F.I.N.的新語辞典
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2021.07.12
目利きたちと考える、季節の新・定番習慣。<全10回>
日本には、年間を通して伝統や文化に根付いた行事や習慣が多く存在します。中には、他の行事と比較すると、人々の関心が薄まりつつある行事も少なくありません。「未来定番研究所」では、そうした伝統行事を未来に繋いでいくためにも、各界で活躍している方々にお話を伺いながら、新しい行事や習慣の在り方を探っていこうと思います。
第4回目にお招きしたのは、“祭りで日本を盛り上げる”をミッションに活動している、〈オマツリジャパン〉代表で祭り専門家の加藤優子さん。お祭りを利用した町おこしのサポートやコーディネート、お祭りの魅力を発信するメディアの運営など、お祭りに関するさまざまな事業に携わる加藤さんに、これからの時代の「お祭り」の在り方についてアイデアを伺いました。
(イラスト:小松キリコ)
日本は世界的に見てもお祭りが多い国で、年間の祭り総数は約30万件といわれています。その種類も収穫を祝うものや疫病をはらうもの、火事の鎮火を祈るものなどさまざま。お祭りには「神事」と「賑やかし」の2つの側面があり、神事は例年のとおりに執り行うところが多いのですが、お神輿や盆踊りといった賑やかしは減ってきています。お祭りという文化を後世に残していくためには、デジタルなどの新しいテクノロジーを取り入れた“攻め”と、今あるお祭りを後世へ伝えていく“守り”の活動が不可欠です。
まず“攻め”のアプローチとして、VRを使った没入型祭り体験はいかがでしょうか。VR上に祭り会場をこしらえ、参加者はアバターを使って自由に見てまわることができます。屋台で焼きそばを買ったり、お囃子(おはやし)に参加したり、友人と一緒にお喋りできたりしたらおもしろそうです。広い会場には、北海道から沖縄までのさまざまなお祭りが一堂に介している形にして、その場でいろいろなお祭りに参加できたら嬉しいですよね。青森「ねぶた祭り」や徳島の「阿波おどり」、秋田のなまはげなどの有名どころはもちろん、いわゆる“奇祭”と呼ばれるニッチなお祭りも集合させたいですね。小さい離島で粛々と伝わるお祭りなどは島に行くこと自体が難しく、なかなか参加するハードルが高いですが、VRであれば手軽に楽しめますよね。
次に“守り”の活動についてですが、今あるお祭りを後世に伝えていくためには、「記録を残すこと」「知ってもらうこと」「後継者をつくること」の3つが大切だと考えています。記録を残すことや知ってもらうことは、スマホやSNSが普及し容易になりました。ですが、後継者についてはまだまだ課題が残ります。少子高齢化が進み、地域に住む人だけで後継者を残していくのは難しいのが現状です。かといって、地域と全く関わりのない人を呼ぶのはもっと難しい。そこで重要になるのが、ちょうど中間の「関係人口」の創出です。関係人口とは、その地域に住んだことがなくても、頻繁に行き来したり、過去に滞在したことがあったり、何らかの関わりのある人のことを指します。オマツリジャパンでは、関係人口を増やすために「祭り留学」というプログラムを開始しました。例えば今年の3月13日(土)に開催した「オンラインツアー」では、なまはげを行う秋田県男鹿半島と日本各地をオンラインで結び、なまはげの由来や歴史について勉強会を実施。日本酒やハタハタが楽しめるプランも用意し、地元の人々との交流を深めました。今年も9月末に「なまはげを知るオンラインツアー」を実施したり、現地体験ツアーを行うなど、男鹿のナマハゲについて学ぶプログラムを予定しています。また「祭り留学」以外に、地域企業の若手社員にお祭りを手伝ってもらうという取り組みも始めました。地域と密に繋がっていきたい企業と、人手がほしい自治体とをマッチングさせる試みで、どちらにとってもいい効果が生まれると思っています。
私がお祭りへ夢中になったのは、東日本大震災後に訪れた青森のねぶた祭りがきっかけです。
「大きな災害の後だから、きっと人は少ないだろう」と思っていたのですが、いざ会場に行ってみると、たくさんの人々が笑顔で飛び跳ねていたんです。その時に、お祭りは人の暮らしを支えているんだなと実感しました。もともとお祭りが開かれるのは、村のみんなが集まれる日でした。例えば、夏は畑仕事がひと段落して集まりやすいから夏祭りが多いなど。“お祭り”と銘打って、たまには騒ぎたい、楽しみたいという気持ちがその根底にはあると思います。日本人の「楽しい」の根源は実はお祭りだったのかもしれないですね。“攻め”と“守り”の揃った新しいお祭りの形を定番化させることで、日本をより元気にしていきたいです。
加藤優子さん
1987年6月18日生まれ。練馬区出身。株式会社オマツリジャパン代表。祭り専門家。好きなお祭りは青森ねぶた祭り。地域自治体のお祭りプロデュース、ツアー企画、デザイン、広報活動など、お祭り運営全般を行う。
【編集後記】
進学や就職で地元を離れ、地域とのつながりが薄れるなかで、そのお祭りを次世代に繋げていく人が減ってきているのは、よく聞く話です。しかしながら、今回お話をお伺いした加藤さんは、その一つ一つを残せるようにアナログな手法だけではなく、昨今のテクノロジーを活用して様々な取組をされています。その根底にお祭りへの愛があり、またその熱の入った語りを聞いているうちに、自然と「早くお祭りに行きたい」という気持ちになりました。
(未来定番研究所 織田)
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第4回| 祭り専門家・加藤優子さんが提案。VRで体験する全国のお祭り。
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