二十四節気新・定番。
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2022.12.05
5年後の答え合わせ
2017年に「Future Is Now」を立ち上げてから早5年。目利きのみなさんに、「5年後の定番は?」、「5年先の未来はどうなっているのか」など、さまざまな質問を投げかけてきました。その際の回答を元に、答え合わせを行っていく連載。
第1回は2017年に紹介した記事「サステナブルシーフード」について。当時に比べてその言葉をよく耳にするようになりましたが、この5年で海を取り巻く環境に変化はあったのでしょうか。今回は、日本のトップシェフとともにサステナブルシーフードについて考える団体『シェフズフォーザブルー』の代表理事であり、水産庁が設置する水産政策審議会の特別委員でもある佐々木ひろこさんと、『シェフズフォーザブルー』のメンバーである〈ドンブラボー〉オーナーシェフ平雅一さんに、サステナブルシーフードの現在地を伺いました。
(文:山本章子/写真:峰岡歩未)
■5年前の記事
サステナブルシーフードは、
5年前からどう変化した?
F.I.N.編集部
佐々木さんがシェフズフォーザブルーを発足してからも、ちょうど5年が経ちます。この5年で日本におけるサステナブルシーフードの変化は感じられますか?
佐々木さん
最も大きな変化は、漁業法が2018年に改正、2020年に施行され、水産資源の持続的な利用や保存、管理について条文に明記されたことです。それまでの漁業法は、第二次世界大戦後の1949年に制定されたもので、食べるものが足りない時代につくられた法律でした。そこから70年を経て、ようやく国として大きな方針転換がありました。ただ漁業法というのは大きな傘のような法律なので、水産現場での細かいルールはこれから別途決めていく段階。国として「持続可能な形で海のものを使うよう資源管理をしていきましょう」という方向性が決まったというところです。
この法改正もあってかここ5年でサステナブルシーフードを扱うメディアも増え、世の中に課題として認識されるようになったと思います。
F.I.N.編集部
法改正による具体的な変化はありますか?
佐々木さん
今まさに細かいルールづくりを進めているところで、具体的な変化はこれからです。これまでは海の中にどれだけ魚がいるのかその「資源量」が多くの魚種についてわからないままでした。日本では約400種の魚が食べられているので調査も一筋縄ではいきません。でも資源量がわからないと、どれだけとっていいのか、管理をしてどれだけ魚が増えたのかといったことがわからないので、まずは資源調査が大切なのです。これから徐々にその種類を増やしていこうとしていますが、資源調査・評価をしたあとに、資源の管理までを行うのにも大きな山があります。
F.I.N.編集部
資源管理に至るまでの大きな山とは?
佐々木さん
今やろうとしているのは、魚種ごとにどれだけとっていいのかという、漁獲量を規制する管理方法を多くの魚種に広げることです。例えば、ブリ。ブリは今や全国で漁獲される回遊魚なので、とっていい量を決めたとしても、多くの県でそれを割り振らなくてはなりません。また魚種ごとの話だけでなく内海や外海といった地域性の違いもあるし、定置網や刺し網、延縄、まき網、底曳網など漁法もさまざま。それをどう管理するか、やり方を考えているところです。なお、国際的な管理機関が主導して2015年から資源管理が導入された大平洋クロマグロは現在資源量が回復中です。管理をすれば増えることが日本でも明らかになったので、これから他魚種にもつなげていきたいところです。
F.I.N.編集部
消費者の意識の変化で感じることはありますか?
佐々木さん
5年前に比べて、消費者側のサステナブルシーフードの認知度はだいぶ上がっていると思います。サステナブルシーフードに関して一般消費者に講演などで話をすると、「どこで買えますか?」と聞かれることが多いのですが、スーパーマーケットなど流通業者に話をすると「エコな商品なんて高いから売れるわけがない」と言われます。このボタンの掛け違いをなくしたいと考え、シェフズフォーザブルーでも「うみとさち」ASC認証マダイを使ったレシピをシェフたちに提供してもらうなど、サステナブルシーフードのPRに協力しています。
F.I.N.編集部
スーパーなどでMSC(*1)、ASC(*2)といったエコラベルを見かけるようになってきました。
佐々木さん
先日は、イタリアンの〈Don Bravo〉〈CRAZY PIZZA〉の平雅一シェフに協力してもらい、1日限りのポップアップレストラン「Hello, Ethical 未来が変わるピザ屋さん」を開催。これは、ASC認証のタイをはじめエシカルな食材がトッピングされた8種のピザからひとつ選んでもらい、箱を開けるとそれぞれのトッピングがどういうふうに食の未来につながっているかがわかる仕掛けになっているもの。おいしいピザをツールに、消費者と直接サステナブルシーフードの話ができるようになったのも、大きな変化だと思います。
*1 MSC 海洋管理協議会による、水産資源と環境に配慮し適切に管理された持続可能な漁業に対する認証
*2 ASC 水産養殖管理協議会による、環境に負担をかけず地域社会に配慮して操業している養殖業に対する国際的な認証
平さん
今日召し上がっていただくのは、「Hello, Ethical 未来が変わるピザ屋さん」のイベントでも提供された「海の未来をつくるピザ」です。トッピングのメインはFIP(漁業改善プロジェクト)を遂行する千葉県船橋の漁業者がとった江戸前瞬〆スズキ。〈CRAZY PIZZA〉では、塩味を抑えた風味豊かな生地を使用しているためトッピングの具材を選ばず、コース料理のメインディッシュのようなピザの作り方ができるんです。
平さん
サステナブルだからといって味は譲れません。でも未来が変わるピザ屋さんでサステナブルな食材に限定して料理したとき、どれも本当においしいと思いました。海の未来を考えて愛情をもって丁寧に扱うということは、必ず味にも反映されるんだとわかりました。僕自身勉強中ですが、スペシャリテで出していたサンマが手に入らなくなるなど海の変化を肌で実感しています。今は市場でサステナブルシーフードを選んで買うことはまだまだ難しいところですが、今後、魚も顔の見える仕入れをしてお客様にストーリーとともにおいしい料理を提供できるようになったらいいなと思います。
F.I.N.編集部
認証のついた魚を選ぶ以外に、消費者ができることはなんでしょうか?
佐々木さん
MSCやASCはわかりやすい指標ではありますが、日本の魚種や漁法でMSC認証をとれる漁業はそう多くありません。また、漁業者が認証を取得するのにはコストがかかりますし、レストランなどで「MSC認証魚を使っています」とうたうこと(=CoC認証)にもお金がかかります。そういう意味では水産庁が進める資源評価の成り行きを見守りながら、一方でトレーサビリティを明確にし、どの魚もだれが、どこで、どういったとりかたを経てスーパーなどに並んでいるかを明らかにするシステムを早急に整えていくべきだと思います。今は、消費者もレストランも認証魚以外はまだまだサステナブルシーフードを選べる状況にありません。トレーサビリティがしっかりしていないと、消費者は持続可能な漁業に関わる人たちを買い支えることもできません。
F.I.N.編集部
買い支えるとは、どういったことでしょうか?
佐々木さん
スペインのバスク地方を取材していたときに、カタクチイワシの資源管理の成功例を聞きました。ビスケー湾に面したバスク、特にサンセバスチャンは世界一の美食の街としても知られていますが、塩漬けアンチョビが特産品として有名です。ところが2005年くらいに原料となるカタクチイワシが激減したという調査結果が公開されたため、政府はその次の年から5年間禁漁を決めました。その際、漁業者に対してはいくらか補助が出たのですがアンチョビをつくる加工会社には一切補助はなし。そのため禁漁中はアドリア海からカタクチイワシを仕入れて加工したものの、思っている味には仕上がらなかったのだとか。でもパッケージに「これはビスケー湾のイワシではありません。私たちは未来のために資源管理に賛成します」と書いて販売したところ、消費者が買い支えたそう。そのおかげで、5年が経ってビスケー湾にカタクチイワシが戻ってきたとき、加工業者は一社もつぶれてはいませんでした。バスクの人たちは5年前と同じようにおいしいアンチョビを食べられるようになったと言います。
F.I.N.編集部
野菜類は生産者の顔が見える商品も多くなってきました。魚も消費者が選んで買うことでサステナブルシーフードを扱うお店も増えていくと?
佐々木さん
漁業は港が必要で、漁師さんや漁協職員、氷屋さん、船のメンテナンス事業者、加工業者、流通業者などが近隣に集積しないと成立しません。さらに漁業者の努力だけでなく加工業者やその先のレストランや消費者が買い支えることが必要です。資源管理をして漁獲量を減らしたら漁師さんの収入が減るわけですから一匹あたりの価格を上げなければいけない。漁師さんによる付加価値付けの努力と同時に、その価値を理解して買い支える消費者が増えれば、取り扱う店も増えていきます。
日本の海と食文化を未来へつなぐためには「海を守ること」「魚を食べること」を同時進行していくことが大切です。海を守るためといって魚を食べることをやめてしまったら、魚は増えるかもしれませんが漁業関係業者がいなくなり、別の意味で魚を食べ続けることができなくなってしまいます。「魚は、卵を産んで増えてくれるスピードに合わせて資源管理をしながらとるもの」。この感覚を、とる人も食べる人も当たり前に持てる未来にしていきたいですね。
佐々木ひろこさん
フードジャーナリスト、一般社団法人Chefs for the Blue代表理事。
食やサステナビリティ等をテーマに長く執筆。日本の海の現状と食文化の未来に危機感をおぼえ、2017年より東京のトップシェフ約30名、2021年からは京都よりシェフ15名を加え、持続可能な海を目指した活動を展開中。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」の有識者としてエシカルフード基準の策定にもかかわる。
平雅一さん
〈ドンブラボー〉オーナーシェフ。
東京・広尾の名店〈アッカ〉で修業後、渡伊し星付きレストランで働く。帰国後は同・下馬〈ボッコンディヴィーノ〉のシェフなどをつとめ、地元・国領で〈ドンブラボー〉をオープン。イタリア郷土料理への共感をベースに日本の食材や調味料を掛け合わせた、独自のイタリアンガストロノミーを展開。コースに組み込まれたピザの美味しさが評判を呼び、ピッチェリア〈クレイジーピザ〉を、神楽坂に〈CRAZY PIZZA at SQUARE〉開店。Chefs for the Blue設立時からのチームメンバー。
ドンブラボー
東京都調布市国領町3丁目6−43
Tel:042-482-7378
営業時間:12:00〜15:00、18:00〜23:00
定休日:水曜日
【編集後記】
国としてきちんと漁獲量を管理しましょうという前向きな流れになった現在でも、関係者は多岐に渡るため、一辺倒に漁獲量を減らして各地域で資源管理を行えばOKという話ではなく、漁師・漁師職員・競りの場・加工業者・流通業者そしてエンドユーザーである私たち生活者が一丸となって考えていかなければいけません。
漁業法が改正されていなかった5年前から、法改正やたくさんの漁業関係者の活躍で、様々な課題は抱えているものの着実によりよい方向に進んでいました。 次第に私たち生活者の意識が変わり、当たり前のようにMSCやASC認証のついた商品を手に取っている、そんな光景が楽しみです。
(未来定番研究所 小林)
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