2021.04.21

目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。<全10回>

第1回| 川田十夢さんと考える、「拡張現実的」お花見。

日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。

第1回目にお呼びしたのは、開発者ユニット〈AR三兄弟〉の長男・川田十夢(かわだ・とむ)さんです。AR(拡張現実)を使った表現活動を続け、近年では『拡張現実的』という書籍の出版や、東京コピーライターズクラブと共同開発された“表紙がスマホARで写すと浮かび上がる「コピー年鑑」の発売などで注目を集めている川田さんに、「新しいお花見」について、アイデアをいただきました。
(イラスト:もとき理川)

コロナ禍以降、同じ場所に大勢で集まることが難しくなりました。一方で、こういう時代だからこそできるお花見があると思います。例えば、現実では実現し得ないお花見をデジタル上でやるとか。僕はひどい花粉症持ちで、実は今までお花見をしたことがほとんどありません。でもデジタルなら、僕のような人でもお花見に参加できますよね。
リアルなお花見であれば、風で散った花びらがコップに入ったり、服に付いたり……。こういった「同じシチュエーションを共有する」ということがお花見の醍醐味だと思います。

 

そこで、僕がもしお花見を企画するなら、拡張現実的な技術を活用します。近年、通信技術が発達したので、同じARの映像をみんなで見ることが可能になりました。例えば、複数人が参加しているビデオ通話の画面上に僕が大きな桜の木を出したとしたら、それを全員が同時に見られます。
その技術と、僕の好きな深海を掛け合わせた〈オンライン深海お花見〉をやってみたいです 。これは、その名の通り、深海で桜を見ながらお酒を飲むという催しです 仲間とビデオ通話サービスで繋がり、背景を薄暗い深海に設定して、そこに見上げるほど大きな桜の木を一本ARで置きます。参加者は同じ背景を共有し、同じ桜の木を見ながらお酒を飲むことができます。気分良く飲んでいると、時々グロテスクな深海魚が参加者たちの背景を泳いで行くとか。「今、なんか通った?」とみんなでざわざわするのも楽しいですよね。

 

さらには、例えばお中元ギフトのような感覚で、〈オンライン飲み会セット〉を作るのはどうでしょう。オンラインで飲み会が楽しめるアイテムがパッケージになっていて、それぞれの自宅に届く仕組みです。箱の中には、おつまみ、お酒、背景素材などが入っていて、すぐにオンライン飲み会にアクセスできる。物理的に離れていても、同じものを食べたり飲んだりすることで、より繋がりが密になりそう 。食べられる深海魚の缶詰も、独自開発したいところですね。同時間的に食するものがディープであればあるほど密度増し増し。それに、遠方に住んでいる方、花粉症の方、お年寄りの方などでも、安全に飲み会を楽しむことができます。

 

僕は、こんな時代だからこそ、お酒を飲みながら「ちゃんとふざける」ことが大事だと思っています。最近はリモート会議が一般化してきて、家の中でも気を遣って いる人が多いのではないでしょうか。内でも外でも張り詰めている状態は、あまり健全とは言えません。〈オンライン深海お花見〉のように、きちんとふざける場を持つことで、緊張感をほぐして、人間関係も円滑になったらいいですよね。

Profile

川田十夢さん

1976年、熊本県生まれ。開発者。AR三兄弟。公私ともに長男。毎週金曜日20時からJ-WAVE『INNOVATION WORLD』が放送されているほか、WIREDなどの雑誌連載を抱える。著書に『拡張現実的』(講談社、2020年)がある。7月から開催される東京ビエンナーレに作家として参加。知財ハンター。その世界のスター。通りすがりの天才。
Twitter:@cmrr_xxx

【編集後記】

川田さんのお話をお伺いして、「人との接触が制限されている状況下で、お花見をお花見たらしめるものはなんなのだろう?」と、季節の伝統行事の意義や本質を改めて考え直すことができました。共通の対象物を参加者全員で共有すること、その対象物を楽しむのにタイムリミット(旬)があること、などポイントを押さえれば、実際に仲間と会わなくても季節を感じながら行事を楽しむことができそうです。
この新連載をとおして、従来の方法から更新された、伝統行事の現代でのありかたや受け継ぐべきものをさまざまに考えていきたいと思います。
(未来定番研究所 中島)

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