像して、わくわくしています。

(未来定番研究所 中島)