2021.01.04

未来定番サロンレポート

Vol.18 未来の価値観を体験し、考えを深める「未来定番茶会」。

師走の慌ただしさを感じはじめた2020年12月5日。18回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。

(撮影:小野真太郎)

未来定番茶会という実験的な試み。

新型コロナウイルスの影響で、生活スタイルや考え方が変化したという人は多いでしょう。そこで未来定番研究所では、今後さらに多様化 が進むであろう人々の暮らしや価値観についてリサーチを実施。そして「都市を離れ、田舎でフリーランスとして働く人」「環境保護活動を中心として、日常生活をおくる人」など、今後先鋭化していくであろう価値観を持った8人を設定し、行動パターン や考え方をより具体的にしてペルソナ像に落とし込みました。

 

未来定番茶会は、架空に設定したこの8人のペルソナ像から一人を招き、お茶会を開いてみるという試みです。お茶会を企画していただくのは、現代の「茶の湯」のあり方を探求し続けるアート集団「The TEA-ROOM」のメンバーである松村宗亮さんと、同じく「The TEA-ROOM」に所属する和菓子作家の坂本紫穗 さん(このお二人には、昨年の冬に掲載した短期連載「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」の第2回 、第4回 でもご登場いただいています)。今回ペルソナとする人物を招くお茶会では、どんなしつらえで、どんな飲み物やお菓子を用意して、どのようにおもてなしをしたら喜んでもらえるでしょうか。伝統的な日本のお茶会の「型」に、ペルソナ像を当てはめ未来の人々の価値観を体験する。その体験や対話を通して、未来の価値観にまつわる考えをより具体的にしていく、実験的なサロンです。

今回、おもてなしをするペルソナ像とは。

今回お茶会にお迎えするペルソナ像は、PC1台を持って世界中を移動しながら働く女性、ノマドさん。彼女は、好きなことを本気で追求する性格です。今はサステナビリティに興味があり、スローフードについても学びを深めるべく会社を辞めてイタリアの大学院へ留学することを決めました。休日は親しい友人とホームパーティーを楽しむことが大好き。和室には、そんなノマドさんのマネキンが置かれています。古着を着て、エジプトで購入したストールを巻き、メッセンジャーバックを持ったノマドさんのトルソーが、存在感を放ちます。

今回参加するお客さまは、ノマドさんと一緒にお茶の席を囲みます。坂本さんは、ノマドさんのイメージカラーを設定。どんなときでも自分らしくあるイメージの「常磐緑」、ナチュラルな素材を好むノマドさんが好きそうな「生成り色」、グローバルに活動するイメージの「空色」を選んでいただきました。ノマドさんが具現化したことで、よりイメージがしやすくなります。

 

午後になるとノマドさんと一緒にお茶会に参加するお客さまが、未来定番研究所に集まります。待合室ではアロマオイルが置かれていて 、心地良い香りでお迎え。待合室でお客さまに振る舞われたのは、オーガニックのドライフルーツとハーブティー。ポルトガルの鮮やかなお皿に盛り付けられています。

和室に入ると、掛け軸にはiPadが飾られていて世界中を旅しながら撮った写真や、いろんな国にいる多くの友人たちとの写真が映し出されています。松村さんはデニムの着物に身をつつみ、亭主としてお客さまを迎えてくれました。

本席では、坂本さんが今回の未来定番茶会のためにオリジナルで作ってくださった お茶菓子とともにお茶が振る舞われました。

坂本さんがこの日のために特別に作ってくださった茶菓子「sanctuary」。

お茶を提供する茶器もフランスの蚤の市で買ったアンティークのカフェオレボウルや、ベトナムの焼き物、飛行機の絵が描かれた器など、いわゆる茶道で使われる茶碗とは一線を画するものです。世界を飛び回っているノマドさんをイメージして選んだ一つひとつの小物からも、彼女をもてなしたいという気持ちが伝わってきます。お茶も有機抹茶を使っているので、スローフードやオーガニックに興味があるノマドさんも、きっと喜んでいるでしょう。

和気藹々として雰囲気で行われた、意見交換。

お茶を楽しんだ後は、お客さまと亭主みんなで歓談をします。今回、お茶席を共にしたノマドさんについて、もっと人物像を掘り下げました。彼女はどんなものを好み、この情勢のなかでどんな買い物をしているか、自由に想像し意見を交換。

「外出が制限され、海外にも気軽に行けなくなってしまった今、家で本や映画を楽しんでいるのではないか」

「人を応援するという思いが根底にありそう。知人から購入した野菜などで、お料理を楽しんでいるのではないか」

「外に出られないから、家庭菜園などで半自給自足の生活をしているかも」

お客さまはノマドさんの気持ちになって、想像を膨らませます。ノマドさんに共感できる点や、新たに発見した考え方などを共有していました。

今後定番になっていくであろう価値観を持つ人のライフスタイルを想像することによって、自分自身はどういう暮らしをしていきたいか、どんな風に買い物をしたいかなど、一人ひとりの未来を具体的に考えるきっかけになったお茶会。当日はじめて会う人たちと、お茶席を囲み意見を交換するというなかなかできない体験は、参加いただいた方々にとって、とても有意義なものになったのではないでしょうか。

未来定番茶会を終えて。

F.I.N編集部

今回の未来定番茶会。どのようなコンセプトで企画されたものでしょうか?

松村さん

お茶会を開くにあたって、未来についてディスカッションするような機会をつくりたいと思いました。ちょうど未来定番研究所で、コロナ禍を経た後の価値観についてリサーチを進めているとのことだったので、その人物像をイメージしてお茶会をしようと考えたんです。より具体的な人物像が浮かび上がるかもしれないし、参加した人も未来の価値観について改めて考えるきっかけになる。そんな場所をつくりたいと思いました。

F.I.N編集部

お茶の席とは、今回のお茶会のように自由な雰囲気なのですか?

松村さん

お茶会は人と人の交流を図るのが最大の目的だと僕は思っています。もしかしたら今回のお茶会は、茶道のルールからは外れているかもしれない。それぞれの解釈があるので、そう捉える人もいるでしょう。しかしお茶会に初めて参加する人が、茶道に興味を持ってくれるきっかけになったらいいなとも思います。本格的な茶道にはまた違った楽しみがあるので、その入り口になることもできるかもしれません。

坂本さん

今回は、いわゆる茶道のお茶の席とは違いお茶会というフォーマットを使った意見交換会です。コロナ時代以降の社会について、同じように問題意識を持っている方も多く、意見交換をすることで学びが深まる場になったと思います。

F.I.N編集部

活発なディスカッションが行われていて、とても楽しい雰囲気でしたね。

坂本さん

人々の消費行動や、意識の変化を感じている人は多いと思いますが、それを面と向かって誰かと話すのは難しいことかもしれません。インターネット上で情報を見たり、大手会社のリサーチ結果を目にしたりすることはあっても、意見交換をする場所はあまり無いのかも。そういう場をつくれるのも、お茶の力だと感じました。

松村さん

お茶会という枠組みのなかだと、立場や役割など関係なくみんな平等に話せるんですね。話をはじめる前にお菓子を食べて、温かいお茶を飲む。そうすることで心が緩みます。食を共有することで一体感も感じられるし、まず会話しやすい雰囲気をつくることができるのです。

坂本さん

会議などにも、お茶会のフォーマットを取り入れたら意見交換はしやすくなるかもしれませんね。今回はコロナ禍ということもあり、人数を絞って開催しました。しかし、それが功を奏した部分もあります。大人数だとプレッシャーを感じますが、少人数だと話しやすいことも。結果的に内容の濃い意見交換ができました。

F.I.N編集部

コロナ禍を経て、5年先のお茶会は変化していると思いますか?

松村さん

人に会いたい、各地を移動したいという欲求は、抑えられないと思います。お茶会は人が集まる場所なので、やはりデジタルに置き換えることは難しい。リアルに人が集まれる機会として、ますます重要になっていくかもしれません。

坂本さん

今回は普段の茶道では使わないような小物を取り入れることで、ノマドさんという人格によりフォーカスできたと思います。いろんな意見を聞くことができて、私たちもたくさんの発見がありました。当たり前ですが、みなさんそれぞれ仕事があって、意見も多様。そんな社会の縮図がこのお茶会にありました。知らない人が価値観を持ち寄れる場をつくれたと思います。

松村さん

亭主は、お茶会を企画するとき「今回はどんな場がつくれるんだろう」とある程度想定をしながら準備をするのですが、思わぬ方向に転がるのもまた楽しみのひとつです。茶道には「一座建立」という言葉があります。亭主とお客さま全員で空間をつくるという意味で、お茶のひとつの理想とされています。人生においても、出会った人とその瞬間を一座建立していきたい。人と会うことが貴重になった今だからこそ、その価値はもっと上がっていくと思います。

考え方を共有し、学びを深めた未来定番茶会。次回は、また別のペルソナ像を設定し、企画していただきます。未来の価値観をさまざまな角度から体感できるこの茶会。次の開催も楽しみです。

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