2022.10.31

もてなす

おもてなしの実態調査2022-23 渡邊恵太さん(インタラクションデザイン研究者)

F.I.N.編集部が掲げる今回のテーマは、「もてなす」。ちょっとした気遣いや小さな思いやりを感じることで、心が温かくなる「おもてなし」ですが、今、私たちはどんな気配りに心を動かされ、どんな心遣いを必要としているのでしょうか。F.I.N.編集部では各業界の目利きの方々に自身の体験を伺い、おもてなしの今から5年後10年後の未来を探ります。今回はUIやUXなど、インタラクションデザインとそのまわりから考えるおもてなしについて、インタラクションデザイン研究者の渡邊恵太さんにお話をお伺いしました。

 

(文:宮原沙紀)

Profile

渡邊恵太さん

明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科准教授。

1981年東京生まれ。2009年慶應義塾大学政策メディア研究科博士課程修了。知覚や身体性を活かしたインターフェイスデザインや、ネットを前提としたインタラクション手法を研究している。2014年にIoTデバイスやロボットの設計を手掛けるシードルインタラクションデザイン株式会社を創業。著書に『融けるデザイン ハード×ソフト×ネットの時代の新たな設計論』(ビー・エヌ・エヌ新社)など。

Q1.最近受けて嬉しかった、おもてなしを教えてください。

オンオフの境界が曖昧なデジタル製品。

 

〈パナソニック〉の人感センサー付きLED電球を使いはじめました。それまで使っていた他社のものは、一定時間人が動かないと突然パチンと消えてしまいます。一方パナソニックのLED電球は、時間が経つと徐々に暗くなります。現実世界は何事も連続的になっていますが、デジタルや電気は比較的非連続でオンオフが明確。それをあえて徐々に明るくしたり暗くしたりするのは、より現実世界に近く違和感なく生活に馴染むようにという設計者による心遣いだと思いました。

他にもスマートディスプレイGoogle Nest Hubは、周辺の明るさに応じて画面も暗くなり、この暗さがちょうど良い。テレビのようなディスプレイはオフにしているとただの黒い画面になってしまいインテリアに溶け込みにくいのですが、スマートディスプレイは常にオン。使っていない時にどうあるのかをデザインすることも、求められていると思います。

Q2.ご自身がおもてなしをする際、大切にしていることは?

ずっと前からそうであったように、環境を整える。

 

何事にも前もって準備をすることが大切です。お客さんを家や研究室に招いたら、環境を整えて迎える。綺麗な部屋に招かれた人は、この空間を以前からそうであったと認識します。自分のためにそうしてくれたかもしれないし、普段から綺麗なのかもしれない。その辺りも曖昧になります。掃除をする際に、本の角度が全て揃っているとか、わざとらしく花が置いてあるとか、やりすぎると普段はそうしていないだろうと思われることもあるかもしれません。「はじめからそうだった」という感じをどう出すかが重要です。

講演やプレゼンの際にも、相手によって話し方を変えるなどの工夫をします。特に最初と最後には気を遣っていて、まず自己紹介ではじめがちなところを、自分が最近手がけた事例などを話すようにしています。最後になにを言うかも重要。定型の文言で終わりにせず、何か印象的なメッセージを伝えるようにしています。

Q3.5年先、10年先のおもてなしはどのようなものになっていくと思いますか?

アクセスが容易になる仮想空間でのおもてなし。

 

人のおもてなしはこれまでのように重要ですが、日常的なサービスの多くがソフトウェアで実現されます。顧客との接点もスマホ画面のUIだったりロボットだったりします。これまでの日本の文化であるおもてなしを、どのように人を介さずに実現していくかは重要な課題でしょう。

また、今後ますます普及するであろうVR、メタバースでのおもてなしも考えられます。現在のVRの課題のひとつが、ゴーグルを被る手間。私たちの研究室で、実世界とVR世界をゴーグルで繋ぐシステムを考えました。ゴーグルの外側にもディスプレイがあり、犬が「ご飯が欲しい」と呼んでいる。そうしたらゴーグルを被ってご飯あげにいくというようなVRの中から呼ばれる設計です。

このように仮想空間へアクセスしやすくなったとき、現実とは違う世界に入っていく不安を減らすことも大事です。自分の身体も現実とは違う姿になっている可能性があるので、その身体に早く慣れさせるような仕組みも必要になります。

Q4. おもてなしが秀逸な最新UIUXはありますか?

ペット型おもちゃの進化、「うまれて!ウーモ」。

 

2016年に〈タカラトミー〉から発売されたおもちゃ「うまれて!ウーモ」。最初は卵の状態で箱に入っています。箱を開けてピンを取り外すと、卵から聞こえてくる動物の声。光る卵をなでて温めていると、孵化がはじまり中のぬいぐるみが卵をつついて出て来ます。Aiboなどのペットロボットはたくさんありますが、生まれる瞬間に立ち会えるものはなかなかありません。自分にとって世界で一匹しかいないという特別感を演出してくれると思います。

もうひとつ、コロナ禍で一般的になったお店の前に置かれている検温、消毒の機械。検温をして、消毒をして、と何回も動作を求められます。しかし手を一度入れたら検温をして消毒液も出てくるタイプの機械があります。これはよく考えられているなと思いました。理想を言えば、手をかざすひと手間がなくても検温、消毒ができるような装置があれば便利ですね。

【編集後記】

明度がゆっくり変わるLED照明の照明や、人間が仮想空間にスムーズに馴染める仕組みなど、渡邊先生のお話を通して、UIUXのおもてなしとはデジタルツールを暮らしの一部として、その存在を意識させないほどに溶け込ませることなのだとわかりました。ただ、それはデジタルだけの話ではなさそうです。Q2のご回答のように、人と人との関係性においても、ごく自然に気遣いがなされていることは心地よいおもてなしとなります。このおもてなしが持つ「曖昧さ」がとても興味深く、今後も注目していきたいと思いました。

(未来定番研究所中島)