F.I.N.的新語辞典
2020.05.26
東京・本郷で生まれたNPO法人「街ing(マッチング)本郷」。この地区が抱えている、地域コミュニティの活動の担い手不足や、新住民と地域住民との交流の欠如などの課題を解決するため立ち上がった「ひとつ屋根の下プロジェクト」と「本郷書生生活」は、高齢者と若者を繋げるため、1人で住む高齢者宅の空き部屋に若者が一緒に暮らしたり、地域イベントへの参加を条件に古い木造アパートを学生に安く提供したりして、幅広い世代の人々が共生する地域づくりを行うプロジェクトです。代表の「NPO法人 街ing本郷」長谷川大さんに、共に暮らし、共に地域を作ることで実現できる世代間のボーダレスについてお話を伺いました。
(撮影:小野真太郎)
繋げる・調和・街の未来
3つの想いを込めて。
F.I.N編集部
NPO法人「街ing本郷」は、どのような団体ですか?
長谷川大さん(以下、長谷川さん)
立ち上げて10年になりますが、今では活動は多岐に渡ります。シンプルに言うと、やりたい人とやってほしい人を「繋げる」というコンセプトのもと活動しています。「こういうことがやりたい」という人がいたら、その人がいかにやりやすいよう環境を整備するかが団体としての役目です。「NPO法人 街ing本郷」の「マッチング」というのは、“繋げる”と“調和”、“街の未来”という3つの意味を込めてつけました。
F.I.N編集部
どんなきっかけで立ち上げたのですか?
長谷川さん
地域の中には、昔から町会や自治会、商店街等、それぞれが役割を担って活動をしています。しかしそこには境界線があり、何か問題があったとしても、境界線を越えての活動できないというもどかしさを感じていたんです。また担い手不足や新しい人と昔から住む地域の人との交流の欠如なども。そういった課題や垣根を乗り越えて、本郷という街全体で何かできないかと考えたことがきっかけでした。また、街全体で次世代の担い手が不足していたので、若い人たちを受け入れるための受け皿としても、縛りがなく何でもできて他の団体とも一緒に活動できるよう、NPO法人を立ち上げたんです。
暮らしながら街と関わる。
若者とシニアを繋ぐプロジェクト。
F.I.N編集部
街全体で、若い人たちを受け入れる活動の一環である「ひとつ屋根の下プロジェクト」と「本郷書生生活」について、教えてください。
長谷川さん
どちらも元は学生からの持ち込み企画なんです。「ひとつ屋根の下プロジェクト」は、ひとり暮らしのお年寄りの自宅に学生が同居しながら、寝食を共にします。「本郷書生生活」は、古いアパートを借り上げて学生の住居に。ミニキッチンつきの個室ですが、バス・トイレは共同です。どちらも安価で住むことができる代わりに、学生には、地域のイベントでアルバイトとして手伝ってもらったり、お祭りでお神輿を担いでもらったり、街の活動に参加することを条件としています。また学生側からも、得意分野を生かしたワークショップなど、地域の子供からお年寄りまでが参加できる催しを企画してもらっています。フランスからの留学生がフランス語の交流会を開いたり、理系の学生が実験のワークショップを開いたりさまざまです。
F.I.N編集部
具体的にどのような学生が利用していますか?
長谷川さん
「本郷書生生活」には、現在7名の参加者がいます。当初男性の入居希望者が多かったのですが、今は女性が増えています。テレビ番組で紹介されたのを見て、子供を住まわせたいという地方学生の両親の希望が多いですね。建物の安全性より、「地域の人に見てもらっている」という安心感が魅力で希望したという声をいただきます。学生たちも“個”は守られつつ、街に関わりながら暮らすことで安心に繋がるといいと思っています。一方で、「ひとつ屋根の下プロジェクト」は学生からの希望は多いのですが、受け入れるシニアからのニーズが少ないのが現実です。
F.I.N編集部
「ひとつ屋根の下プロジェクト」には、どのような課題があるのでしょうか?
長谷川さん
実際、他人が自宅に一緒に住むというのは不安がありますよね。この取り組みに対して、社会的評価は高いのですが、現実的には少し難しいかもしれません。一緒に住む学生に「シニアの面倒をみてください」という方向になると、学生の両親からは「介護ではないのか。何かあったら責任を取ることになるのは困る」と心配されます。逆に、シニアの親族からは「知らない若者を住ませて、何かあったらどうするんだ」と。なかなか成立させるのが難しいんです。ニーズがない取り組みを無理に続けても,団体としては運営費もかかります。定期的に受け入れを希望されるシニアもいるのでそれは継続しつつ、「ひとつ屋根の下」にこだわらずに、街全体をひとつの家として「街の大きな屋根の下」をいう考え方にシフトしています。
街全体でひとつの家族に。
「街の大きな屋根の下」。
F.I.N編集部
「街の大きな屋根の下」をいう考えにシフトしようと考えたきっかけはあったのでしょうか?大切にしていることを教えてください。
長谷川さん
この企画をした時に、シニアの生きがいややりがいになることが大切だと考えました。シニアは、自分の家で一緒に暮らすのは躊躇するけれど、外で若者と交流することは喜んでくれるんです。ですから、無理に「ひとつ屋根の下プロジェクト」を進めるより、できる範囲でやろう。そして街全体を家と捉えて、「街の大きな屋根の下」で、若者もシニアもみんなが関わりながら暮らせばいいのではと思ったんです。
F.I.N編集部
具体的にどんな交流がありますか?
長谷川さん
シニアが集まってご飯を手作りして、若者をもてなす会をよく開いてくれます。シニアはもてなされることが多いけど、まだまだ自分が手を動かして人をもてなす場面が欲しいのだなと感じました。若い人と話ができるのを喜んでくれていますし、学生もおいしい家庭料理が食べられて喜んでいます。またシニアが行う風呂敷包みワークショップの手伝いや異文化交流での通訳など、このイベントで知り合った学生にシニアが直接依頼することもあるそう。最終的には私がいないところでそうやって交流してもらえるのが一番。それが目的でもあります。若者とシニアを繋げて「生きがい」を作るという目的は達成できていると思います。
F.I.N編集部
学生やシニアからはどんな声が挙がっていますか?
長谷川さん
学生からは、学校では学べないことがたくさん学べるという声が多いですね。シニアも、若者と交流できることがとにかく楽しい。元気をもらっていると言ってもらえています。街の人が、子供たちに声を掛け合うことも今では少なくなっていますが、顔見知りになれば、街で会っても声をかけやすいですよね。イベントを通して“人と人が出会う”ことで、それも可能になればいいなと。
街をボーダレスに繋ぐことで
不可能を可能に。
F.I.N編集部
団体同士の交流はありますか?
長谷川さん
最近では、社会福祉法人の人たちが関わってくれていて、団体の垣根を越えての交流もできています。毎年秋に行う「本郷百貨店祭り」では、社会福祉法人と商店街が組んでイベントをするのですが、他の団体も参加してやっています。団体はどうしてもいろいろな事情で一緒にイベントを開催するのが難しい場合が多いんです。それが、私たちが間に入って繋ぐことで実現するんです。街をボーダレスに、並行に繋げることを大切に考えています。横に広げることで、街全体の活性化にも繋がっています。
F.I.N編集部
5年先の未来をどう考えていますか?
長谷川さん
立ち上げ当初は私たちの目的や活動はなかなか理解が得られなかったけど、10年経ってやっと必要とされていることを実感できるようになりました。次は、きちんと運営費を確保して回していくことが課題。今、認定NPO法人の申請準備をしているところです。そうすれば寄付金で運営できるので、お金の流れが変わり、同時に活動内容も変化がありそうです。また街のすべての人とフラットに関われるようにNPO法人を選んだので、これからもあらゆる団体や人たちの垣根を超えて繋げていけたらと思っています。
長谷川大
1967年生まれ。大学卒業後、2年間の会社勤務を経て、家業の鮮魚店を継ぎ、3代目となる。その傍ら商店会、町会活動に参加し、街に新たな仕組みづくりが必要と感じ、地域に有志を募り、「みんな(街・人)つないで、笑顔にする」をテーマに2010年12月街づくりNPO法人街ing本郷(まっちんぐほんごう)を設立、代表理事に就任。地域の空き部屋に大学生が低廉な家賃で住まう「書生生活」、シニアと若者が共生する「ひとつ屋根の下」、5つの商店街が垣根を越えて本郷をPRする「本郷百貨店」(グッドデザイン賞2015受賞)など、地域の実情に即した取組みは多岐にわたる。
編集後記
ここ本郷は、子供から高齢者までの地元の方々、生活を支えている複数の商店街の皆さん、
そして、年々入れ替わる多数の学生達が生活している街です。
長谷川さん達は、地域の高齢者の生きがい創出、個々の空き家問題を、
学生と一緒になって解決していくプラットフォームを生み出してきました。
今回教えていただいた数々の事例は、
今まさに日本全体が抱えている課題を解きほぐすヒントを与えてくれると思います。
街ing本郷が行う、地元で生活する方々を並行に位置づけているさまざまな取組みを知り、
ボーダーレスな新しい地域の未来を感じました。
(未来定番研究所 富田)
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