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2020.11.12

F.I.N.的新語辞典

第74回| ポジティブ・コンピューティング

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「ポジティブ・コンピューティング」をご紹介します。

 

資料提供:パナソニック株式会社「Aug Lab」

ポジティブ・コンピューティング【ぽじてぃぶ・こんぴゅーてぃんぐ/Positive Computing】

人を幸せにするための技術開発のこと。代表例として、瞑想アプリやうつを防止するためのアドバイスアプリなどがあります。これまでのような、社会全体の効率化のためだけではなく、人が精神的にも社会的にも健康であることを目指したテクノロジー設計そのものを指す言葉。シドニー大学教授のラファエル・カルヴォ氏らによって提唱され、日本では「ウェルビーイング」という文脈で語られていることが多い。

 

今回は、自分がなりたい状態になるための自己拡張(Augmentation)をテーマに研究開発を行っている、パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部「Aug Lab」リーダーの安藤健さんにお話を伺いました。

「IT革命が起きて以来、利便性や効率性を高めるためにコンピューターが使われてきました。工場をはじめ、最近では病院や農場でもロボットが活躍し、どんどん自動化が進んでいます。これから少子化が進むなかで、オートメーションももちろん大切ですが、何でも自動にしたところで、果たして人は幸せになるのだろうか? というのが、研究を始めたきっかけです」

ウェルビーイングには3つの要素がある、と安藤さん。1つは身体的な健康、2つ目に精神的な健康、そして3つ目が社会的な健康です。「Aug Lab」では、精神的な健康と社会的な健康にフォーカスを当てて研究をしています。

「ポジティブ・コンピューティングやウェルビーイングが目指しているのは、人間を中心に据えたテクノロジー開発。人には感情もあるし、感性も持ち合わせています。その人たちがどう感じるかを第一に考えながらデザインしていかなくてはなりません」と安藤さん。そこで2020年4月に発表したのが、「ゆらぎかべ」という自然の風の揺らぎを再現した壁。ランダムな動きを見ることで、思考が拡張され、創造性を高めることが目的です。

「例えば、焚き火などのゆらゆらと燃える火を見ていると、すごくリラックスした気持ちになることってありませんか? つい何も考えずに見続けてしまったり……。日々デジタルに囲われた生活をしていると、なかなか心が休まりません。日常のなかでボーッとする時間があるかないかで、心の豊かさに大きく差が出ると考えて作ったのが『ゆらぎかべ』です。実際に風は吹いていませんが、ランダムな磁石の動きにより壁が風で動いているように見えます」

安藤さんは、これからポジティブ・コンピューティングという考え方はもっと主流になってくると話します。「特に、物の豊かさよりも、心の豊さを目指すことが課題です。いかに充実感の高い人生を歩むかというのが、これからの社会においてはより大切な要素になってくるのではないでしょうか」。

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