2019.12.26

これからの5年で変わるもの、変わらないもの。<全8回>

第3回| 新政酒造株式会社代表・佐藤祐輔さんの場合

今起きている”変化”の中から5年先の未来の種を探してきたF.I.N.。変化を追い続けてきたからこそ、これまで目を向けてこなかった、”変わらないもの”の中にも未来の種の可能性を感じるようになりました。そこで、2019年から2020年へと移り変わる今のタイミングで、ビジネス、カルチャー、ライフスタイルなど、各分野を牽引する方々にご登場いただき、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」について伺っていきます。

今回お招きしたのは、秋田県秋田市にある1852年創業の老舗酒蔵・新政酒造株式会社代表の佐藤祐輔さん。新政酒造の日本酒は、伝統的製法にこだわりながらも新しく、国内外の日本酒好きが一目置く唯一無二の存在。常識にとらわれない試みから、日本酒業界の革命児とも呼ばれる佐藤さんに、「これからの5年で変わるもの、変わらないもの」についてお話しいただきました。

イラスト:tent

5年先に変わっているもの:「味わいとデザイン」

5年先も変わらないもの:「伝統的製法の意義」

日本酒は、昔は贅沢なお酒で一部の裕福な人々の間だけで楽しまれていたお酒ですが、戦後は大量生産の弊害で人気が凋落した過去があります。ただし、ここ5年くらいで幅広い層の方に飲んでいただけるようになり、また日本酒の美味しさや素晴らしさを理解してもらえるようにまで持ち直してきています。

 

その一方で、今後どのように進化していくかが問われる、節目の時期を迎えているとも言えます。そんな中、私たちが考える変わるものとは、「味わいとデザイン」です。これは5年先と言わず、ほぼ毎年変わっているもの。短いスパンでお客さんが求めるものは変わりますし、微生物の力を借りて自然に即したものづくりをする上では、その時の気候や環境によって変わることは当然とも考えています。

 

逆に、変えてはならないのは、「伝統的製法」で作り続けること。もちろん美味しく飲んでもらいたいけれど、味のために伝統的製法を捨てるということはあってはならないと思うんです。日本酒だけでなくほとんどの伝統産業にいえることですが、伝統産業を植物に置き換えると、花に値するのがパッケージなどの「デザインと味わい」。そして種に値するのが「伝統的製法」。お客さんが花に惹きつけられてくることは確かですが、一番大事なのは核となる種です。花のことだけを優先して種が変わってしまったら、その植物は長く生きてはいけません。いいものや伝統を長く受け継いでいくためには、きちんとした伝統的製法で作られているか、酒蔵がどう地域と関わっているか、環境に配慮して作られているか、そういう核となる部分が今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。

 

新政酒造では、秋田県産の米のみを使い、天然の乳酸菌を活用する伝統製法「生酛」で醸造しています。酵母も昭和5年に当蔵で発見された「きょうかい6号」を使用。日本酒を発酵させる容器は、来年再来年を目処にすべて木製にする予定です。また近年自社でも無農薬米を栽培し、約15%は自社栽培の米を使っています。正直、今のやり方は人手も手間も技術も必要で、利便性や生産効率を考えると誰も選ばないようなやり方ですが、今こそ選択すべきだと思っています。環境問題の視点から見ても、これからの5年は大きな転換期。利便性や目先の利益だけを求めて生まれた方法や物は、これから5年、10年でどんどん衰退していくように思います。プラスチックの問題もそうですが、戦後の大量生産時代に生まれた利便性の高いものや生産効率を高めるための機械、農薬など、目先の利益を考えて作られたものたちが今岐路に立たされているんです。新政酒造にも、効率を優先して伝統的製法から遠のいてしまったために、長期的な停滞を招いてしまった時期がありました。だからこそ、時代やニーズに合わせて柔軟に変えていくこと、変えずに守り続けることをきちんと選別していかなくてはならないと強く感じています。目指すのは、徹底的に伝統的製法にこだわった上で、美味しいお酒を作ること。2つを両立させつつお客さまにも喜んでいただければ、次に続く若い酒蔵も増え、日本酒業界全体に良い流れを作っていけると思っています。

Profile

佐藤祐輔/新政酒造株式会社代表

新政酒造株式会社8代目。東京大学卒業後様々な職業を経て、フリージャーナリストに。2005年、静岡「磯自慢」の味に感動して日本酒に関心を持つ。酒類総合研究所で酒造りを学んだ後、2007年に入社。以来、従来の日本酒と一線を画す創造的かつ実験的な日本酒を提案し続けている。また、秋田産の原材料にこだわり自社の田んぼで米作りをするなど、日本酒による地域づくりにも貢献。http://www.aramasa.jp

編集後記

日本酒づくりの文化的な価値を尊重し、伝統的な製法で、

芸術作品のようなお酒を創る佐藤社長の挑戦は、

サステナブルであり、秋田という地域の魅力アップにも繋がっています。

「濃くて軽い」唯一無二の新政の酒づくりに、今後も注目です!

(未来定番研究所 出井)