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2020.04.02

F.I.N.的新語辞典

第59回 プレイス・ブランディング

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「プレイス・ブランディング」をご紹介します。

画像提供:株式会社電通

プレイス・ブランディング【ぷれいす・ぶらんでぃんぐ/Place-branding】

産品の開発を示すことが多く、行政区域にとらわれがちであった従来の地域ブランディングとは異なる、地域創生のための新しい概念。柔軟な単位で場所を設定し、民間企業、行政、市民が一体となって持続的に“プレイス(場所)”をブランディングしていくことで、地理学におけるプレイス理論とブランディング理論を融合させた日本独自のメソッド。

 

「これまでの“地域創生”は、いかに従来の“県”や“市”といった単位を守るかという行政からの視点が中心でした。しかしそれでは既存の利害調整に追われて画一的な街となり、個性が失われてしまう恐れがあります。こうした硬直的な地域創生の考え方に一石を投じるのが、プレイス・ブランディングという考え方です」。そう教えてくれたのは、株式会社電通のクリエーティブ・ディレクター若林宏保さん。プレイス・ブランディングの手法を用いた地域活性化を推進する電通地域ブランドプロジェクトabicのリーダーです。

 

「プレイス理論とは、1970年代から主に人文主義地理学で議論されてきた理論。そこでは人間が中心となって場所に意味付けしていくことが重要とされ、その結果として生まれる“意味の空間”をプレイスと定義しました。そのため自宅のリビングから、憩いの場、街角、通り、都市、地方など、プレイスには柔軟で多様な単位が含まれます」

 

プレイス・ブランディングの代表的な成功事例として若林さんが挙げたのは、瀬戸内地方。元々は過疎化が進む島々を擁する沿岸地方でしたが、『The New York Times』が発表した「52Places to Go in 2019」で、世界で一番行きたい場所として7位にランクインした場所です。この背景には三つのプロジェクトが存在したのだそう。

 

「一つはベネッセによって推進された、直島におけるアート・プロジェクト。香川県も連携し、2010年以降、瀬戸内国際芸術祭が開催されるたびにアートのある島の数が広がり、アートが点在する内海へと発展していきました。二つ目は、しまなみ海道におけるサイクリング・プロジェクト。地元のサイクリストたちが始めた、しまなみ海道をサイクリングロードにしようとする活動をきっかけとしたものです。これには台湾の自転車メーカー・ジャイアントが参画し、イベントの支援や出店、さまざまな情報発信を行うことで、瀬戸内のサイクリング文化が世界へと広がっていきました。そして三つ目が、瀬戸内に面する7県連携による瀬戸内ブランド・プロジェクト。2013年に作られた瀬戸内ブランド推進連合に民間企業が参画することによって、統一化されたコンセプトのもと、レモンをはじめとする多くの瀬戸内ブランド商品が生まれます。さらに、これまでバラバラだった情報発信活動も統合化されることで、瀬戸内のイメージが内外に広がっていきました。こうして市民、民間事業者、行政など、さまざまなプレイヤーによる意味付けによって多様なコンテンツが継続的に生み出された結果、直島(点)、しまなみ海道(線)、瀬戸内地方(面)といった様々な単位のプレイスブランドが生まれ、やがてそれらが織り重なるようにして“瀬戸内”という大きな一つの単位の“意味の空間”として広がり、より魅力をもつようになったのです」。

 

行政区分による“地域”ではなく、人が主体となり場所に意味付けをしていくプレイス・ブランディング。これからの地域創生の鍵を握る新たな手法に、注目が集まっています。

 

参考:『プレイス・ブランディング―地域から“場所”のブランディングへ―』(有斐閣/電通abic project編/著:若林宏保、徳山美津恵、長尾雅信)

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