2019.09.14

“Eatable=食べられる“を基準に、サステナブルなものづくりを。 

昨今、ファッション業界においても自然環境に配慮した活動が進んでいます。サステナビリティを意識したブランドも増えている中、高い注目を集めているのが〈エタブルオブメニーオーダーズ〉。静岡・熱海にアトリエを持ち、“Eatable=食べられる”をコンセプトにした洋服と革小物を手がけるブランドです。デザイナーの新居幸治さんと新居洋子さんはなぜ、 “食べられる”ことをテーマにもの作りを続けるのか。サステナブルなものづくりへの一つのアプローチとして、具体的な取り組みや活動を通じて伝えたい想いを聞きました。

自然由来の素材を選ぶ理由

地元の人と観光客が行き交う熱海銀座商店街。この一角に、新居幸治さんと新居洋子さんが手がける〈エタブルオブメニーオーダーズ〉のショップ「EOMO store」はあります。そこは、吹き抜けの天井や大きな階段が印象的な空間。かつて人々が集まるコミュニティプラザだった建物を幸治さんが友人たちの力を借りてリノベーションしました。ショップの奥にはアトリエがあり、耳を澄ませばトントントンと金槌の音。幸治さんと洋子さんは、もの作りを間近に感じられるこの場所で、訪れる人に着ることや身につけることの楽しさを掻き立てられる空間にしたかったといいます。「飲食店と同じで、作り手の顔が見えると安心すると思うんです。ファッション業界は不透明なことも多いから、私たちはわからないことをなるべく減らしていきたい。原材料の背景や生産過程を明確化して、納得したもの、罪悪感を持たなくていいものを手に取ってもらえたら」と洋子さん。

多摩美術大学建築学科を卒業した後、アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んだ幸治さんと、アメリカの美大を出てベルンハルト・ウィルヘルムのもとで働いていた洋子さん。二人はベルギーで出合い、一緒にもの作りをスタートさせました。「当時は合板を曲木にしたり、化学薬品でなめした革を使っていたのですが体調を崩してしまって。それで、自分たちにとっていい素材とは何か?と考えるようになりました」(幸治さん)。調べるうちに、自然素材は人にも環境にもいいと気づいたという二人。さらに、そういった素材はほとんどが“食べられる”とも。綿や麻から取れたオイルは料理にも使えるし、ウールの元となる羊は食肉としても活用できる。衣と食はつながっている。ここから“Eatable”というコンセプトは芽を出しました。

二人はできる限り自然に近いところで得られる素材を使います。また、素材だけではなく、染色や革のなめしといった加工もなるべく自然に近いものです。たとえば、鞄作りに欠かせない革は一般的にクロムなめしと植物なめしに大別されますが、二人が選ぶのは後者です。塩基性硫酸クロムとよばれる化学薬品を使ったクロムなめしは生産効率がよく大量に加工でき、しかも安価。仕上がりが柔らかいため一般的に多く流通していますが、環境面では問題を抱えています。「燃やすと有害物質が出るんです。自分たちが作ったものは土に還せるか。それを考えると、どちらを選ぶのかは自ずと答えが出ました」と洋子さん。染物は藍や柿渋、枇杷など天然染めを多用しています。ただし、天然の染色は堅牢度が低かったり、経年によって変色することも。「なので、私たちは染め直しも受け付けています。ものと長く付き合ってほしいから」(洋子さん)。

ただし、理想と現実の狭間には葛藤もあります。「たとえば“コットン100%だからすべていい”というわけではないんです。中には、表示されていないけれども化学薬品を使って加工しているものもあるし、質感をよくするためにナイロンが混ざっていたりもする。僕たちも、素材の製造や加工の過程をすべて把握できない状況がある。だから正直、100%天然素材ですと胸を張ってはいえない。でも、そこで諦めるんじゃなくて、時間をかけて追求できたらいいなと思っています」と幸治さん。

〈エタブルオブメニーオーダーズ〉は素材選びや加工方法だけではなく、デザインにも反映されています。これまで発表してきたコレクションのテーマには《Spaghetti》や《Bakery》など食にまつわるものが多くありました。2019AWの《HEXAGON Honey Bee Culture》は蜂から着想を得たもの。幸治さんは「もともと蜂には興味があって、コレクションのためというよりも個人的に研究を続けていたんです。最近、養蜂も始めたのですが、蜂のことを知れば知るほど、このままの環境ではいけないという意識が強くなりました」といいます。幸治さんがコンセプトを考え、二人で蜂の生態をリサーチ。洋子さんが色や柄、モチーフなどに反映させて、服を作る。二人の想いや問題意識を服に落とし込み、人々に伝えているのです。

人と、地域とつながるということ。

ベルギーから帰国して、熱海にアトリエを構えたのが2007年。当初は工房で作ったサンプルを東京や海外の展示会で発表していましたが、2016年にショップを構えたことで地域との関わりに変化がありました。「この建物のオーナーが町内会長ということもあって、祭礼用のダボシャツや山車のデザインなど地元の方から依頼がくるようになりました。今年の10月には観光局のサポートもあり、熱海でファッションショーをするんです。モデルは10代から90代までの地元の人たち。どういうショーになるのか自分たちにも想像がつかないのですが、熱海を盛り上げるイベントになったら」(幸治さん)。地域活動を積極的に行うのは、ファッションの未来に希望を持つため、と二人はいいます。「ファッション業界が抱える環境問題は深刻です。それを打破するためには人と人のつながりが大事だと思うんです」と洋子さん。誰から、何を買うのか。自分たちが少しでも環境に負担をかけないものを作ることで、消費者の意識も変えられるのではないか。「私たちの規模では東京で高い家賃を払いながら服をどんどん作って、売っていくということはままならないし、そもそもあまり興味がない。大事なのは目先の利益ではなくて、ブランドを通じて想いを広めること。だから無理なく続けられる場所で発表しつづけることが重要なんだと思います」(洋子さん)。最近は“サスティナブルなブランド”と言われることも多いそうですが、その言葉にあやかりたいとは思わないという二人。ブランドを立ち上げた時から、すでに未来を見据えたものづくりを行ってきたからです。

さらに、〈エタブルオブメニーオーダーズ〉は洋服や革小物がメインのブランドではありますが、そこには執着しない、とも。「私たちは繊維や革が好きで、美しいものが好きだから、ファッションという表現方法を選んだだけで、必ずしも服作りを続けていかなくてはいけないとは思わない。大事なのは、私たちが服を通して、一人一人が環境に対する意識を高めて、消費活動がよりよい方向へ行くこと」。未来に希望を持つために、二人の挑戦は続きます。

EOMO Store

住所:静岡県熱海市銀座町6-6 1F
電  話 : 0557-35-9294
営 業 日 : 水・木・金・土曜日
営業時間 : 13:00–18:00
http://www.eatableofmanyorders.com

編集後記

トレーサビリティという取り組みは、安全性確保のため食料分野での導入は進んでいますが、 アパレル分野においては、 健康への実害と直接関係ないことなどから、 特に日本では導入が遅れており、 見た目の善し悪しと価格のみが注目されています。
真の安心安全を追求されるエタブルオブメニーオーダーズさんの物作りには、自分で責任の負える範囲の中で、正しい商品を、正しく提案し、ファッションにも新たな価値感を加えていこうとされる志を感じました。

(未来定番研究所 出井)

F.I.N.的新語辞典

第28回 LIMEX