2020.01.07

これからの5年で変わるもの、変わらないもの。<全8回>

第4回| 和菓子作家・坂本紫穂さんの場合

今起きている”変化”の中から5年先の未来の種を探してきたF.I.N.。変化を追い続けてきたからこそ、これまで目を向けてこなかった、”変わらないもの”の中にも未来の種の可能性を感じるようになりました。そこで、2019年から2020年へと移り変わる今のタイミングで、ビジネス、カルチャー、ライフスタイルなど、各分野を牽引する方々にご登場いただき、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」について伺っていきます。

今回お招きしたのは、和菓子作家の坂本紫穂さん。「印象を和菓子に。」をコンセプトに自然物や四季などから受け取った印象をインスピレーションにして独自の和菓子作りを続ける坂本さんに、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」についてお話しいただきました。

イラスト:tent

5年先に変わっているもの:「人の感性の変化の速度」

5年先も変わらないもの:「人の心に残る印象」

これからの5年で変わるのは例えば「人の感性の変化の速度」かな、と思います。ファッションや食べ物、言葉など、あらゆるものにおいてのトレンドがありますが、これはその時代を生きる人々が持つ感性の変化から生まれるもの。1人ひとりがいつでもどこでも手軽に情報発信ができるようになったことで、同時に、それを受け取る人の感性の変化が、以前に比べてとても速くなったと感じています。このスピードは、5年後さらに加速しているのではないでしょうか。

 

一方で、5年先も変わらないものは「人の心に残る印象」だと思います。以前、和菓子教室に参加してくださった女性の方が、椿の和菓子をじっと見つめながら「このお菓子を見て、子供の頃に住んでいた家の庭の椿を思い出したわ。」と話してくれたことがありました。その女性の嬉しそうに懐かしむ表情を見た時、「和菓子の仕事をしていてよかった」と、しみじみ思ったのを覚えています。何年経っても心に残るかけがえのない風景というのは、この女性にかぎらず誰もが持っているものなのではないでしょうか。そのように人の心の奥底にある尊い記憶を呼び起こすもののひとつとして、和菓子がお役に立てれば嬉しいと思っています。私がシンプルな菓銘をつけているのも、お客様の心に届きやすいお菓子にするためです。より身近に和菓子を感じてもらい、見た人食べた人の気持ちがホッとするような和菓子作りを大切にして、これまで活動を続けてきました。

 

私にとって大切なことは、和菓子を通じて出会えた人との繋がりです。これから先も多くの人に活動を知ってもらいつつ、出会えた方々との関係性を大事にしながら和菓子作家を続けるつもりです。今のところ、あと50年はこの活動を続ける予定なのですが(笑)、どんなに時代が変わっても私らしいスタンスでお菓子を作り続け、皆さまに変わらない安心感を与えたいと思いますね。

Profile

坂本紫穂/和菓子作家

1982年栃木県宇都宮市出身。IT企業を退職後、和菓子作家としてオーダーメードの和菓子を作品とした制作・監修。和菓子教室やワークショップ、和菓子のデモンストレーションおよび展示を手掛ける。「印象を和菓子に。」をコンセプトに日々のあらゆる体験、印象を表現し続けている。

編集後記

2020年春には、現在よりも通信速度が約100倍速くなる次世代通信規格「5G」の商用サービスが日本でも始まります。5Gが導入されれば、動画のやりとりももっと気軽にできるようになり、SNS上で交換される情報の量も爆発的に増加し、激増した情報にふれることで、坂本さんがおっしゃるように、人々の「感性の変化の速度」がさらに加速していくことでしょう。
そんな情報過多の社会のなかで、なにを選び取るのか?自身の感性や直感力がより重要になってくる気がします。

(未来定番研究所 菊田)