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2021.05.18

目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。

Vol.2 村松亮太郎さん的「こどもの日」は、“空が海になる日”。

日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。

第2回目にお招きしたのは、二条城や東京駅へのプロジェクションマッピングをはじめとした空間演出で知られる、クリエイティブカンパニー〈NAKED, INC.〉の代表・村松亮太郎さん。伝統と革新が融合した作品を多く手がける村松さんに、「あたらしいこどもの日」についてアイディアを伺いました。

(イラスト:前田豆コ)

こどもの日(5月5日)は、僕にとっても特別な日。実は、その日は僕の誕生日なんです。そのせいか、こどもの日としての印象よりも、誕生日という特別感の方が強かったですね(笑)。それでも、小さい頃に地元で見た、色とりどりのこいのぼりが風にはためく姿は印象に残っています。

 

最近では、こいのぼりを揚げたり、五月人形を飾ったりするご家庭が減ってきているようです。理由には、少子化や住宅環境の変化があると思いますが、「子どもにとって魅力的なイベントになっていない」ことが問題だと思います。例えば、クリスマスは日本古来の行事ではないですが、今では多くの人が祝うイベントになりました。カップルならデートをしたり、家族ならごちそうを食べたり、楽しみ方が明確ですよね。一方、こどもの日は、菖蒲湯(しょうぶゆ)に入るなどもありますが、いまいち子ども自身が楽しめる日になっていなかったと思うんです。

 

子どもが楽しめるイベントにするために、「こいのぼり」をアップデートしたいと思いました。青空にいくつもの鯉が泳ぐ姿というのは、今見ても魅力的なもの。かといって、それをただデジタルで再現するのは違うと思っています。なんでもデジタル化してしまうのではなく、伝統をなるべくそのままのかたちで保護していくことも大切です。僕はこういった仕事柄、デジタル重視に思われがちですが、実はデジタルのみで制作している作品は少なく、必ず建物などリアルなものと掛け合わせて表現しています。フィジカルなものから感じる力を信じているので、バーチャルの中でもフィジカル感覚に訴えるものが作りたいです。

 

そこで僕が考えたのが、こどもの日を“空が海になる日”にすること。現実世界で空に泳ぐこいのぼりと、バーチャル世界の海がリンクする仕組みです。その仕組みを多くの子どもたちが楽しむようになれば、こどもの日により盛り上がりが生まれる。そして結果的に、こいのぼりを揚げる家庭が今より増え、現実世界の空も“こいのぼりが泳ぐ海”になりますよね。こいのぼりには風に反応するセンサーを設置することで、こいのぼりが風にはためく力を察知できるようにし、その風力によってバーチャル世界の魚が海を泳げるようにするんです。風の強弱によって、魚が海を泳ぐ速さが変わるようにします。スマホやタブレットでさまざまな魚がいる海の様子を見ることができ、「この魚、やけに速いな」と気になったら、「現実世界のどこで泳いでいるこいのぼりか」まで調べられる。自分の家に揚がったこいのぼりが、バーチャルの海でも泳ぐなんて、子どもでなくともワクワクしますよね。

 

こいのぼりのデザインも、バーチャルの海を泳ぐ魚も、鯉だけに限らず、水中にすむいろいろな魚でいいと思います。サメやマンタ、エビにサケなど、多様性があった方が見ていておもしろそうです。伝統は守りつつ、時代に合った楽しみ方ができるようになれば、こどもの日はもっと盛り上がっていくのではないでしょうか。

Profile

村松亮太郎さん

アーティスト。NAKED, INC.代表。大阪芸術大学客員教授。長野県・阿智村ブランディングディレクター。1997年にクリエイティブカンパニーNAKED, INC.を設立以来、映像や空間演出、地域創生、伝統文化など、あらゆるジャンルのプロジェクトを率いてきた。映画の監督作品は長編/短編合わせて国際映画祭で48ノミネート&受賞。2018年からは個人アーティストとしての活動を開始し、国内外で作品を発表。2020年には、分断の時代に平和への祈りで世界を繋ぐネットワーク型のアートプロジェクト「Breath / Bless Project」を立ち上げ、世界各地での作品設置に取り組む。

https://ryotaro-muramatsu.com
Instagram:@ryo_naked

Instagram:@naked_inc
Facebook:@NAKEDINC.official
Twitter:@naked_staff
YouTube:https://www.youtube.com/c/NAKEDINC

【編集後記】

こどもの日が「子どもにとって魅力的なイベントになっていない」という村松さんのご指摘に、頭を大きく縦に振らざるを得ませんでした。私自身、幼い頃から5月5日には柏餅を食べたり、こいのぼりの絵を描いたり(揚げたことはない)してきたものの、こどもの日ならではのすてきな思い出はとくに持ち合わせていなかったからです。

たとえ参加する人が減りつつある伝統行事でも、現代の人々が次世代にも伝えたくなるような本質的な解釈を突き詰めることによって、世代を問わない魅力的なイベントにつなげられるのだということを学びました。

(未来定番研究所 中島)

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Vol.2 村松亮太郎さん的「こどもの日」は、“空が海になる日”。