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2024.03.01
F.I.N.的新語辞典
F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「共給共足」をご紹介します。
(文:大芦実穂)
共給共足【きょうきゅうきょうそく/Co-farming】
共に生産し、できたものを共有していくこと。提唱したのは、野菜を育てたい人と野菜がほしい人をつなぐプラットフォーム「grow SHARE(グロウシェア)」を展開する〈プランティオ株式会社〉。江戸時代に存在した相互扶助の関係である「互」や「講」を、経済的な意味合いだけでなく、コモンズシステムとして現代版にアップデートするため生まれた造語。
「共給共足」の考えに共感し、食と健康、そして生産と消費の好循環をつくる試みを行っているのが、〈生活共同体TSUMUGI〉(以下〈TSUMUGI〉)です。メンバーが共同で人にも地球にも持続可能な農業をし、収穫したものを分け合い、ときには共に食卓を囲み、そしてできる限り、畑(土)へ還す、そうした一連の取り組みを2019年から続けています。今回は、代表の塚本紗代子(つかもと・さよこ)さんをお呼びし、共給共足への想いをはじめ、実践するなかで見えてきたこと、今後の課題について伺いました。
経済合理性を重視した大量生産・大量消費により、農業に関わる人もそして土地も疲弊していると塚本さん。そのため、化学肥料や農薬を頼りにしないと生産が難しく、消費の現場ではフードロスが生まれたり、アレルギーなどの健康面への影響も生まれ、悪循環が起きているそうです。まずは消費する生活者の側から価値観を変えていきたいと、共給共足の概念を取り入れた 〈TSUMUGI〉をスタートさせました。
参加するメンバーの多くは、関東の都市に住む20代から30代。現在は50名が在籍し、各自畑や田んぼに行ける時間を見つけながら作業をしています。
「参加理由は、畑をやってみたい、作り手の現場を見てみたい、子どもに自然と触れ合う機会を設けたいなどさまざま。現在はお米の他に、大豆や養蜂にも挑戦しています。昨年は台風で稲が半分流されてしまったのですが、リスクもみんなで背負うことにしていて、一昨年の収量から半減となってしまいましたが、無事に収穫できた成果物を分け合いました」
約4年の活動で、メンバーにも変化がありました。共給共足を経験したことで、転職や地方移住する人が増えたそうです。他にも「スーパーで旬の食材がわかるようになった」「モノの価値に疑問を持つようになった」という声も。さらに、作物が多く採れたときには、周囲の人におすそ分けをするというメンバーの姿も見られました。「生産生活者として行動を起こしたことによって、物々交換といういい循環が生まれた」と塚本さん。
一方で、共給共足という大勢が混ざり合うコミュニティゆえの課題もあります。それは、収穫物をどう分配するか、という点です。
「メンバーにコミュニティに参加している価値をどう見出してもらうかを考えていく中で、『平等』とは何かすごく考えるようになりました。メンバーはみな働き盛り。時間を見つけて田んぼの作業をしているのですが、なかには1回しか来られなかったという人も。ほとんど毎週来ている人と、年に1回来る人とでは、田んぼにかける労力に差がありますよね。それなのに収穫物を同じ量で分配していいのか悩みました。そこで考えたのが、収穫物が10だとしたら、7割は全員で分けて、残り3割は特に頑張ってくれた人に上乗せするという仕組み。ただ、やりたくてもやれない人たちが参加しづらくならないよう、そこも含めてケアしていかなくてはなりません」
また、コミュニティモデルはビジネス化しにくいという課題も。
「マネタイズは課題です。共同体という『つながり』をお金に変えるのは、なかなか難しいですね。お金や労力がかかる割に儲からないので、企業はやらないと思います(笑)。それに、人を使ってお金に変えるなら、ルールをつくってトップダウンにするのが、一番効率がいいと思います。でも、指示系統が一方通行のコミュニケーションの取り方だけではコミュニティは醸成しにくい。ただ、メンバーのなかにもリーダーシップを取れる人がいないと、良いコミュニティはつくれないとも感じています。思想や価値観は一緒で、メンバー各自が持つキャラクターは多様である、という状態が、コミュニティがユニークになる条件ではないかと思っています」
将来、営農人口の減少、耕作放棄地の増加など食糧生産の課題や、自然災害などが増えるなかで、家族だけで解決できることが少なくなる。だからこそ、利害以外でどうつながるかが大事、とも話してくれた塚本さん。オンラインでのつながりが増え実際に人と触れ合うことが少なくなった現代だからこそ、解決の糸口は良い循環が生まれる共給共足の場所で見つかるかもしれません。
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