2022.10.31

もてなす

おもてなしの実態調査2022-23 一条ヒカルさん(元ホスト・経営者)

F.I.N.編集部が掲げる今回のテーマは、「もてなす」。ちょっとした気遣いや小さな思いやりを感じることで、心が温かくなる「おもてなし」ですが、今、私たちはどんな気配りに心を動かされ、どんな心遣いを必要としているのでしょうか。F.I.N.編集部では各業界の目利きの方々に自身の体験を伺い、おもてなしの今から5年後10年後の未来を探ります。今回は、かつて歌舞伎町のカリスマホストとして活躍し、現在はホストクラブを経営する一条ヒカルさんに、相手を喜ばせるおもてなしの必要性を伺いました。

 

(文:船橋麻貴)

Profile

一条ヒカルさん

元ホスト、経営者。

1987年富山県生まれ。美容師を経験後ホスト業界へ転職し、現役ホスト時代には4年間連続で年間売上1億円オーバー、年間最高売上1億5千万円オーバー、月間売上25ヶ月1000万円突破、最高指名本数215本など、他に類を見ない数多くの記録を樹立。現在は、歌舞伎町でホストクラブを5店舗経営。独自の教育方針で多くの1000万円プレイヤーを誕生させている。未経験者のみで店舗の売上「月間1億円」を突破。group BJ全20店舗の内、自分の管轄として5店舗(CLUB CLASSY、BLACK DIAMOND CLUB、CLUB ARTIST、THE GENTLEMEN’S CLUB、THE BUTLER’S CLUBの総勢150名を率いる会長としてgroup BJを牽引し、ホストの仕事の見られ方、歌舞伎町や水商売のイメージ改善、人材育成に尽力する。ホストでありながらnoteで経営論・教育論を執筆し話題に。

note:https://note.com/funakurakko/

Q1.最近受けて嬉しかった、おもてなしを教えてください。

あえて顔を合わせない、配達員からのサービス。

 

つい最近、Uber Eatsの配達員の方から神がかったおもてなしを受けました。僕は週12回はUber Eatsを利用しているヘビーユーザーなので、愛想がよかったり、膝をついて商品を渡してくれたりと、これまでにもさまざまなタイプの配達員の方々と出会ってきました。一般的にはこういう対応は素晴らしいですよね。ところが、その配達員の方は違ったんです。いつものようにチャイムが鳴り、玄関のドアを開けると、なんと目の前には誰もいないんです。「あれ?」と思ったその瞬間、ドアの横から両手が伸びてきて商品がスッと出され、「横から失礼します、Uber Eatsです!」と爽やかな一声が。戸惑いながらも商品を受け取り、「なんだったんだろう?」と思った直後、そのおもてなしのレベルの高さに気づきました。そう、彼はあえて「顔を合わせない」サービスを提供してくれていたんです。以前からUber Eatsを受け取るときは、完全オフのプライベートな状態を見られるのに少し抵抗があったし、もしかしたら部屋の中をジロジロ見られているのではないかという不安もあったんです。ですが、その配達員の方はこちらのプライベートに踏み入るわけでもなく、忍びのように商品を届けてくれました。対面での受け取りなのに顔を突き合わせない接客は一見失礼な態度とも捉えられるかもしれませんが、彼のきれいに伸びた手つきや明るい声はそんなことを一切感じさせません。むしろ、清々しくて気持ちがいい。僕にとっては最高のおもてなしでした。愛想がいいだけがおもてなしではないということを、影の存在に徹した彼のサービスから学べた気がします。

Q2.ご自身がおもてなしをする際、大切にしていることは?

相手を笑顔にするために、自分の感情をコントロールする。

 

「マニュアル人間」にならないようにしています。というのも、ホストクラブのお客さまは千差万別ですし、お酒を飲んで楽しく騒ぎたい日もあれば、相談を聞いてほしい日もあって、その日によってお客さまの気分も異なります。だから、マニュアルにはまった接客では相手を笑顔にできません。相手を瞬時に観察し、状況を把握し、その人にあったおもてなしすること。それがホストに必要なスキルだと思います。そして、僕らおもてなしをする側が大切すべきことは、どんなときも冷静でいること。いつ何時でも相手を受け入れられる状態でないと、最高のおもてなしができませんから。相手に何を言われても冷静さを欠いてはならないし、自分の感情をむき出しにしては相手を笑顔にできません。マニュアルに縛られず、自分の感情をコントロールする。それがおもてなしをする際に重要なことだと思います。

Q3.5年先、10年先のおもてなしはどのようなものになっていくと思いますか?

おもてなしは多様化し、そして細分化していく。

 

テクノロジーが進化し便利な世の中になっていますが、今後もどんなサービスも対人であるかぎり、おもてなしはより必要とされると思います。なぜなら、心を宿したおもてなしは、人にしかできないから。おもてなしと常に向き合うホストという職業もそう。AIにできないおもてなしができるから、この先も絶対になくなりません。そして5年、10年先の未来では、おもてなしはさらに多様化しているはず。より個の時代となっていくので、SNS向けのもの、VRや仮想空間に特化したおもてなしなど、人それぞれに合わせて細分化していくと思います。

Q4.相手を喜ばせるおもてなしのプロとして、今やってみたいおもてなしを教えてください。

非モテ男性をデートでおもてなし。

 

職業柄、男性と女性、どちらからの愚痴を聞くこと13年。今、モテない男性を食事やデートに誘っておもてなししてみたいです。デートもおもてなしだと思うんですが、世にはエスコート下手な男性が多すぎる気がしていて。楽しいはずのデート中、相手の意見を否定したり、知識をひけらかしたり……。それでは女性は笑顔になれませんよね。「デートがつまんなかった」と言われるほど、僕にとって恥ずかしいことはありません。例えば、デートで観た映画がつまらなかったとします。選んだ本人も申し訳なくて、なんとなく気まずい雰囲気になってしまいます。そんなときには、「あのシーンは費用がギリギリだったんだよ。だから逆にすごい」なんて言って、ネガティブ要素をポジティブに変えて相手が楽しくなるよう努力します。世の男性がおもてなし上手になれば、空気読めない男性陣に女性がイライラすることもきっと少なくなるはず。このようにホストで培ったスキルを伝えて、世の男性たちの手助けになれたら嬉しいですね。

【編集後記】

一条さんの「おもてなしにマニュアルは存在しない。」という言葉にハッとしました。 お客さまに対して、これをしたら喜ばれる!鉄板マニュアルみたいなものってどの業界にも存在するんだろうな、と思っていたのですがその考え自体に誤りがあったのだと気が付きました。というのも型にハマったおもてなしをすることが必ずしも、受ける側にとって気持ちのいいものとは限らないからです。その日のお客様の気分を仕草・状況などのヒントから瞬時に把握するとともに、こちらはどんな内容も受け入れられる体制を整えておくこと。 お話を伺っている間は自然と心地よく楽しい気分になっていたので、どこかで一条さんのおもてなしが隠されていたのではないか・・・そう思えてなりません。

(未来定番研究所 小林)