2020.06.10

人と人とが、意識で繋がる。 「Cift(シフト)」が考える、未来版“家族”のカタチ

実家を出て家族と離れた暮らしを選択してからも、今や単身の一人暮らしに限らず、ルームシェアやシェアハウスなど、家族でも恋人でもない人々との共同生活をあえて選び、充実した日常を過ごしたいと考える若者が増え続けています。そうした中、渋谷にある複合施設「SHIBUYACAST.」と渋谷・松濤にある一軒家では、約80名が共同生活をしています。進化系シェアハウス「Cift(シフト)」では、共に暮らし、共に働き、 共に子育てをし、共に助け合う。肩書きや世代、国籍を問わず、ひとつの「拡張家族」として暮らしています。人と人の繋がり、新しい「共生」のあり方について、PR担当であり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師でもある石山アンジュさんに、お話を伺います。

“個人”としての自分と“家族”の一員として自分を共存させ、生活を続けることでCiftの拡張家族は広がっていく。

共同生活という枠を超えた、

意識で繋がる「拡張家族」とは。

F.I.N編集部

「拡張家族」が、一般的なシェアハウスとどう違うのか教えてください。

石山アンジュさん(以下、石山さん)

一般的にいわれる「シェアハウス」は、BtoC型で、企業がサービスとして運営するシェアハウスに住人を公募で集めます。住人は個人で不動産会社と契約して、初めて他の住人と会い、同じ空間で生活するというもの。私が暮らしている「拡張家族」というコンセプトを掲げる「Cift(シフト)」は、住居を決める前に、まず意識として家族になることを合意をした上でコミュニティに入ってもらうことが条件になります。誰が入るかも自分たちで家族になるかどうかを決める家族面談をして迎えたいと思う人に入ってもらいます。

昨年開催された「Cift2周年 ー家族の祝祭ー」の様子。毎年、続々とメンバーが増え続けている。

F.I.N編集部

どのように運営されていますか?

石山さん

現在は、渋谷キャストと松濤の2箇所に住居となる拠点を持っています。今年には京都にもできる予定です。なかには同居をしていないメンバーもいます。全員が日常で関わっている訳ではありませんが、家族会議や周年祭など、いろいろな行事の中で、コミュニティを保っています。また、拡張家族の拠点マップをグーグルマップで共有していて、メンバーはそれぞれの実家や自分が所有している拠点を自由に使っていいことになっています。また賃料とは別に協同組合という形で、組合費を月々払うシステム。0円、3000円、5000円、1万円、それ以上といった形で自分で選択でき、払いたい金額を支払います。集まったお金は、家族会議で何に使うかを話し合い、調味料などの生活用品に充てられることもあれば、誰かが病気になった時に、入院費やお見舞いの費用に充てられることも。イベントやお祭りごとなどに使うこともあります。

肩書きの多様性も、Ciftの特徴のひとつ。1人でいくつもの肩書きを持つ人、またちょっと変わった肩書きを持つ人がたくさん。

F.I.N編集部

現在メンバーは何名くらいですか?どんな方々が暮らしているのでしょうか?

石山さん

10代から60代まで、現在約80名います。人数にカウントしていませんが、子どもも0歳〜小学生までいます。お坊さんや料理研究家、ミュージシャン、整体師、弁護士など、職業も多種多様です。個人で活動している方が多く、コミュニティの中でいろいろなスキルをシェアしながら、支え合っています。弁護士は何でも相談所みたいになっていたり、美容師は家で髪を切ってあげたり、ミュージシャンは子どもが生まれたら、家族ソングを作ったりと、さまざまです。

人と人とが意識で繋がること。

それが「世界平和」への第一歩に。

F.I.N編集部

石山さんは立ち上げメンバーのお1人と伺いました。参加しようと思ったきっかけや想いを教えてください。

石山さん

実家が横浜でシェアハウスを営んでいて、幼い頃から血縁関係のない大人たちに育ててもらうような生活をしていました。自分を妹のようにかわいがってくれる人がいたり、そこに安心感を感じたり、血縁関係かどうかは重要ではないと実体験として感じていたんです。両親は離婚しましたが、とても幸せな家庭でした。ただ世間的にそれが当てはまるかどうかというとそうではなかったので、10代の頃から「家族ってなんだろう」というのが、問いとしてあって。そして、シェアリングエコノミーの専門家として活動を始めて4年、“シェア”というものを突き詰めていく中で、「人とのつながり」を深め広げていくこそがこれからの豊かさであると確信を持つようになりました。繋がりにも多様な形がありますが、人間関係はすべて意識でできあがっていて、それによって繋がりの濃淡がどのように変わるのかということも、もう一方で自分への問いとしてあったので、この立ち上げに関わりました。

F.I.N編集部

人と人とが家族のように繋がる先に、「Cift」が目指す形とは、どのようなものでしょうか?

石山さん

Ciftで目指しているのは「世界平和」です。個人と個人が意識を通じて家族的な関係を結び、その輪を拡張させていくことができれば、日本からアフリカのまだ会ったことがない人まで拡張家族を実現できたら、それが唯一の世界平和への解だと思っています。そのために大事にしているのが「自己変容」です。価値観やバックグラウンドが異なる沢山の人たちと家族になっていくためには、自分が人として変わっていける意思をスタンスとして持つこをCiftでは大事にしています。

F.I.N編集部

石山さんをはじめ、「Cift」が大切にしている“繋がり”は、これからの社会でどのような価値を持つと考えますか?

石山さん

単身世帯や核家族が多い都心の生活では、生活において人と協働する必然性がなくなっています。例えば、昔は井戸水やお風呂が共同であったように、コミュニケーションを取らないと生活ができませんでした。しかし、現代ではそれをしなくてもすべてお金で解決できてしまいます。一人暮らしで朝から誰とも喋らなくても、基本的には生活が成り立ちます。しかし一方で、今回の新型コロナウイルスでもわかるように、突然お金があっても物が買えない、生活ができない状況にもなり得る、不確実性を抱える時代にもなっています。お金があれば安心、大企業に勤めていれば安心という方程式が崩れている中で、私が提示する豊かさが“人との繋がり”です。いくら預貯金があっても、世の中の状況で大きく変動することもありますが、“人との繋がり”は価値変動が自分次第であり、または変動しない場合が多い。人や他者に左右されない個人の唯一の資産が、“人との繋がり”で、これからどんどん価値が高まるのではと思っています。

自分の“ものさし”を手離して

相手を寛容に受け入れる。

F.I.N編集部

石山さんが約3年暮らしてみて、「拡張家族」として繋がりを築いていくためには、どのような考え方が必要だと感じますか?

石山さん

コミュニケーションの取り方やキッチンの掃除ひとつとっても、人それぞれ。自分の“ものさし”だけを良しとしてしまうと苦しくなってしまうので、寛容な気持ちを持つことが必要です。「拡張家族」は利害関係ではないので、相手に過度な期待をしないこと。利害関係ではないので、平等という概念を捨てること。組合費も、0円の人もいれば1万円の人もいて、全員が一律の金額ではないこともそうですし、ご飯も作りたい人が作るし、片付けたい人が片付ける。そこに平等性はありません。家族の認識も人によって違うれけど、コミュニティの中で、お父さん的な役割を自分で自覚している人もいれば、末っ子キャラを自覚している人もいて、そういった違いや重なりがあるからこそ、「家族」として機能していると感じています。

F.I.N編集部

平等ではなく、それぞれの個性を尊重した暮らし方なのですね。「拡張家族」を作ってよかったと思えるタイミングやエピソードはありますか?

石山さん

利害なく自分の日常の良かったことも悪かったことも、自分のことのように嬉し泣きしてくれる、悔しがってくれる人が、日常的にたくさんあることは大きな喜びです。家にたくさん子どもがいるので、子育てに関われている日常は豊かだなと思いますし、将来的に自分が生んだとしても、助けてもらえるという安心感もあります。不幸せの根源は、恐怖か不安なんです。常に選択肢や居場所、人との繋がりがあり、安心感が持てている状態は、豊かなこと。“幸せ”の基準は人それぞれだと思いますが、「不安じゃない」ことを求めるのはみんな共通していると思うので、それが幸せラインのベースではないでしょうか。

メンバーとそのパートナーのベビーシャワーを祝っている様子。

F.I.N編集部

「Cift」が描く5年先の未来とは、どのようなものでしょうか?

石山さん

拡張していくことが目的なので、これから1000人、1万人になった時に、そこでみんなが本当に自分ごととして家族だと思えるかということは課題でもあるし、私達の挑戦でもあります。例えば、今日「Cift」に入った子が交通事故にあって、手術費が100万円必要になったとして、私は自分のお財布の中から、それが出せるかということを常に問われていくし、その人数が増えていけば、自分ごとにする誰かの人生をどんどん背負っていく作業。幸せなことであり、一方でとても難しい課題でもあると思っています。「家族とは何か」も正解がなく、答えが出るものでもないので、自分の“ものさし”がなくなっていって、相手の人生が自分の中に入ってきて、自分が変容していくということを実感する。重要なのは、答えを出すことでも、家族という新しい定義を提示することでもなくて、問いを分かち合うこと。その行為自体が“意識で繋がる”ということなのかなと、日々実感しつつあります。また、LGBTをはじめ、人の価値観も多様である中で、その受け皿となるような仕組みがまだまだないのが現実です。そういった多様な価値観や意思決定をした人たちが、家族を作ることができるロールモデルが必要ですし、「Cift」がそのモデルになれたらと思っています。

Profile

石山アンジュさん

1989年生まれ。国際基督教大(ICU)卒。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師。「Cift」の立ち上げメンバーに参加。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案している。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、他ミレニアル世代のシンクタンクPublicMeetsInnovation代表。著書に「シェアライフ  新しい社会の新しい生き方(クロスメディア・パブリッシング)」がある。

編集後記

シェアリングエコノミーが人々の生活に広がっています。

しかし、実態は、意外とシェアリングとして扱いやすい「モノ」「空間」「時間」に限定されているようにも思えます。

石山さんの運営しているシェアは一見、空間のシェアのように見えますが、取材して感じたのは、ciftは空間ではなく「意識・信頼」といった、人間の根幹の部分をシェアリングで繋げる活動がとても魅力的に感じました。

IT技術が進歩して、個人レベルのデータが集まり、個人間の境界線が際立つ世の中に、世界平和・安心で繋がるコミュニティの今後の拡張に期待が高まります。

(未来定番研究所 窪)