未来を仕掛ける日本全国の47人。
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2022.06.29
未来をつくるハローワーク
これまでにないものや、新しい取り組みをしている人たちこそ、より多く「人の手」を求めているのではないか。この連載では、未来へ挑む人にお会いしながら、その求人の一助になることをめざす企画です。
今回お会いするのは、福岡県で勤しむ〈ごしょがだに保育園〉の酒井咲帆さん。求めている人材について伺うと、みずからが保育(=暮らし)を作っていくことに魅力を感じ、チャレンジできる人だそう。その理由と、酒井さんの日々の仕事について伺いました。
(文:川端美穂)
公園の運営が地域の人に喜ばれ、
2つ目の保育園をオープン。
F.I.N.編集部
お久しぶりです。酒井さんは写真家のご経験を生かし、多くの人が集える場所として、2009年に福岡市でギャラリーやカフェを併設する写真館兼写真ラボの〈ALBUS〉を始められましたね。その後、より子どもの成長や家族に寄り添える居場所づくりを目指して、2018年に〈いふくまち保育園〉を開業されたと前回の取材でお聞きしました。
酒井さん
〈ALBUS〉は家族写真を撮影しながら、ご家族と触れ合い、時間を共にしながら街を豊かにしていくという理念のもとオープンしました。撮影は土日に集中するため、平日は写真や編集のスクールやワークショップを開催し、より多様な人に来ていただく工夫をしながら運営しています。ただ、写真館を維持するにはお金をいただく必要があるため、どうしても訪れる人が限られてしまうんですよね。
私は、以前から子どもの居場所づくりに携わっていたこともあり、子どもには人を惹きつける力があると感じていたので、子どもを中心に気軽に人が集まれる場をつくりたいと考え、保育園をつくってみたいと思うようになりました。〈いふくまち保育園〉は古小烏公園に隣接しているのですが、実は保育園より先にこの公園の運営から始めました。緑豊かなこの公園は、長年地域で愛され、まさに多様な人々が集う場所だったからです。
F.I.N.編集部
公営公園の運営って、志願してできるものなんですか?
酒井さん
調べたら、福岡市では区役所から認定を受ければできるとわかりました。私たちは認定を受け、誰でも気軽に入会できるサポート隊を愛護会と名づけ、公園の運営を始めました。その後、タイミングも重なり、〈ALBUS〉で内閣府の企業向け助成制度の企業主導型保育事業を利用して〈いふくまち保育園〉をつくったという経緯があります。
F.I.N.編集部
さまざまな人々が交流する公園の隣という理想的な環境で、保育園を開業できたのですね。
酒井さん
そうですね。保育園の運営を始めながら、公園の朝イチの掃除をはじめました。他にも畑作りをしたり、果物を収穫してジュースを作ってご近所にお裾分けしたり、保育士と子どもたちみんなでまちづくりの一端を担っています。
F.I.N.編集部
公園での活動のアイデアはどうやって生まれるんですか?
酒井さん
基本的には当園の子どもたちが勝手にプロジェクト化する感じです(笑)。たとえば、子どもが「公園にこんなお花を植えたい」と言ったら、「じゃあ、苗を買いに行かないといけないからお金がいるね」ってみんなで稼ぐ方法を考える。背高泡立草という雑草を採って乾かして入浴剤にしたり、公園の木々を拾ってリースにしたり。それを売るためのパッケージの絵を描いて制作したり、看板を作ったりもしました。他にも、園と保護者が企画した公園バザーで販売し、売れたお金を見ながら「これでうまか棒いくつ買えるのかな」とかお金の感覚を学んだりしています。子どもの「なんだろう?」という好奇心から生まれる声を大人がちゃんと聞いて、子どもを信じる。これが活動の原動力だと思います。
F.I.N.編集部
公園の運営をしていると、地域の人たちとの交流を通しておもしろい出来事がたくさん起こりそうですね。
酒井さん
そうですね。そういったエピソードは山のようにあります。たとえば、ある年の12月1日から25日まで毎日、公園の大きな木に一個ずつ手編みの靴下が増えていき、クリスマスにプレゼントしていただくという不思議な出来事があって。最終的に近所の方によるサプライズだとわかったときは驚きましたね。
F.I.N.編集部
絵本のお話のような素敵なエピソードですね。2つ目の〈ごしょがだに保育園〉開業のきっかけも教えてください。
酒井さん
実は公園の管理運営をしていたことが、開業のきっかけになりました。愛護会の活動を地域の方がすごく喜んで下さって。町内会長さんが「あなたたちの園にぜひ入ってほしい」と自宅兼店舗だった素敵な物件を紹介して下さり、2021年3月に〈ごしょがだに保育園〉を開業しました。
F.I.N.編集部
そもそも、どんな理念のもと2つの保育園を運営されているんでしょうか?
酒井さん
理念やルールをあまり作りたくないという思いがあって、それが逆に理念と言えるかもしれません(笑)。とは言え、漠然と運営をする訳にはいきませんから、私たちは 「まちととともにある ひらかれた風景へ」と掲げ、子どもと大人の居場所でありたいと考えています。いろいろな人が関わる場で、お互いの自由を認めるためにはある程度のルールが必要ですが、予め決めるのではなく、そこに居合わせたみんなで話し合ってルールを定め、その都度変化や進化をさせていくことが大事かなと思っています。
また、子どもも大人も「地球を思い、生きることを冒険できる人」であることを大事にしています。子どもって見るものすべてに興味を持ち、「これ何?」「あれ何?」とたくさん質問してくれる。そのおかげで私たち大人の固定観念が覆され、物事の過程を一緒に考えることができます。実際に2園目の保育園では、園が生まれていく過程を子どもたちにも経験してもらいながら、物語が伝わるように保育園の造りをも工夫しました。
F.I.N.編集部
具体的にどんな工夫をされているのですか?
酒井さん
新たに作った〈ごしょがだに保育園〉は、園に使う木を選ぶところから携わりました。子どもたちと一緒に糸島の山を訪れ、〈NPOいとなみ〉さんのご協力のもと、皮剥き間伐を選ばせていただき、シンボルツリーをはじめ園内にたくさん使用しています。
F.I.N.編集部
保育園のスケジュールを拝見すると、食べたい子から自由に昼ご飯を食べ、眠たい子から自由に眠るなど、子どもの自主性を尊重されていますね。
酒井さん
子どもも大人も、みんな食べたいときに食べ、寝たいときに寝たいですよね(笑)。 生きることの本質は、自分で決めていくこと。一定の生活リズムを保って健康管理をしながら、子どもが自由に判断できる幅を広げています。
F.I.N.編集部
コロナ禍で保育園を運営する上で意識していることはありますか?
酒井さん
保育園におけるコロナ対策は答えのないことなので、多方面から情報を集めてあらゆる数字を見ながら、どうしたらいいかをその都度、園のみんなで話し合っています。10年後、20年後の先も見据えながら、子どもたちがこの社会を支えていく上で今何が大切か、を中心に置いて考えていますね。
子どもや保育園が持つ魅力を多くの人にお裾分けしたい。
F.I.N.編集部
酒井さんは保育園の経営者として、園ではどんなお仕事をされているんでしょうか?
酒井さん
園長として毎日両園に勤務して、保育士や子どもと関わっています。私の一番の役目は、命を預かる場所としての責任を取ること。電車に乗ったり山や川に行ったり、子どもにはより多くの経験をさせてあげたいのですが、その都度危険が伴います。そういったなかで、私が出来うる限りの責任を担うから、可能な限りいい保育、いい活動(体験させたいと思うことをのびのびと行うこと)をしてほしいと保育者たちに伝え、環境づくりに努めています。
F.I.N.編集部
保育園を営むなかで、どんなことにやりがいや喜びを感じますか?
酒井さん
子どもがいるだけで、そこに喜びがあります。子どもは今まさに成長し、生きることへの喜びが満ちているので、接していると、私たちは地球に生きている生命体なんやな、と地球を身近に感じられます。日々そうやって過ごすうちに、風や匂いに敏感になり、春には自然と『春が来た』の歌が歌いたくなって、口ずさんじゃったり。毎日笑ったり怒ったり、ときには喧嘩して(笑)、とにかく楽しいですよ。
F.I.N.編集部
こちらの保育園独自の方針や活動に共感し、「ここで働きたい」と就職される保育士さんも多いのではないでしょうか?
酒井さん
当園で勤務している保育士から話を聞いたり、ネットで調べて来てくれた人はいますね。4年前に保育業界に飛び込んだとき、保育園という枠組みに違和感を感じることも多々あり、その枠組みを取っ払いたいと思い活動してきました。子どもや保育園が持つ魅力を多くの人にお裾分けして、大人がもっと元気になったらいいなぁって思います。
F.I.N.編集部
これまでのお話からも魅力がたくさん伝わってきました。他にも課題と感じる点はありますか?
酒井さん
保育士の給与が低いことが以前から問題となっています。保育士は弁護士や社会福祉士と同じ国家資格の「士業」ですが、 給与は大きく下回る。命を守るという仕事にも関わらず、です。 保育園は制度の上に成り立っているので、制度を変えないとこの問題は解決できません。そのため、保育士自ら声を上げ、政治に参与する必要があると思っています。私たちは小さな園ですが、地元の議員とお話し、管轄している内閣府に声を上げ、結果、福岡市では認可外保育園につかなかった家賃手当がつくようになるなど、変化も起こっています。
F.I.N.編集部
制度を変えるために、他の園の保育士さんと連携を図るんですか?
酒井さん
そうですね。福岡市内には企業主導型保育事業の保育園が100以上あって、有志によるオンラインの園長会が開催されたりしています。そこで意見を出し合って賛同者で連盟を作り、陳情書を書いて提出するという動きもできてきています。
F.I.N.編集部
酒井さんは、未来の保育園はどうあるべきだとお考えですか?
酒井さん
未来の社会がどうあってほしいか、それを考え続けていくことが大事だと思っています。保育園という小さな社会で子どもも大人も一緒に話し合い、そこで生まれたいいなという思いや考えをどんどん外に広げていきたいですね。
F.I.N.編集部
将来的に、さらに保育園を増やす予定はありますか?
酒井さん
もちろん、環境が許せば増やしたい気持ちはあります。ただ、待機児童の受け皿確保が達成し、企業主導型保育事業の募集は昨年度で終了。今や保育園のつくり過ぎが問題となり、数年後には閉園・解体する保育園が増えると言われています。こうした現状を踏まえると、保育園でなくとも、より良い社会や未来をつくるための場所が増やせればいいなと思っています。
子どもの健康を見守るのに欠かせない看護師を募集中。
F.I.N.編集部
今回、求人を掲載させていただくにあたって、保育園の園児の数、従業員さんの構成と人数を教えていただけますか?
酒井さん
〈いふくまち保育園〉は19名定員、〈ごしょがだに保育園〉30名の定員で、ともに0〜5歳までの園児をお預かりしています。保育士はそれぞれ約15人で、看護師兼助産師を1人ずつ配置しています。
F.I.N.編集部
現在、どんな人を募集していますか? お仕事内容も教えてください。
酒井さん
看護師を募集しています。基本的には子どもの保育を行っていただきますが、急に熱が出たり怪我をした子どもがいたら、専門的な視点で看護を行うことが仕事です。子どもの見守る上で最も大切なのは健康なので、看護師は大切な存在。初めて親となった保護者は、子どもの健康に関する困りごとを、気軽に園の看護師に相談できるのは心強いと言ってくださいますね。
F.I.N.編集部
保護者とのコミュニケーションにおいて工夫されていることはありますか?
酒井さん
保育士が子どもを見守る視点が伝わるようドキュメンテーションを書いてファイリングしたり、定期的にアプリで配信したりしています。また、スマホで撮った写真をクラウドサービスのGoogle Photoにアップして、顔認証機能を使ってリアルタイムで保護者に届くようにしています。
F.I.N.編集部
IT化が進んでいるんですね。こんな人と一緒に働きたいといった希望はありますか?
酒井さん
基本的にはどんな方も大歓迎ですが、やってみたいことがある方にとっては私たちの園は活用しがいがあるのかなと思います。子育て中の方でも大丈夫です。また、子どもの病気をもっと詳しく知っておきたいと、小児科と保育園を副業している看護師もいたり、性教育を幼い時から学んでほしいと自らワークショップを企画して、園児と話し合う場を設けてくれている看護師もいます。
F.I.N.編集部
最後に〈いふくまち保育園〉や〈ごしょがだに保育園〉で働く魅力について教えてください。
酒井さん
生きることに志をもった大人や子どもが毎日面白い話題を提供してくれるため、笑いが絶えない現場です。人的環境も、、物的環境も居心地はいいと思います。室内は、職人さんが手がけたサステナブルな貝灰漆喰の壁の建物で、自然素材のおもちゃを使って保育ができ、やりたいことがあればみんなが協力してくれます。。私自身、新しい方と一緒に働きながら、居心地のいい場所をつくっていくことを楽しみにしています。
■現在、看護師を募集中。看護師の募集要項は以下をご確認ください
アクセス情報:
【編集後記】
写真館から公園の運営管理そして保育園の開業、とどれも取り組みは異なりますが根底には酒井さんの”みんなに開かれた居場所をつくりたい”という信念がありました。
子どもたちの「これ何?」「あれ何?」という疑問を大切にし、大人たちの世界に混じって1つのモノが出来上がるまでの過程・背景を一緒に学ぶ。
ごしょがだに保育園のような”みんなに開かれた居場所”だからこそ、子ども・大人そしてまちが育っていくのだと感じました。
(未来定番研究所 小林)
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