2020.02.20

地域と人を繋いでいく。学生が仕掛ける「むらんち」が描く未来。

東京・神楽坂にある、秋田県東成瀬村の食材をはじめとした全国の村の料理が楽しめる〈むらむすび〉では、2018年8月より、学生を中心にしたユニークなプロジェクトが始まっています。それが、このお店を間借りする形でランチ営業を行っている「むらんち」。特定の村に焦点をあて、その食材を使ってランチメニューを提供することで、人と村を結びつけていきます。そんな「むらんち」の創設メンバーの尾崎友里恵さんと、白土駿耶さんに話をお聞きしつつ、地域と繋がっていくことで得られる未来を考えます。

(撮影:河内彩)

その始まりは、

学生のちょっとした勇気から。

秋田県東成瀬村、群馬県上野村、長野県大鹿村の食材を使ってランチメニューを提供する「むらんち」。創設のきっかけは、2018年4月のこと。都内の大学に通う学生3人が、〈むらむすび〉にふらりと訪れたことに始まります。

尾崎友里恵さん。

「友人と私の3人で、この〈むらむすび〉に夜ごはんを食べに来たんです。カウンターに座って飲んでいたんですけど、オーナーの佐藤さんが一人ですごく忙しそうに働いていて……。料理のオーダーも立て込んでいたし、洗い物もたくさん溜まっていて。ぼうっと座って見ているのもなんだったので、『何か手伝いますか?』って気づいたら声をかけていました(笑)」(尾崎さん)

 

元々、フードロスイベントに参加するなど、食に興味を持っていた3人。この日の営業終了後、オーナーの佐藤さんと話してみると、同じ大学の先輩ということもあって話は急展開。〈むらむすび〉の空き時間、ランチ営業をすることになったと言います。

 

「僕もこの頃から参加するようになりました。話し合ううちに、目指していく方向性として挙がったのは、“都会の人たちに癒される場を作ろう”ということですね。めちゃくちゃざっくりとしたビジョンですが(笑)、村の暮らしや文化、歴史を一緒に楽しんでもらうという〈むらむすび〉が掲げる目的からは外れずに、僕たちができることを考えていきました」(白土さん)

白土駿耶さん。

群馬県上野村の魅力を知り、

メンバー自身が村と繋がっていく。

秋田県東成瀬村のお米と味噌を使うことを大前提に、ほかの食材を調達する村選びをすることに。ミーティングの末、200個近くある村の中で最終的にたどり着いたのは、人口1000人ほどの小さな村、群馬県上野村だったそう。

 

「当初は複数の村から食材をと考えていたんですが、村と人を密に繋げられたらと、結局は1つの村に絞ることにしました。村選びで大切にしたのは、この「むらんち」に来てくださったお客さんが実際に足を運べる距離感、そして村自体に魅力があることですね。それは、そこにある景色だったり、食材だったり、人そのものだったり」(尾崎さん)

上野村での野菜収穫の様子。

こうして群馬県上野村に何度か足を運ぶうちに、イノブタといった村特有の特産物に出会ったり、村の人から郷土料理の作り方を聞いたりと、「むらんち」のメンバー自身が上野村という土地に惹かれていったそう。

 

「山の中にある村なのでお米が作れないんです。だけど、それだからこそ麦や豆を栽培して麦味噌を作るなど、昔からの知恵が存分に生かされていて。そういうことを村の人から教えてもらううち、僕たちがもっと力になれたらって、上野村に対する思いが強くなっていきました」(白土さん)

 

上野村の食材を使ったメニューの試作を重ね、「むらんち」は同年8月にオープンを迎えます。とはいえ、プロの料理人でない学生メンバーにとっては、料理を提供するので精一杯。オープン当初は、「手際が悪い!」なんてお叱りを受けることも。だからこそ、お客さんと村を繋ぐことができたのかもしれないと語ります。

とある日のランチメニュー。メインはイノブタのトマト煮。

2018年8月、オープン直後のイベントの様子。

「学生しての強みは、お客さんに『これどうでしたか?』って素直に聞けたことですかね。そこでいただいた生の声は、必ず次回のメニューに生かすことに努めました。お客さんも一緒に『むらんち』を育ててくださった感じですね。私たちは料理のプロにはかなわないので、来てくださる目の前のお客さんとの会話を大切にしていました。そういう営業を続け、気づいたら、お客さんだった方がメンバーとしてキッチンに立っていたり、実際に上野村に足を運んでくださったりと、極めて自然な形で村と人が繋がるコミュニティができていました」(尾崎さん)

太く狭く村と繋がることで

誰かの第2の故郷に。

「むらんち」の定食は1200円。そのほとんどに食材費をあて、利益が出ないため、ボランティアという形でランチ営業を行っています。金銭面で考えたら、アルバイトした方が有意義かもしれません。だけど、それ以上のものが得られると2人は話します。

 

「今の日本では、人と人の関係が希薄になっていると言われますけど、ここ『むらんち』では感情ベースの温かなコミュニケーションが存在しているんです。正直、食材のバリエーションを考えたら、10個の村と繋がった方が断然いい。だけど特定の村と密につながることで、生産者さんとも顔見知りになれるし、村にも愛着が湧きます。だからランチを通じて、自信たっぷりに村の食材を届けられるし、村の魅力をきちんとお伝えすることができると思うんです」(尾崎さん)

「お金を使った寄付に近いなと思います。食を切り口にした、地域や社会のための気軽に貢献できる場が少ない中、それが叶う場になっているんじゃないかと。『むらんち』のランチを食べることで、上野村の生産者さんにまでお金が届く。みんなが上野村のファンになれば、微力ながらも村の経済が回っていきます。そういう循環がずっと続いていけばいいなって感じています」(白土さん)

もっと先の未来を見つめて、

村と村のコラボ商品も?

オープンから1年半経った今、「むらんち」は尾崎さん白土さんの創設メンバーから、2代目の学生たちにバトンタッチ。3つ目の村として長野県大鹿村が加わりました。

2代目の学生さんたちも、大鹿村へ足を運び、村の方との交流を深めている。

「私たちの代で辞めようという話もありましたが、ありがたいことにお客さんからも月一でも続けてほしいという声をいただいたんです。私たちが始めて続けてきたお店だけど、もう自分たちだけのものじゃないんだなって、お店を続ける決心をしました。だったら、次の世代のメンバーにも、1つの村選びから始めて密な繋がりを持ってもらおうとなりました」(尾崎さん)

 

秋田県東成瀬村に加え、学生たちが選んだ群馬県上野村と長野県大鹿村の食材を使うことになった「むらんち」は、ランチだけに留まらず、もっと先の未来を見つめています。

 

「村と村を繋ぐ、コラボ商品の開発も進んでいます。実は僕たちがきっかけではなく、上野村と大鹿村の村同士が主体となっているんですが、狩猟が有名な上野村の猟師さんが、鹿肉が特産物の大鹿村でハントして、鹿肉の加工品を作ろうといった案が浮かんでいるんですよ。僕たちが介さずとも地域同士が繋がっていくのは、とても嬉しいことですね」(白土さん)

学生のちょっとした思いやりからスタートしたこのプロジェクト。村と人、人と人を繋げただけでなく、地域レベルの繋がりをも生み出した発起人の2人が望む未来とは?

 

「ボランティアや寄付もそうですが、社会に対して何かアクションを取ろうという文化が、日本はまだまだという感じがしています。こんな素敵でいい国だから、もっといい国になれると思っているんです。僕自身、社会参加や寄付について勉強してきたので、この先、そういう文化が根付くといいなって思っています」(白土さん)

 

 

「『手伝いますか?』の一言から、『むらんち』という想像もしなかった活動ができ、たくさんの奇跡的な事柄が起こりました。だからこの先も勇気を出して一歩踏み出してみたら、大きなアクションに繋がっていくんじゃないかって。機械化や効率化が進み、出来るだけ人と会わなくていい環境になっている今、個人がただ頑張るんじゃなくて、みんなが1つに繋がるものを作っていきたいですね。例えば『むらんち』のように、お客さんはおいしい、私たちは楽しい、村の人はお金が循環するでもいい。1つの活動によってみんなの満足が得られるものが、世の中のムーブメントとして起こっていくといいなと思っています」(尾崎さん)

Profile

むらむすび

〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6丁目19

ランチ営業スケジュールは、Instagramアカウント(@muramusubi)で随時更新中。

編集後記

村の役に立ちたい、都会の人達を癒したいという素直な思いだけで、ここまでボランタリーな活動をしている学生達に拍手を送りたい。経済的利益ばかりを追い求める大人の世代に彼らの活動をもっと知って欲しいと思った。人とつながり、人を笑顔にさせる事が幸せにつながる事だと若い人達に教わっている気がした。偶然の出会いから行動に移す勇気も見習うべきだと痛感した。彼らから下の世代、ジェネレーションZは行動の世代と言われているが、まさに彼らの行動が「むらむすび」を生んだのである。

(未来定番研究所 今谷)