2020.12.10

リアルを超える?! オンラインコミュニケーションの可能性に挑戦する「HEERE」と、その先の未来。

リモートワークの普及により、直接顔を合わせないオンラインミーティングが今や当たり前になりつつある世の中。しかしながら、確かに便利にはなったものの、「発言のしにくさ」や「相手の温度感が掴みづらい」といった、コミュニケーション上のさまざまな問題点が課題となっています。そんな中誕生したオンラインコミュケーションツール「HEERE(ヒア)」。自分と対象との距離によって音量が変化する仕組みによって、相手に近づいたら声が大きく聞こえ、離れれば小さくなる。複数人が参加していても、近くの人とは会話ができて、逆に遠くの人の声は聞こえない。そのような今までに無い、まったく新しい機能を持つオンラインコミュニケーションツールが、「HEERE」です。今回F.I.Nでは、このツールの開発を手がけた株式会社フロウプラトウ(旧:株式会社ライゾマティクス)の清水啓太郎さんに、非対面でのコミュケーションにおける新しい可能性やこれからの未来について話を伺います。

(撮影:小野真太郎)

オンラインコミュニケーションの

課題を解決する新ツール。

F.I.N編集部

現状のオンラインコミュニケーションツールの課題点はどんなところにあるとお考えですか?

清水啓太郎さん(以下、清水さん)

これまでも「zoom」や「whereby」といったオンラインコミュニケーションツールを利用して、会議などを行なう機会はありました。でも、あくまでオフラインがメインで、オンラインは致し方なく利用する、といったような位置づけで考えていた方が多かったのではないでしょうか。それが、コロナ禍において当たり前になった時、これらのツールに対して、急に違和感を感じるようになったんです。話すタイミングや間の取りにくさ、空気感、温度感がわかりづらい、またずっとカメラに向かって自分がフォーカスされているような感覚にも、疲れを感じてしまうこともありました。

F.I.N編集部

「HEERE」を開発されたのは、そのようなオンライン上でのコミュニケーションならではの煩わしさがきっかけだったのでしょうか?

清水さん

1つはそうです。当たり前だったことが当たり前じゃなくなった時に、感じた違和感。その違和感を少しでも解消したいというのが目的でした。オフラインとイコールにはならないけれど、近い感覚でコミュニケーションができるものを目指しました。もう1つは、弊社で定期的に行なっていたオフラインの音楽イベントができなくなったこと。オンラインでの配信を試みたのですが、どうしても一方通行になってしまって。音楽イベントやクラブイベントの空間は、もっと自由ですよね。音楽を聴いたり、お酒を飲んだり、ちょっと音楽から離れて話をしたり。そういった自然な行動がオンラインでできないかというのが、発起人である真鍋大度(ライゾマティクス)とカイル・マクドナルド(アーティスト)のもともとの発想でした。

F.I.N編集部

「HEERE」という名前にはどんな意味があるのですか? また、どんなシーンで利用されることを想定されていますか?

清水さん

「HERE」は、“ここ”という意味ですが、「E」をもう1つ足して、物理的なディスタンスはあるけれど、オンライン上の新しい“ここ”の定義を作っていきたいという思いを込めています。僕たちがプラットフォームを提供し、主催者がカスタムしてイベントやセミナーを主催できるツールです。オンライン上で、イベントの「場所貸し」をするというようなイメージですね。

オンラインで自然な交流を

「HEERE」ができること。

F.I.N編集部

具体的にどんな特徴や機能がありますか?

清水さん

「zoom」などでは顔が同じサイズで並び、基本的には1人が話して、他の参加者は聞き手に廻ることが多いですよね。一方「HEERE」は、例えばとある場所では3人のグループが話して、また違う場所では他のグループが話すことが可能であり、また距離が遠ければお互いに各自の話は聞こえないようになっています。アイコンのサイズが声の大きさと連動しており、話したい人の近くに行くことで相手に話しかけることができます。距離が離れると、アイコンが小さくなるとともに名前がグレーになり、相手の声が聞こえなくなります。また、画面の上部に音楽配信動画を埋め込めば、オンライン上のクラブイベントスペースとしても使用可能です。音源に近づけば音楽が聴こえるし、離れることで聴こえなくなります。

「HEERE」を使って開催された、ライゾマティクス主催の音楽イベント「PLAYING TOKYO」の様子。数人ずつが固まり、それぞれで会話を楽しんでいる。

F.I.N編集部

「HEERE」ならではの機能はありますか?

清水さん

「HEERE」は、イベント主催者向けの機能を意識して開発したツールです。そのため、独自の機能もイベントのホスト側が使えるものなのですが、そのうちの一つが、アナウンス機能。「HEERE」では部屋をいくつか作ることができるため、例えば音楽イベントなら、1の部屋がハウスミュージック、2の部屋がジャズといったように、ジャンルで部屋を分けられ、参加者は好きな部屋を行き来することが可能です。ただ、部屋をまたいでのコミュニケーションができません。主催者は全体にアナウンスしたい場合、部屋をまたいで音声でのコミュニケーションが取れないため、下の帯にテキストで出るようにしました。この機能が意外にも、「コミュニケーションを邪魔せずに伝えられる」とユーザーから好評を集めています。

「HEERE」独自の、アナウンス機能。イベント主催者が、会を中断することなく参加者に情報を届けることができる。

F.I.N編集部

これまで実際に利用したイベントはありますか?

清水さん

デジタルハリウッド大学入試後の交流会を「HEERE」で行いました。入学生同士の交流を図ることが目的だったのですが、いろいろな人が入れ替わり立ち替わりここでずっと会話をし、結果的に入学生たちはかなり打ち解けたようです。なんとなくカメラをオフにして離席して、また戻ってきたら、まだみんながだらだらと話している。そんな“だらだらコミュニケーション”に向いているなと思いましたね。あとは、オンラインゲーム対戦イベントの、関係者やメディアが参加するアフターイベント。メディアの方が取材対象者のいる部屋へ行ってインタビューしたり、関係者同士があいさつしたり。大きなイベントというよりは、中小規模の社内のセミナーや交流会などで有効的に機能すると思います。

デジタルハリウッド大学入試後の交流会の他に、今月実施された「あたらしいふつう展」(https://fabcafe.com/jp/events/newnormal_ten/)でも「HEERE」が使用された。

F.I.N編集部

既存のオンラインコミュニケーションツールに比べ、よりリアルに近い状態で自然な交流が生まれそうですね。3DやVRではないのはなぜでしょうか?

清水さん

確かに3DやVRといったものも1つのリッチなエンタメなので、それらを楽しみたい人や必要な人もいると思います。ただ僕らが目指していたのは、誰でも気軽にカジュアルに使える場を作ることでした。そのため、あえてそういう方向にはしなかったんです。オンラインでも大人数で参加するものもあれば、少人数で参加するものもあるだろうし、3Dもあれば2Dもある。よりリアルを求める人もいれば、逆にそれについていけない人もいる。すべてを網羅した最新のツールというよりは、これまでのものと並んで選択肢が増えたという言い方もできると思います。

F.I.N編集部

コロナ禍で、オンラインコミュニケーションが当たり前になったことで、プラスの変化があると思いますか?

清水さん

「HEERE」に限る話ではないですが、対面すると緊張する人たちの中には、オンラインになったことで話しやすくなったという声も。人と向かい合って空気感を共有することが緊張を生む一つの要素であることから、オンラインであれば自分の部屋の、いつもと変わらない空間でリラックスして話せるそうです。そのため、コミュニケーションの場がオンラインに変わったことで今まで陽の目を見てこなかった新しい才能が芽生えることもあり得るなと。それでその人の未来が開ける可能性がありますよね。オンラインコミュニケーションのネガティブに感じられていた点がプラスに働く場合もあるんだなと思います。

リアルを超えてプラスになる

オンラインならではの価値。

F.I.N編集部

会議などでも、緊張せずに発言ができるようになった方もいるかもしれませんね。「HEERE」の今後の課題はありますか?

清水さん

まずは現状のバージョンを使っていただき、ニーズに応えながら進化していければと思っています。真鍋が企画当初からアイデアとして持っていた、離れたグループが似たような内容の会話をしていたらグループを作るように促したり、5人くらいで話をした内容を分析して「自然言語解析」を行ったりなど、リアルではできないことを可能にした機能を取り入れてステップアップできるといいですよね。これまでのオンラインコミュニケーションツール開発は、リアルでできなくなったマイナス(=課題点)をオンライン上で補うことでゼロに戻すという作業でした、しかしながら、今後はリアルを超えてプラスになる、オンラインならではの機能を模索していきたいと思います。

株式会社フロウプラトウの清水啓太郎さん。「HEERE」ローンチ直前のタイミングでの取材となった。

F.I.N編集部

5年先のオンラインコミュニケーションツールの未来についてどう考えていますか?

清水さん

先ほど話したように、“オンラインならでは”というところが、これからのオンラインコミュニケーションツールの先にあるなと思います。その場限りではなく、データが蓄積されていき、それによってコミュニケーションの質も変わっていくような。オンラインをリアルに近づけるというよりは、リアルはリアルで心地よさを保ち続け、その一方で、オンラインでしかできないことがもっと増えていくのではないでしょうか。ネットワークにただ支配されていくのではなく、リアルとオンラインのちょうどいいバランスを取れるといいですよね。何かが変わったら、1つ違和感が生まれるし、それを解決するために新しいものが作られ、それがまた新しい違和感を生む。ずっと何かしらの違和感を抱え続けて、これでもう完璧だという状態には絶対にならない。この数ヶ月でも劇的に変化したので、5年先は本当にわからないですね。

編集後記

オンラインで仕事をするようになり、メリット、デメリットを感じていますが、今回ご紹介頂いた「HEERE」のような、新しいオンラインコミニケーションの場が誕生していく事で話をする内容に最も適したオンライン環境を、パーソナルに選択したり、オーダーしたり、チューニングして、WEB会議環境がつくれると嬉しいです。

「HEERE」の開発のきっかけの一つに、音楽イベントやクラブイベントの空間の自由さを再現したかったというお話がありましたが、デパートの地下食品売場も似たようなライブ感に溢れており、「HEEREデパ地下」的なECサイトへの可能性も感じました。

(未来定番研究所 出井)

関連する記事を見る