2022.12.23

もてなす

おもてなしの実態調査2022 皆川潤子さん(ホテルニューグランド)

F.I.N.編集部が掲げる今回のテーマは、「もてなす」。ちょっとした気遣いや小さな思いやりを感じることで、心が温かくなる「おもてなし」ですが、今、私たちはどんな気配りに心を動かされ、どんな心遣いを必要としているのでしょうか。F.I.N.編集部では各業界の目利きの方々に自身の体験を伺い、おもてなしの今から5年後10年後の未来を探ります。今回お話を伺ったのは、横浜の歴史と共に歩んできたシンボル的存在〈ホテルニューグランド〉で、チーフコンシェルジュを務める皆川潤子さん。1927年に開業し、クラシックホテルとして今も人気の高い同ホテル。国内外から訪れる多くのゲストに接してきた皆川さんに、長く愛されるおもてなしについて教えていただきました。

 

(文:大芦実穂)

Profile

皆川潤子さん

ホテルニューグランド、チーフコンシェルジュ。

1994年、ホテルニューグランド入社。宿泊やレストランを利用するお客様に対し、食事の手配や観光案内などを行う。

Q1.最近受けて嬉しかった、おもてなしを教えてください。

上高地のホテルへ宿泊時、

スタッフの方が最寄りバス停まで迎えに来てくれたこと。

 

先日、日頃の疲れを癒すために家族で上高地のホテルへと出かけました。その日はあいにくの雨模様で、ホテル最寄りのバス停に着くと、パラパラと雨が降っていました。荷物もあるなかで、山道を歩いて行くのは大変です。すると片手いっぱいに傘を抱えたホテルのスタッフの方が見えました。何時のバスに乗るか事前に伝えていませんでしたが、バスの到着時間に合わせて、停留所まで来てくれていました。もし私たちをはじめ他のお客様がこのバスに乗っていなかったら、スタッフの方がここまで来たことは無駄になってしまいます。それでも、こうして相手のことを思って待っていてくれたことがとても嬉しかったですね。

Q2.ご自身がおもてなしをする際、大切にしていることは?

自分自身が健全な心でいること。

お客様を家族だと思うこと。

 

お客様の雰囲気や話し方、表情などから、どんな方なのか、今何を一番求めていらっしゃるのか、瞬時に判断し、その方の立場に立って、最善のおもてなしができるよう心がけています。相手を思いやる気持ち、これこそが重要なのは間違いありませんが、自分が健全な心身状態になければ、お客様の心に届くおもてなしはできません。

私たちの働く環境は人間関係に基づいていますから、お客様だけでなく、一緒に働く仲間に対しても、常に感謝の気持ちを忘れないよう心がけています。そのためにも、きちんと言葉にして「○○さん、ありがとう」と伝えるようにしています。もし同僚や上司が、体調が悪そうだったり、元気がなさそうだったりしたら、「大丈夫?どうしたの?」と、相手の立場に寄り添って声をかけています。コンシェルジュはお客様の要望に応えるお仕事です。例えば、特別なお料理を召し上がりたいお客様がいらっしゃったら料理長とメニューの相談をしたり、ベッドの固さが合わなければ、また別の部署と話をしたり。仲間の協力がなくては、お客様の満足度を上げられません。ですから、仕事環境を良好にすることが、自ずとお客様へのおもてなしへと繋がると思っています。

 

また、お客様を自分の大切な家族だと思うようにしています。すると、なんでもやってあげたくなり、心からのサービスに繋がります。実際、祖父母や両親と同じくらいの年齢の方も多くいらっしゃるので、自然と家族のように思えてきますしね。お客様に喜んでいただくためには、マニュアル通りではなく、いかに記憶に残るサービスを提供できるかどうかで決まります。初心を忘れず、常に謙虚な気持ちを大切にし、一人でも多くのお客様にご満足いただけるよう、日々精進していきたいです。

Q3.5年先、10年先のおもてなしはどのようなものになっていくと思いますか?

生身の人間だからこそできる「優しい眼差し」。

温かみのある接客はこれからも求められる。

 

テクノロジーが日々進化していますが、人間にできてロボットにできないのは「優しい眼差し」だと先輩から聞いたことがあります。生身の人によるおもてなしが、心の癒しとなり、多くの人に求められるようになるのではないでしょうか。やはり人間は物理的にも温かいですからね。AIやロボットでは代替のできない接客の仕方があると思います。

また、日本人に染みついている、ちょっとした気遣いの心。これももっと価値のある存在になると思います。例えば、セロハンテープの端を折り返して、剥がしやすくしておくことなど、日本に訪れる海外ゲストは、私たち日本人以上に感動してくださいます。

Q4.伝統と格式を持つホテルニューグランド。今後どのように変化していくと思いますか?

革新が伝統へとつながっていく。

 

総支配人の青木がいつも申しておりますのが、「伝統は革新があってこそ生まれるもの」ということ。例えば、「ナポリタン」「プリンアラモード」「ドリア」の3つの料理は、ホテルニューグランドで誕生し、日本全国へと広まりました。その日お客様の体調が悪く、「何かのどごしのいいものが食べたい」というご要望があり、シェフが即興で考え出したのがドリアです。「お客様のために」という想いは、当時から変わらないんだなと。本館は1927年に建てられ、館内ツアーつきの宿泊パッケージもご用意しています。館内を巡るなかで、写真撮影のお手伝いもさせていただいたり。私たちのホテルは、「横浜の歴史と共に歩んできたシンボル的存在」と言っていただくこともあります。これからも地域と連携して、国内外のお客様をおもてなしできたらいいですね。

【編集後記】

『自分が健全な心身状態になければ、お客様の心に届くおもてなしはできません』という皆川さんの言葉に、自戒の念も込めながら何度も大きく頷いてしまいました。おもてなしをする相手への心遣いはもちろんですが、自分自身や環境のケアにも目を向けることで、一方的ではなく、より相手に適したおもてなしをできるようになるのだとわかりました。

(未来定番研究所 中島)