「働く」装いの未来。<全2回>
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2023.04.19
5年後の答え合わせ
2017年に「Future Is Now」を立ち上げてから早5年。目利きのみなさんに、「5年後の定番は?」、「5年先の未来はどうなっているのか」など、さまざまな質問を投げかけてきました。本連載では、その回答の答え合わせを行っていきます。
最終回となる今回は、5年前に「未来の可能性を感じる人を1人教えてください」という問いに対して、「自分」と答えてくださった料理人の鳥羽周作さんが登場。ミシュランガイド東京2020から4年連続で一つ星を獲得したり、コロナ禍にはレシピを公開したり、異業態の飲食店を次々とオープンしたり。この5年の間に、レストランの枠を超えた活動によってスターシェフにまで登り詰めた鳥羽さんに、ご自身で感じる5年での進化、今未来の可能性を感じる人、そしてこれからの5年で叶えようとしている展望を伺いました。
(文:船橋麻貴/写真:峰岡歩未)
■5年前の鳥羽周作さんのご回答
Q.あなたが未来の可能性を感じる人を1人教えてください。
自分です。自分に可能性を感じていなかったら、何事も他力本願になってしまうと思います。自分の可能性は自分次第ですし、“自分”以外の考えは思いつきませんでした。5年後、10年後、自分がどうなっているか1番楽しみですね。夢を実現するためには自分が達成したいものをどれだけリアルに想像できるかが大切です。例えば、お店のメニューも頭の中で何度も作り込むので、試作の時には大体9割は完成しています。それだけ頭の中での設計図は重要です。そして、夢の実現のためには、ゴールから逆算をすると今やらなくてはいけないことが明確になります。例えば、将来はシェフバンクという、料理人を束ねる組織を作りたいと思っています。そのために今よりも料理人の価値を上げることが必要ですし、料理人の枠組みを超えて、外部の人とつながることが大切だと思っています。若い人を取り込んで、私と同じような志を持つ人の分母を広げ、いずれはカルチャーとして根付かせる活動をしていきたいですね。
残りの人生をかけて、必ず「おいしい」を届ける。
F.I.N.編集部
鳥羽さんのこの5年間は、凄まじいご活躍ぶりだったように思います。ご自身としては、これまでの5年間をどう捉えていますか?
鳥羽さん
5年経つと人ってこんなに変わるんだというくらい、自分を取り巻く環境や、やれることは大きく変わりました。だけど、自分の芯の部分はずっとブレてなくて。コロナ禍などいろいろなことがありましたが、この5年間を走り抜けて来られたのは、世の中の人に「おいしい」を届けて幸せにしたいという至極シンプルな思いだけ。これ以外、やりたいことがないんですよ。
F.I.N.編集部
確かに鳥羽さんは、コロナ禍にレシピを公開したり、異業態の飲食店をオープンしたり、さまざまな企業とコラボしたりと、この5年間でたくさんの人を幸せにしましたよね。
鳥羽さん
求めてくれるなら、全力で応えたいんです。それが自分の生きる意義というか。この5年で、僕たちはさまざまなアウトプットをして来ましたが、その一つひとつのことに対して、普通の人の100倍くらい真剣に向き合いました。車を運転するのだって、誰かとごはんを食べる時だって、そう。どんなに小さいことでもその一瞬一瞬をとにかく大事にすると、そこから得られる知識や情報がとても多い。それが自分の実になるから、次に何か新しいことをやるときに選択肢は自然と増えていく。選択肢は10個よりも100個、1000個、1万個あったほうが精度が上がっていい。この5年間はそれを積み重ねる毎日でした。
F.I.N.編集部
瞬間を大切に、日々を積み上げてきたのですね。すごく素敵ですが、とても大変そうです……。
鳥羽さん
それが僕の「呼吸」なんです。「なんでそこまで一生懸命にやれるんですか?」とよく聞かれますが、それが呼吸だから当たり前なんです。
F.I.N.編集部
では、5年前と比べて、ご自身の変化は?
鳥羽さん
気持ちに余裕が持てるようになりましたね。当時は料理業界に怒りを抱いていたし、世の中の人に「おいしい」を届けるために動き出そうしている時だったので。この5年間で、出会った人たちといろいろな経験をともにしながら知識や思いを物々交換して、それを吸収することで自分自身が成長できたんだと思います。
F.I.N.編集部
鳥羽さんは5年前、未来の可能性を感じる人に「自分」と答えてくださいました。その回答通りの躍進ぶりですが、自分を奮い立たせるために夢や目標をあえて口にするんですか?
鳥羽さん
あえて言っているというか、情熱が溢れちゃって気づいたら言っちゃっているんですよね(笑)。
F.I.N.編集部
夢や目標を口にすることで自分のプレッシャーにはならないですか?
鳥羽さん
スティーブ・ジョブズも言っていましたけど、人って強烈な情熱がないと志半ばで心が折れちゃうんです。だけど、僕の中には折れるということは存在しない。誰かの横やりなんて関係ないし、やると言ったからには達成するまでやり続ける。もちろん、コロナ禍に突入してお店の経営が危ぶまれる場面もありましたが、それでも「辞める」という選択肢はなかったです。人間なので多少辛いと思ったりもしますが、その延長線上に辞めるという選択肢は存在しない。僕の場合、その2つは別軸にあるので。
とくに緊急事態宣言下におかれたコロナ禍真っ只中の時は、なんとしてもみなさんに元気と笑顔を届けたかった。だから僕は、テイクアウトや配達で楽しめるバインミーを作りました。その時も、朝から晩までどうやったら「おいしい」を届けられるかを考え尽くした。おそらく、一つ星シェフでそんなことをやる料理人なんて僕以外にいない。「おいしい」で世の中の人を幸せにするなら、圧倒的なアウトプットをしていかないといけないと思っていました。
F.I.N.編集部
この5年間で「自分の可能性を信じてよかった」と感じた瞬間はありましたか?
鳥羽さん
一つ星をいただいたり、YouTubeを始めたりなどいろいろありますけれど、一番はレシピの公開ですね。料理人にとってレシピは一つの財産だと思いますが、お店を越境してみなさんに「おいしい」を届けられたのは、レストランを運営していくよりはるかに価値のあること。自分たちのレシピに可能性を感じられたのは、大きかったと思います。
F.I.N.編集部
そんな鳥羽さんが今、「未来の可能性を感じる人やもの」を挙げるとしたら?
鳥羽さん
「自分の会社」です。僕は今、〈sio〉〈シズる〉の2つの会社を経営しているんですが、やっぱり僕個人より、会社でやれることのほうが多い。僕は誰よりも情熱が燃えたぎっているし、誰よりも働いてしまうのですが、他のメンバーには同じことは求めません。そういった意味では孤独ではありますが、これからの目標を達成するために会社に可能性を感じてやっていきたい。この先は、メンバー個人の力を最大化し、会社として成長していけたらいいなと思ってます。自分のものさしを基準に考えていくのではなく、メンバーが何をしたいかといった思いにも寄り添いながら。
F.I.N.編集部
これから鳥羽さんはどんな未来を描いていくのでしょうか?
鳥羽さん
最後の晩餐という言葉があるくらい、「食」は人にとって大きな存在です。だからこそ、僕らがずっと掲げてきた「おいしい」で、世の中の課題解決できることはまだまだ無数にあると感じてます。それは僕の残りの人生を費やしても到底解決しきれない。だからこそ、思考も歩みも止めてなんていられないんです。
それで今、「おいしい」という概念の2次・3次利用ができるようなインフラをつくっていきたいと考えています。僕にはあらゆるものの構成要素を因数分解して物事を捉える癖があるんですが、それは当然「食」も同じ。レシピの前段階の「おいしい」を言語化・可視化・定量化して、世の中の人、一人ひとりの「おいしい」のベースを構築していける。「おいしい」は味だけでなく、いつ・どんな状態で・どこで食べたかといった外的要因も関係するからこそ、それをコントロールできるようなったら激ヤバじゃないですか。
これまでもいろいろなかたちで「おいしい」を届けてきましたが、5年経った今、その視座は世界まで広げ、自分の残りの人生をかけてやっていく。「kawaii」の次は「oishii」を世界共通語にしたい。5年前とは、それくらい覚悟の重さが違いますね。
鳥羽周作さん
〈sio株式会社〉代表取締役、〈シズる株式会社〉代表取締役。
1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、31歳で料理人の世界へ。2018年に代々木上原にレストラン〈sio〉をオープンし、オーナーシェフとしてミシュランガイド東京2020から4年連続で一つ星を獲得。また、〈sio〉〈o/sio〉〈純洋食とスイーツ パーラー大箸〉〈ザ・ニューワールド〉〈㐂つね〉〈Hotel’s〉〈おいしいパスタ〉など業態の異なる飲食店を運営する。テレビや書籍、YouTube、SNSなどでレシピを公開し、レストランの枠を超えて「おいしい」を届けている。モットーは「幸せの分母を増やす」。
【編集後記】
何のために仕事をするのか?これに対して答えは人それぞれだと思いますが、鳥羽さんの根底あるのは食を通して皆を幸せにしたいという圧倒的な「使命感」でした。
だからこそ、鳥羽さんはこの5年の間、立ち止まることなく、たくさんのことを行動に移して実現することができたのだととても納得しました。
さらに5年後、鳥羽さんの活躍フィールドはどこまで広がっているのでしょうか。また5年後も、お話を伺ってみたいと思わずにはいられません。
(未来定番研究所 榎)
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