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2022.12.16

未来をつくるハローワーク

第3回| 「チョコレートを新しくする、未来へ続くものづくりをしませんか?」/Minimal・山下貴嗣さん。

これまでにないものや、新しい取り組みをしている人たちこそ、より多く「人の手」を求めているのではないか。この連載では、未来へ挑む人にお会いしながら、その求人の一助になることをめざす企画です。

 

今回お会いするのは、東京・富ヶ谷と代々木上原に店舗を構えるスペシャルティチョコレートブランド〈Minimal – Bean to Bar Chocolate – (ミニマル) 〉の代表を務める山下貴嗣さん。〈Minimal〉のチョコレートは、カカオ豆からチョコレートになるまでを一貫して行う「Bean to Bar」と呼ばれる方法で製造。チョコレートの原料であるカカオ豆を輸入し、製造から販売まですべて自社で行います。今年で創業8年を迎えた〈Minimal〉では、ここ2年はデジタルマーケティングやECにも力を入れていて、チョコレートのサブスクサービスもスタート。そんな、成長し続ける〈Minimal〉のこれまでの歩みや、ものづくり・経営において大切にしていること、求めている人材についてお話を伺います。

 

(文・高野瞳)

「チョコレートを新しくする」

未来に目を向けたものづくりを。

F.I.N.編集部

ブランド立ち上げ当時から、今も変わらず支持され続けている〈Minimal〉。ものづくりへのこだわりはそのままに、新しいサービスを導入したり、会社としても大きくなったりと、変化に目が離せません。ブランドが支持される理由や強みはどこにあると思いますか?

山下さん

直接支持される理由につながるかわかりませんが、働いている人たちの情熱は〈Minimal〉の強みのひとつだと思います。「好き」という気持ちは、ブランドを運営していく上での原動力になっている気がします。チョコレートが好きとかブランドの理念に共感しているとか、いろいろな方向性があるけど、そういう想いを持っている人たちが働いてくれているところは、ブランドが成長していくための原動力になっています。

F.I.N.編集部

ブランドがものづくりにおいて大切にしていることを教えてください。

山下さん

「チョコレートを新しくする」というビジョンのもと、未来に向けてのものづくりとして、3つのことを大切にしています。1つは「ものづくりを新しくする」、2つ目は「農園との関わりを新しくする」、3つ目が「お客さまの楽しみ方を新しくする」ということ。大きなビジョンなので僕が生きているうちには達成できないかもしれないけれど、意志を持って未来へつなげていく、5年後の未来でどうあるべきかを考え、目の前の一歩を積み重ねていくしかないと思っています。

F.I.N.編集部

それぞれ具体的にどういうことでしょうか?

山下さん

「ものづくりを新しくする」というところでは、これまでのチョコレートの歴史にはない新しい味わいや風味、香りを実現していくこと。ものづくりへのこだわりは経営の根幹にあると思っています。おいしいかどうかはお客さまが決めることだと思っていますが、自分たちが食べたときに「おいしい」という感情が持てないものは、絶対に作りたくないので、そこは大前提に持ちながら、新しいものを提案していけたらと思います。

 

おいしいものを作るための良質な素材調達に欠かせないのが、「農園との関わりを新しくする」ということ。これも〈Minimal〉ならではの特徴のひとつだと思います。良い素材を確保するために、農園にも足を運びます。我々が設定する基準を満たすカカオ豆を、手間をかけて育ててもらった分市場の価格より高く買い取ります。それは彼らの生活向上にももちろんつながりますが、それ以上に彼らが素材の品質に目を向けるようにもなります。僕らは素材以上のものは作れないので、素材の質が良くなること、そのために彼らのものづくりへの視点が変わること、そして農家とより良い関係を続けていくことも大切にしています。

農園でのレクチャーの様子

山下さん

「お客さまの楽しみ方を新しくする」という点では、お客さまに「新しいチョコレート体験を届ける」ことにこだわっています。100円でチョコレートが買える時代に、1500円の板チョコレートを買ってもらうには、きちんと価値を伝えてそこに共感していただく必要があります。そのためには「お客さまに伝わった」という状態がすべてなので、自己満足にならないように伝えることには力を注ぎます。店舗でもECでも、本当に心から感じていることを自分たちの言葉で伝えることを意識しています。それが、お客さまの「体験」にもつながるからです。

F.I.N.編集部

経営面において大切にしていることはありますか?

山下さん

8年続けてきて、「続けていく」「粘り腰」の大切さを実感しています。とにかくすぐに数字をあげたい気持ちもあるけれど、時間をかけないとわからないこともあります。これまでにはたくさんの失敗を経験しました。だからこそ、「チョコレートを新しくする」という大きなビジョンに対して、がむしゃらにやるというより、先を見据えて目の前の一歩をどうするかを考えることを繰り返していきたい。生きているうちに達成できなかったら僕たちが次にどういうバトンを繋げるかということを考えていきたい。カカオ農園の貧困問題も何十年何百年と言われてきたことが、短期間で改善する産業構造ではないと、やればやるほど感じています。

紆余曲折を経て、

変化し、成長してきた8年間。

F.I.N.編集部

この8年間でいろいろな気づきや変化があったと思いますが、節目となるタイミングがありましたか?

山下さん

大きく4つあります。最初は、2014年の立ち上げから2年目。1年目に仕入れていたカカオ豆の味わいが、2年目に全く違うものに変わったり、小さい会社には売ってもらえなかったり、最初は買えたけど音信不通になったり。良い素材を作っている人たちがいて、ちゃんとそこへ足を運んで、自分たちで買い付けに行かないといけないと気づいたことが、最初のターニングポイントです。これがなかったら今続けられていないと思います。カカオ豆に向き合っていいものを作ること。いいカカオ豆はどういうものか、自分たちなりの哲学を持つことの方が大事と気づきました。

 

次に、2016年に国際品評会で金賞を受賞したこと。自分たち視点のものづくりから、社会的な評価を知ることで、それを客観的に見ることができました。

 

2019年には、東京・代々木上原にガトーショコラ専門店をオープン。それまでは板チョコレートだけを売ることにこだわっていたけれど、スイーツを作るという新しい挑戦でした。

2019年にオープンしたガトーショコラ専門店「Minimal The Baking」代々木上原店

山下さん

最後はコロナ禍。銀座店を閉じたことです。店を閉じるのは一生忘れない経験で、とても情けなかったです。その悔しさを糧に、自分たちはデジタルやECにシフトしていくんだと決断したタイミングです。それまではデジタルに疎くて、SNSもあまり力を入れずに担当もいませんでしたが、これを機に広報や物流チームができました。

F.I.N.編集部

ECが強化されて、サブスクサービスなども始められましたね。反響はいかがですか?

山下さん

「CHOCOLATE ADDICT CLUB」というサービスで、始めてちょうど丸1年。毎月限定品や新作スイーツをお届けしています。スイーツのサブスクはうまくいかないという声をたくさん聞きながらもチャレンジしたサービスですが、想像を上回る反響があり継続率も現在95%程度あります。コロナ禍で行動が制限される不自由な生活を送るなか、慣れないテレワークでギスギスしてしまった家族との関係や気持ちが、月に1回スイーツが届くことで、その日が家族と心安らぐ特別なものになったり、会話が生まれるきっかけになったり。自分へのご褒美の日という感覚で利用してくださっている方も多いようです。あとは、ちょっとマニアックな豆知識的コラムや新作や限定品を開発したパティシエやショコラティエのインタビューも一緒に届けています。ストーリーや考え方に共感してもらえることでリピートに繋がっているように思います。

世の中との接点を広げるため

多様な個性を大切にしたい。

F.I.N.編集部

創業時は3人でスタートした〈Minimal〉。現在従業員は何名ですか?

山下さん

現在は、社員がおよそ30名。アルバイトを含めると40名程度になります。部署は〈Minimal〉が大切にするものづくりの根幹であるショコラティエ・パティシエが所属する「製造チーム」をはじめ、店舗を支える「サービスチーム」、ここ2年で強化してきた「デジタル・ECチーム」、その裏側を支える「物流チーム」、「広報・PR」、「人事・労務」、「BtoBの法人営業」があります。

F.I.N.編集部

現在も募集中ですが、これまではどんな人材の応募が多かったですか?またこれからはどんな人材を求めていますか?

山下さん

今までは、何かしら共感の接点を持ってくれている人がほとんどでした。昔より今のほうが、その点が弱くなっている気がします。昔はわざわざ探さないとわからないブランドだったので、マニアックな人しかいなかった(笑)。今はどちらかというと、食べて美味しかったとか、パッケージのデザインが好きとか、そういう人たちが増えました。とてもいいことだと思っています。ブランドについて深めることは入社してからいくらでもできるので、多様な視点でブランドを見ている人が集まって、共感接点がどんどん増えていってほしいですね。会社は球体になるのが一番いいと思っています。根っこは同じだけど、さまざまな個性を持った人たちが3次元的に個性を伸ばしていくと球になる。そうすると表面積が一番大きくなるので、それだけ世の中との接点が増える。これからはより多様な人たちが集まっておもしろいことになっていくと思います。

F.I.N.編集部

経験や経歴で条件はありますか?

山下さん

これまではプロフェッショナルが集まらないと新しいものができないと思っていたので、中途採用ばかりでしたが、今年初めて新卒採用をしました。これからは若い世代や新人を採用していくというフェーズに来ていると感じています。若い世代だから僕らよりわかってないと思うことはまったくなくて、彼らの視点を教えてもらうことによって、新しいものが生まれることを期待しています。

F.I.N.編集部

現在、募集している部署について教えてください。

山下さん

ブランドの核となっているパティシエ・ショコラティエ。海外や有名店で修行した経験者も歓迎ですが、一方でまったくの未経験も歓迎しています。ものづくりに対して自分でコツコツでもワクワクでも、ちゃんと向き合える人であれば経験は問いません。これまでも、北海道で保育士をしていたけど、東京に遊びにきてチョコレートを食べたらおいしくて働きたいと上京した子や、服飾や不動産業を経て入社した子も。どちらも活躍してくれています。経験者・未経験者問わず、本気でスイーツやチョコレートをつくり、技を磨き続けるキャリアを歩みたい人を心から待っています。

 

店舗スタッフは、サービスに興味があったり、専門性を磨きたいと考えたりしている未経験者も。2店舗の店長どちらもバリスタ出身で、コーヒーやお茶も学べます。ほかにも海外でサービスやカフェカルチャーを学んだ人も多く、刺激になると思います。

 

デジタル・ECに関しては、アルバイトやインターンを募集中です。これからはもっとデザインや撮影なども内製化していきたいと思っています。美大生やクリエイティブなことができる人、週3くらいでインハウスのデザインをやってみたいという人、デジタルマーケティングに興味がある人などに応募してもらえたら嬉しいですね。

10年後もここで働いていたい。

そう思える会社を目指して

F.I.N.編集部

これからの展望について教えてください。

山下さん

新しい市場ができていかないと、僕たちが目指している「チョコレートを新しくする」ということがきれいごとで終わってしまいます。だからこそ、自分たちがおもしろいと思っていることをおもしろいと感じてくれる仲間を増やしていくことが大事だと思っています。それは社外にも言えることで、プロダクトを通して新しいチョコレート体験をして、少しでも人生が豊かになっていく人たちが増えていく。また僕たちがいい豆を買うことで自分たちの作る豆に誇りが持てるような農家が増えていく。そのためにも、お金を儲けることはやっぱり大事。「売上とは、共感の総量」だと思っていて、共感していただけることでお金をいただけると考えたら、極端ですがお金をもらえないということは自己満足でしかない。きちんと価値を伝えるということに、これからも向き合っていきたいと思っています。

 

経営者としては、最近はとくに社内に目が向いています。社内で働く人たちが楽しく働く、幸せに働く、この会社の中でちゃんとキャリアをイメージしながら歩んでいってもらいたいと感じています。「チョコレートを新しくする」ということを目指す手前には、自分たちの仲間がワクワクして働ける環境を作っていく必要がある。給与や福利厚生も含めて、僕たちがまず持続性が高く、働き方に多様性のある会社で、そして、何より踏ん張りが効く、一致団結できる会社であったりすることが大事。お客さまを幸せにするためには、まずは従業員が幸せそうに働いていないといけないなと思っています。その順番を間違えないように、人が増えて大きくなるにつれて思っています。1人でも多く10年先も20年先もこの会社で働きたいと思える会社にしていきたい。今後新店舗も出す予定。仲間と一緒にますます街に根付く店、ブランドになっていきたいと思っています。

▪︎現在、オンラインストア担当者、ショコラティエ・パティシエなどを募集中。

採用情報は以下をご確認ください

https://mini-mal.tokyo/pages/recruit

アクセス情報:

Minimal 富ヶ谷本店

〒151-0063東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9

Tel:03-6322-9998

【編集後記】

「チョコレートを新しくする」というビジョンのもと〈Minimal〉を指揮する山下さんのお話を聞いて、かつて江戸時代の近江商人が提唱していた三方よしの「買い手よし・売り手よし・世間よし」に〈Minimal〉ならではのこだわりというエッセンスを加えて表現されているからこそ、たくさんの人に支持されているのだなと感じました。

同じ根を持った新しい人がさらに加わり「好き」という個性が広がっていく、これからますます大きくなっていく球体に注目です!

(未来定番研究所 小林)

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