2021.06.04

目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。<全10回>

第3回| 〈バスキュール〉代表・朴正義さん的「七夕」は、宇宙×出会いの日。

日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。

第3回目にお招きしたのは、テクノロジーとデザインを掛け合わせて新しいコミュニケーション体験を提案するクリエイティブチーム〈バスキュール〉代表の朴正義(ぼく・まさよし)さん。2016年からテクノロジーを駆使した〈七夕プロジェクト〉を企画してきた朴さんに、「あたらしい七夕」についてアイデアを伺いました。

(イラスト:早川洋貴)

2016年に〈七夕プロジェクト〉を始めた理由は、「未来を創るってどういうこと?」という自問自答からでした。それは「未来に残したいものを創る」ということなのかも、という仮説から、七夕にターゲットをあて、実行してみました。七夕は、誰もが自分の願いごとを安心してカミングアウトできる日で、未来に残すべき慣習だと思ったからです。アップデートの対象は、「短冊=願いの集め方」でした。“みんなの願い”をデータとしてタグづけできれば、その年がどんな1年だったかが見えてくるのではないか?と考えました。そこで、LINEに協力いただき、LINE上で願いを投稿できるシステムを開発。その結果、日本全国から85万枚以上もの願いごとが集まり、イベントは大成功に終わりました。2017年には日本テレビと一緒に、〈タナバタリウム〉という体験イベントも企画。「願いを飾る笹」のアップデートもしてみようと、鏡張りのボックスの中で、参加者たちの書いた願いがデジタルアートとして出現するという仕組みで、こちらも多くの方に喜んでいただきました。

こうした取り組みを続ける中で、現代の七夕にはフィジカルな体験が不足していることに気が付きました。クリスマスなら親しい人とごちそうを食べたり、ハロウィンであれば友人たちと仮装パーティーをしたりしますよね。クリスマスやハロウィンを心待ちにする人はたくさんいそうですが、七夕を心待ちにする人は少なそうです。きっと他者との時間共有体験をイメージしづらいからなんだと思います。一方で、七夕には、織姫と彦星が一年に一度だけ会えるというロマンチックなストーリーがあります。願いをカミングアウトするだけでなく、七夕を会いたい人に「会いたい」とカミングアウトできる「出会いの日」にするのはいかがでしょうか?

ここからは個人的な趣味も入りますが、七夕には、天の川、宇宙という文脈もあります。実は、僕らは近年、宇宙事業に力を入れています。去年の大晦日から今年の元旦にかけて、「宇宙からの年越しカウントダウン」や「宇宙の初日の出」を企画。国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の宇宙スタジオと地球をつなぐLIVE番組を配信しました。スマートフォンひとつあれば、地球のどこにいても、誰もがISSのディスプレイにリアルタイムに登場できる仕組みをつくったんです。この技術を用いて七夕を「地球では会えない人たちが宇宙で出会える日」にしたらおもしろそうです。さまざまな事情 で、出会えない人はたくさんいます。そんなふたりが、国境のない青い地球をのぞむ宇宙空間に設置されたディスプレイのなかで出会い、語り合う。きっとロマンチックだと思います。

クリスマスや七夕という伝統行事が千年という時代を超えて続いてきたのは、それらが地域のコミュニケーションに必要だったからなんだと思います。20世紀、テレビというメディアの発明によって、オリンピックやW杯をはじめとする「スポーツ」という新しいお祭りが世界中に広まり、国家間の争いが少なくなったと思います。人類共通のルールで楽しむスポーツは、きっと千年を超える行事になると思います。そして、21世紀、世界に普及したインターネットは、間違いなく人類史に残る発明品です。インターネットというコミュニケーション技術を手にした、21世紀を生きる僕らが、千年後も続く行事やイベントを創り出せないなんて悔しいですよね 。そんな意気込みで、人々をつなぐ新しい行事のかたちをこれからも提案していきたいです。

Profile

朴正義さん

1967年、東京都生まれ。クリエイティブチーム〈バスキュール〉代表。2000年にバスキュールを設立し、メディアやフォーマット、既存概念にとらわれないものづくりで国内外のクリエイティブ賞を350以上受賞。2020年には、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」に〈KIBO宇宙放送局〉を開設。世界初となる宇宙と地球をつなぐ双方向ライブ配信を成功させた。

https://bascule.co.jp/

https://kibo.space/

【編集後記】

幼稚園や小学校などで誰もが経験する「七夕」のイベント。しかしながら年齢を重ねるにつれて、その日に想いを馳せることは薄れていっています。朴さんが仰る通り「七夕」が持っているストーリーや「想い」や「願い」、「出会い」といったキーワードは人を惹きつけるものがあり、夏の一大イベントになるポテンシャルが間違いなくあります。人々のプリミティブな想いを体現化できるイベントとして、未来に伝えていければと思います。
(未来定番研究所 織田)