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2022.12.29
未来定番サロンレポート
すっきりと晴れた2022年11月27日、25回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。
今回は「ヨソオイノカタリバ」と題して、世田谷区・豪徳寺にある服のお直し&針仕事のアトリエ〈retouches(ルトゥーシュ)〉代表の早水佳名子さんをお招きし、お直しの基本である針や糸の選び方から「ボタン付け」と手縫いで行う「ほつれた裾の直し方」について教えていただきました。(早水さんには、2022年3月にもF.I.N.にご登場いただいています)
(文:大芦実穂/写真:西あかり)
ヨソオイノカタリバとは。
身につけていた着物を、着なくなった後も寝間着やおむつ、雑巾にして、捨てずに長く大切に使っていた江戸時代。そうした、当時の人々の考えやものを大切にする姿勢から学べることがたくさんあります。さまざまな時代を経て、いつしか衣服は気候や環境に合わせるだけでなく、自己表現の手段にもなっています。大量消費を前提とした大量生産システムが陰りを見せ始めている令和の今、未来定番サロンでは、「ものを愛して、装いを楽しみ続けること」は、とても豊かなことだと考えています。5年先のファッションとは、私たちにとってどんな意味を持つのでしょう。
「ヨソオイノカタリバ」は、さまざまな領域で活躍する方に登壇いただき、実際に手を動かしてお直しを体験したり、衣服にまつわる歴史やストーリーを学びながらこれからの人とファッションの関わり方について考えていく場とします。
畳の上に置かれたちゃぶ台が2つ。その中央に早水さんが着席し、今回の参加者がぐるりと囲むように座ります。みなさんに参加理由を尋ねると、「おばあちゃんの裁縫道具を使いたくて」「昔習ったボタン付けをもう一度ちゃんと知りたい」などさまざま。そしてもちろん早水さんのお直しのファンという方もいらっしゃいました。
まずは早水さんから簡単な自己紹介が。
「東急世田谷線・宮の坂駅近くで、夫と一緒にお直しのアトリエをやっています。実は来年のはじめに岡山に引っ越す予定です」とニッコリ。参加者のみなさんと挨拶を交わし、さっそく作業に移っていきます。
生地に合った針、糸、ボタン選びが大切。
「針仕事が久しぶりという方もいらっしゃるかもしれませんね。今回はボタン付けと裾上げという、基本のお直しをやっていきましょう」と、まずは道具の説明からスタート。ちゃぶ台には針と糸、針山、ハサミなどの裁縫道具が並びます。
「針は、生地の厚さに合わせて選ぶと良いです。例えば厚地のデニムなら太い針、Yシャツのような薄地は細い針が合いますね。もしこれから揃えるなら、『双鳳 メリケン針セット』がおすすめです。私は洋裁の短い針に慣れていますが、長針・短針どちらでも、手に馴染んでいる長さでいいと思います。
次に糸ですが、コートやジャケットのボタンを付けるのに向いているのは、「ボタン付け糸」というカードに巻かれた20 番・30番の太めの手縫い糸です。なければ、太いミシン糸でも。シャツやブラウスなどの薄地には、 細い手縫糸か、50番・60番ミシン糸でも大丈夫です」
さらにボタンの説明も。
「2つ穴、4つ穴とありますが、コートなど厚手の生地は4つ穴をつけることが多いです。糸の掛け方も、並行かクロスかありますが、ボタンの中央が凹んでいるデザインであれば、クロスでもOKです。平らなボタンにクロスをしてしまうと、摩擦で糸が切れやすくなるので注意してくださいね」
デニムとシャツに
ボタン付けを実践してみる。
さて、いよいよ実践編です。
まずは糸の玉結びから始めました。学校で習った指に巻きつける糸結びではなく、より簡単で正確な方法があると早水さん。針に巻きつける方法を披露すると、みなさん「そんな簡単な方法があったのか!」と目からうろこ。
玉結びができたら、ボタン付けのデモンストレーションへ。
早水さんからは、大事なポイントとして、なるべくボタンの中心に針を刺していくこと、ボタンがかけやすいように足と呼ばれるゆとりをつけてあげること、それから糸が絡まないテクニックなども教えてもらいました。
参加者のもとにはデニム生地とシャツ生地の2パターンが配られ、それぞれにボタン付けを施していきます。
途中で、「糸が足りなくなってしまいました」「絡まったらどうしたらいいですか?」など、質問が飛び交い、それに対しての応急処置方法を早水さんがレクチャー。意外にも途中で失敗したと思っても、やり直す方法はいくつもあるということがわかりました。
また、今回のワークショップを見学しに、次回の「ヨソオイノカタリバ」の講師でもあり、〈谷中レッドハウス ボタンギャラリー〉オーナーのドリーヴス・公美さんも参加され、ボタンの違いや魅力についても少し解説いただきました。
チクチクと、
布と自分と向き合う時間。
続いて、手縫いで行う「ほつれた裾の直し方」を習います。その前に、足を伸ばしたり、水分補給をしたりして小休憩。みなさん真剣に聞き入っていたので、少しリラックス。
パンツ用とスカート用の布を準備してくれ、「パンツとスカートどちらをよく履きますか?」と質問が。それぞれの生活スタイルやワードローブに合ったお直しを実践していきます。
まずは早水さんがスカート用の布で実践して見せます。
「あげたい丈の部分で固定するため、マチ針で止めていきます。より綺麗に仕上げたい方は、躾(しつけ)糸をしましょう。布をテーブルに置いたまま、なみ縫いするとよくできます。テーブルを傷つけないよう、下敷きを敷いてくださいね」
まつり縫いの場合、糸が表面に出すぎない方が美しいため、細い糸を使うといいそう。ミシン糸の90番がいいですよ、と教えてくれました。
さらに、ほつれた糸を再利用するというアイデアも。
「ほつれた糸がスルスルと引いて解ける場合は、その糸をアイロンで伸ばして使うのもおすすめです。色も合っているから新しい糸を用意しなくて済みますし、手縫いで使う分の3倍くらいの長さが取れます。手縫いのまつり縫いですから、十分足りますよ」
参加者の方からは、「縫っても縫っても終わらない〜」という声や、「まるで瞑想みたいですね」という声も。今日教えていただいたことを思い出しながら、お家でも実践できるよう、使っていた針と糸はそのまま参加者の方々にプレゼントされました。
お直しの感想をみんなでシェア。
ボタン付けとほつれた裾の直し方の実践が終わったら、今日の感想をみんなで共有しました。
「裾がほつれたスカートがあるので、家に帰ったらすぐにやります。見よう見まねでやっていたので、今日やり方を教わってよかったです。忘れてしまいそうなので、すぐに手を動かそうと思っています」
「昔学校で習って、そのまま自己流になっていました。今日は『なぜこうするのか』、現実的な方法を教えてもらえて、納得できました」
「以前、松坂屋上野店で買ったワンピースを早水さんに直してもらったことがあるんです。冬が来ると毎年来ています。お直しの選択肢があると、好きな服を諦めなくていいのでうれしいです」
洋服との関わり方を見直す、すばらしい機会になったようでした。
2時間にわたるワークショップもついに終了。本番を終えた早水さんに、イベントの感想やこれからの目標について伺いました。
F.I.N.編集部
今日はありがとうございました。本日のワークショップはいかがでしたか?
早水さん
洋服に対しての「こうだったらいいな」って、みなさんお持ちだと思うんです。お直しの手法を1つ2つ覚えてみるだけでも、服と自分との関係がぐっと近づくように思います。生活の中で活かしていただけたらうれしいです。
F.I.N.編集部
私たちは「5年先の未来」をテーマに活動していますが、早水さんのアトリエができたのがちょうど5年前なんですよね。
早水さん
そうなんです。宮の坂にお店をオープンさせた2017年当時と今では、お直しへの関心がずいぶんと変化したと感じています。コロナ禍になって身の周りを整理する人が増え、私たちのことを見つけてくれた人もいました。気候変動・環境問題もさらに浮き彫りになって、ものや洋服を整理したいけど、破棄することにためらいを感じることもありますよね。「ちょっと自分で直してみる」「直して着る」を選んでみる人が少しずつでも増えた未来は、どんな風に なっていくのか楽しみです。
F.I.N.編集部
お直しの基本として、「ボタン付け」と「ほつれた裾の直し方」を選ばれた理由を教えてください。
早水さん
自分のものを自分で直せるという実感を持ってほしかったからです。小さなことですが、「自分でやれることがある」というのは安心感にもつながると思います。裁縫ができないことにコンプレックスをお持ちの方もいますが、恥ずかしいことでもなんでもありません。やったらできるようになりますし、できるようになったら楽しくなる。その取っ掛かりとして、まずは「ボタン付け」と「ほつれた裾の直し方」がいいと思いました。
F.I.N.編集部
みなさんに愛されている〈ルトゥーシュ〉ですが、2023年1月に岡山県に引っ越すとのことで。
早水さん
もともと自然豊かな土地に住んでみたいという気持ちはあったのですが、もう少し先だと思っていました。ところがコロナ禍で2ヵ月お店を休んで、料理をゆっくりするなど自分のために使う時間をたっぷり持てたことで、これってすごく望んでいたことだと気がついたんです。
これからどんな暮らしをしていきたいかと考えた時に、この気持ちを大事にしたいと思いました。いつかではなくてもう動き始めても良いんだなと思いました。コロナ禍で、庭に野菜など、食べられる物があることの安心を感じたことも大きかったです。その土地にあるものを生かしたり、自分で作ったりできる場所で暮らしたいと思うようになって。自分の中の生きていく力を掘り起こして暮らしながら、縫い物もやっていきたいなと思っています。
F.I.N.編集部
とても素敵なお話をありがとうございます。岡山でのご活躍も期待しています!
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