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2019.11.13

F.I.N.的新語辞典

第50回| ニューロダイバーシティ

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「ニューロダイバーシティ」をご紹介します。

今年度より筑波大学で実施している、大学院共通科目「脳の多様性とセルフマネジメント」の様子。

写真提供/筑波大学

ニューロダイバーシティ【にゅーろだいばーしてぃ/neurodiversity】

自閉スペクトラム症などの発達障害が“病気”や“欠陥”ではなく、“人間の脳の神経伝達経路の多様性(variation of human wiring)”とする考え方。

 

発達障害に関する新しい概念であるニューロダイバーシティについて、筑波大学 人間系の教授であり、同大学のダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンターで業務推進マネージャーも務める竹田一則さんに教えていただきました。

 

「シラキュース大学で開催された 2011 National Symposium on Neurodiversity によれば、ニューロダイバーシティについて、“神経学的差異はその他のヒトの変異と同様に認識され、また尊重されるものであり、それらの差異としてはディスプラクシア(発達性協調運動障害)、ディスレクシア(読字障害)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、ディスカリキュリア(計算障害)、自閉スペクトラム症、トゥレット症候群、等々と名付けられている差異を含みうる”と捉えています」。近年では、双極性障害や認知症などにもその考え方をあてはめることがあるのだそう。では、この概念はいつ頃生まれたのでしょうか。

 

「ニューロダイバーシティ運動は1990年代にインターネット上の自閉症のグループから始まり、ニューロダイバーシティという用語はオーストラリアの社会学者Judy Singerが造ったといわれています。日本では、2014年の国連の障害者権利条約の批准以降、“障害”を“社会モデル”の視点で捉える大きな概念の転換がなされました。発達障害についても、発達面の“障害”や“欠陥”を治療して正常に近づけるべきだという考え方から、行動面や情緒面の多様性として受け入れ、それらの人々の社会参加を容易にする方策を社会が考えて共生社会の実現を目指すべきだというニューロダーバシティの考え方への共感が少しずつ広がっています」。

 

2018年12月に筑波大学と東京大学で共催した『ニューロダイバーシティ&インクルージョンシンポジウム』では、多様な発達特性を有する学生が社会で活躍するために必要な高等教育・就労支援のあり方が議論されました。この企画代表でもあった竹田さんに、ニューロダイバーシティを日本で実現するために大切なことを聞いてみました。

 

「ニューロダイバーシティの考え方に対しては、健常者にとって都合のよい(受け入れやすい)秀でた能力を有する一部の軽症者だけを念頭においた理想論である、あるいは医学的介入によるQOL(生活の質)改善への否定に結びつくのではないか、などの批判的な意見も少なくありません。一方で、ニューロダイバーシティの概念で日本の現状を捉え直してみると、日本のようなまだまだ多数派に最適化された社会は、多様な少数派の人々が十分に才能を発揮できる環境になっていないとも考えられます。そこで、日本の現状に最適化した形で人々の神経学的多様性を適切にアセスメントし、それぞれに基づく支援を社会が提供していくことで、多様な人材の社会参加を促進できると考えられます。その結果、社会参加困難者を減少させるのみならず、真の意味で意義のあるパワーを持った共生社会を加速的に発展させることができると期待されます」。

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