2019.10.18

未来定番サロンレポート

Vol.13 “5年後”の未来の自分の姿とは。

秋らしい陽気に恵まれた2019年9月21日。東京・谷中にて、13回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは、未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者の皆さんと一緒に考え、意見交換する取り組みです。今回のテーマは、「製硯師・青栁貴史と語り合う、5年後の自分の作り方」。動画メディア「ニッポン手仕事図鑑」編集長・大牧圭吾さんが聞き手となり、ものづくりへの思いや作り手として目指す姿から、テレビでは伝えられていない本音まで、これからものづくりの発展を担う参加者と語り合いました。

(撮影:河内彩)

「ステレオタイプ」を使って、自己紹介

最初に、大牧さんの提案で、「ステレオタイプ」というワークを用いて、自己紹介を行いました。用紙に自分の職業または肩書きだけを書き、その言葉に対するイメージを全員が順に書き込んでいきます。そして、書かれたイメージを使って自身について簡単に自己紹介をします。トークイベントなどで一緒に登壇することも多く、公私ともに親交のあるお二人のユーモアを交えた自己紹介のおかげで緊張もほぐれ、続く参加者もリラックスしながら行えた様子。少人数ということもあり、ぐっと距離も縮まって和やかな雰囲気になりました。

 

大牧さんは今回のテーマとして、「自分自身の5年後もそうだけど、自分たちが応援したい人の5年後も考えていくためにも、伝えることって大切だなと思っています。裏テーマとして、「伝える」ことも考えていきたいと思っています。使う人がものの価値を感じて買ってくれる人も大事だけど、ここにいる人たちが、日本のものづくりの伝え手になることも必要」と話します。

メディアに露出する

作用と反作用

浅草で80年続く書道用具専門店〈宝研堂〉の4代目である青栁貴史さん。製硯師として、硯の製作だけでなく、修理・改刻・文化財の復元・復刻製作に従事し、学校や各地での講演を通して日常生活における毛筆文化の復活を目指して活動しています。動画メディア「ニッポン手仕事図鑑」、TBS「情熱大陸」への出演を機に、ますます注目を集めている青栁さんですが、実は20代の頃は今以上にメディアに出ていた時期があったのだそう。体力勝負で厳しい職人の世界ではなく、“かっこいい”“憧れ”という表面的なイメージで取り上げられることが多く、葛藤もあったと話してくれました。

 

「あの頃は技術的なことではなく、パーソナルな部分ばかり取り上げられていました。趣味でチェロや剣道をやっているとか、温泉に行くという企画まで(笑)。表面的な部分だけを見て職人になりたいと学生が来てくれても、現実を見てダメだったと思ってもらうと困るんです。葛藤というか、20代の頃の困りごとですね」。

そんな理由から、しばらくはメディア出演を避けていたのだそう。

 

久しぶりのメディア出演は、大牧さんが編集長を務める動画メディア「ニッポン手仕事図鑑」でした。

「とても熱心に話してくれました。きちんとリアルな部分を伝えてくれるなら、製硯師というカテゴリーで、工場で働いている仲間も取り上げて欲しいという僕の思いを汲み取っていただけたのでお引き受けました」と青栁さん。

「『情熱大陸』などメディア露出が増えるようになってから、青栁さんの中で流れは変わりましたか?」という大牧さんの問いかけに対し、メディアに露出することの作用と反作用について話してくれました。

 

「硯=青栁貴史とイメージが、世間に広まったなという感じはありました。同時に、書道、水墨画など硯と関わるものまで一緒に活性化することは影響力を持っている番組の作用だと思います。ただ作用があれば反作用もある。僕が作った硯は何百万もするというイメージを持たれてしまうことも。硯という日用品を作っているだけなのに、距離が遠くなってしまうというのも、影響力のある番組の特徴かもしれないですね」と青栁さん。

オファーが次から次へと増えるなか、青栁さんは大牧さんによく仕事の相談もしていたのだそう。「伝える側は、受け取り方までコントロールできないからこそ、リリースするときは怖さもあります。バズることを考えたら残すだろう視聴者が喜ぶ内容も、伝えるべきではないと判断したらあえてカットすることもあります」。大牧さんは、伝え手として慎重に発信することが大切だと話してくれました。

メディアに出てから描く

5年後の未来とは

「メディアに出る前に描いていた5年後の未来と、出てから描く5年後の未来に、違いはありますか?」と大牧さんが尋ねると、

青栁さんは「仕事をする上で、自分の仕事がどう社会貢献に結びつくのかを考えることは大切だ」と話します。思い描く希望を実現するために、助けをいただけるものがあるとしたら、メディアはそのひとつだとも。「メディアに露出するようになってから、熱意がある方たちとより密接に関わるようになりました。メディアに出たり、受賞したりすることは、願いを叶えるための足がかりになると感じています。熱量を持っていると、頑張っている人を助けたいと人は思ってくれますし、僕はそんな人たちに恵まれました」。

しかし一方では、「メディアはあくまで援護射撃。自分自身が業界を牽引しようとしている姿勢、熱意と行動力、哲学、思想などに裏付けされている社会貢献、世のため人のためになろうという考えを忘れてはいけない」と話します。

工芸とは、日常に根づいているもの

理想的な職人との関係性とは

ワークショップやイベント、メディアの露出が増える一方で、お二人が気がかりなことは、職人との距離感や関係性について。

「どこかに出向いて硯を彫ると、『大変ですね、頑張ってください』と言われることも多く、伝統工芸のワークショップは、他人事になってしまいやすいんです。工芸は、昔から生活に根づいてきたものなのだから、もっと自分ごとにしてもらうことが大事。その人の人生にどのように寄り添えるか、現代の生活にどう根づいていけるのかということを発信できるといいですね」と青栁さん。

そして大牧さんは「職人さんを手の届かない存在にしてはいけないと思うんです」と話します。

「青栁さんは、芸術家ではなく職人ですし、作品は芸術ではなく日用品です。職人さんを尊敬すればするほど、職人さんが作るものをしまうか飾るかで、使わない人が増えるんです。だから、僕は子供向けのワークショップではとくに、しまわずに使って壊れるくらいが職人さんも嬉しいと話すようにしています」

 

青栁さんは「例えば、湯のみもお茶を飲むためだけに生まれてきたものだけど、国宝と呼ばれるものもあります。硯を作る人も湯のみを作る人も、昔から日用品を作る人ということは変わらないんです。それが、誰かがあの人は巨匠だ、芸術家だと言うとそういう見え方になる。熱心に作れば作るほど、研ぎ澄まされれば研ぎ澄まされるほど、誰かが評価してくださった時に、芸術家と職人の間で苦しむことになる。日用品を作る職人は、その危うさを常に抱えているんです。僕は芸術作品を生み出しているつもりはありませんし、石を硯にしているだけ。技法や大小に関わらず、素材である石の良さを生かすことだけを考えて作っています」と職人としての思いを話してくれました。

 

なかなか聞く機会がない作り手の本音や想いに、参加者も真剣に耳を傾けます。質疑応答も交えながら、作り手としてどんな姿勢でものづくりをしているかどう伝えていくべきかなど、胸の内を話してくれました。

伝える力を養う

ワークショップ

最後に、これから自分がどう伝えていきたいか、伝える力を養うために、11月に行われる青栁さんの個展のフライヤーを見てキャッチコピーやどんな人に来場してもらいたいかなど、伝え方を考える時間を設けました。

 

「特別ではなく日用品だから意味がある」

「見る・彫る・使う硯」

などさまざまなキャッチコピーの案とともに、

会場からは、「若い世代の人にもっと身近に感じてもらいたい」、「娘と一緒に見て生き方や社会貢献の意味を考えてもらいたい」などの声も。キャッチコピーを考えることを通して、職人さんとの向き合い方やこれからどう接していくか、自分に何ができるのか、考えるきっかけになったようです。

 

「10年後に買ってくれる方がいないといけないのはもちろんですが、大事なのは、今買ってくれる人がいること。まずは知っていただくために、まずは購入してみるところから始めてもらいたい。300円の硯でもいいんです。300万円であることはないんです。ひとつのアクションを起こすことが大切。そのきっかけを作ることが、今回の展示の目的でもあるし、それを求められていると感じています」。青栁さんも今回の展示への思いも語ってくれました。

終了後、イベントの感想やイベントでは聞けなかった原石や硯のことなどについても、お話を伺いました。

FIN編集部

今日はイベントを終えていかがでしょうか?

青栁さん

参加者との距離感も近く、ざっくばらんにお話しできたと思います。この空間なら、焼き鳥や枝豆を食べながらでもよかったですね(笑)。今後はもっと人と会って伝える機会を持ち、伝統工芸を日用品として、特別ではなく日常で使ってもらえるようになるきっかけ作りが今後の課題でもあります。

大牧さん

あっという間に時間が過ぎてしまいましたが、青栁さんとこんなに近い距離で話しを聞ける機会もないので、とてもいい会でしたね。考えるきっかけ作りとして余白を残して終われたという意味でもよかったかもしれません。“いいもの=特別なもの”、になってしまう傾向があるので、もっと身近に感じてもらえるといいですよね。僕は普段青栁さんが作った硯を愛用していて、小筆と墨も一緒に携帯しています。日用品は、使ってなんぼだと思っていますから。

青栁さん

普段打ち合わせや飲みの場でも、人と話した時のメモ書きなどもすべて筆で書いていますよ。

大牧さん

そう、僕と待ち合わせをしている時、待っている間に僕に筆で手紙を書いてくれますからね(笑)。

FIN編集部

こんなに気軽に持ち歩ける硯もあるとは知りませんでした。硯や書道と聞くと少し身構えてしまうのですが、今日のお話で日常で使ってみたくなりました。今日は硯や原石もお持ちいただいていますが、見せていただけますか?

青栁さん

この硯は、僕が考案したデザインではありませんが、中国の無名の製硯師が作ったものを再現して作ったものです。道具は、ノミ。よくミノと間違う方が多いですが、それはかぶるものですからね(笑)。全部で8種類ありますが、その一部をお持ちしました。

FIN編集部

硯に適した石はどのようにして分別するのでしょうか?

青栁さん

石を指ではじき、石の音を聞きます。こうすることで石の中の構造がわかるんです。これは軽く高い音がするので密度が高い方ですね。左の硯は四方八方から固まってできた泥岩で、柔らかい音がしますよね。こういう石は磨り心地も柔らかく心地よいものです。

FIN編集部

日本の石でも硯を作られていますが、中国と日本の石では、どんな違いがあるのでしょうか?

青栁さん

日本の石の方が若いんですよ。若いということは密度が低い。彫りやすいのだけれど外圧に弱い特徴があります。ここにある石で一番古いものは中国の1億6000万年前のもの。日本最古の石は8000万年前から1億年前といわれていて、宮城県の石や僕が調査している北海道の石などです。

FIN編集部

そんなに古くからの石を使って硯を作るのですね。ますます興味深いです。

大牧さん

青栁さんは工房の中はもちろん、山で石を選ぶ姿はもっと魅力的ですよ。今日は石についてあまり話せなかったのが残念。これから青栁さんはじめ職人さんをどう応援すればいいか、人を育てていく話など、もっと色々な話を聞いてもらう機会を持ちたいですね。