2022.11.28

もてなす

おもてなしの実態調査2022 板橋令子さん(キュレーター)

F.I.N.編集部が掲げる今回のテーマは、「もてなす」。ちょっとした気遣いや小さな思いやりを感じることで、心が温かくなる「おもてなし」ですが、今、私たちはどんな気配りに心を動かされ、どんな心遣いを必要としているのでしょうか。F.I.N.編集部では各業界の目利きの方々に自身の体験を伺い、おもてなしの今から5年後10年後の未来を探ります。今回は、インディペンデント・キュレーターとして活躍する板橋令子さんに、アーティストとお客さんとの関わりのなかから感じる、おもてなしのあり方について話を伺いました。

 

(文:大芦実穂)

Profile

板橋令子さん

慶應義塾⼤学卒。文化・交流を生み出す持続的な街づくりに携わりたいと考え、文化事業を重視する企業に入社。アーティストとコラボレーションした⼤型インスタレーションやイベントの企画を多数経験したほか、現在は新規開発プロジェクトにおける文化施設の立上げに携わる。個人の活動では、インディペンデント・キュレーターとして、展覧会の企画、トークイベントのキュレーションおよび聞き手、ウェブメディアでの記事企画・執筆などに取り組む。

http://reikoitabashi.com/

https://www.instagram.com/reiko_and_/

Q1.最近受けて嬉しかった、おもてなしを教えてください。

私がキューレーションした展覧会のコンセプトを汲んでくださった、
チョコレートの差し入れ。

 

今年の1月、「MEET YOUR ART」主催のコンペティション入賞に伴い、私が初めてキューレーターを務めた展覧会「Mother nature -アートに観る、女性や自然と文化の相互作用-」が、中目黒にあるギャラリー〈N&Aアートサイト〉で開催されました。文化・芸術にみる女性と自然の関係性を紐解いてゆくというコンセプトで、7名の女性アーティストの作品を展示させていただきました。

会期中、尊敬するキューレーターの先輩が遠方から来てくださったのですが、手にはチョコレートの差し入れまで。しかもそのチョコレートが、女性の社会進出支援や環境保護に取り組んでいるお店のものだったんです。展覧会の内容にリンクしたものを選んでくれたことがわかり、とても感動しました。私もそのお店を知っていたのですが、店舗は表参道にあるので、中目黒からは少し離れています。ギャラリーに立ち寄る前に、わざわざ表参道まで行って買って来てくれたんだなと、私の手に届くまでのストーリーを想像して、胸が熱くなりました。

Q2.ご自身がおもてなしをする際、大切にしていることは?

相手の心を汲み行動に移す、

「物語のあるおもてなし」をすること。

 

いつも念頭にあるのは、「相手の気持ち」を最優先にするということです。例えば、世間で流行中のスイーツがあったとして、それをプレゼントする相手が甘いものを苦手としていたら?自己満足に終わってしまうかもしれませんよね。おもてなしはあくまで相手のための行為なので、もしも他の人と違うプレゼントをあげて目立ちたいという姿勢が先行してしまったら、本来のおもてなしとは違うと思います。相手を想ううえで、たとえアーティストでもそうでないとしても、本人が発信しているものはすべてが大切な自己表現です。SNSやブログ、昔送ってくれた写真、前に話していたこと……、どんなツールでもいいので、相手が発信したことから「何が好きか」、「いま必要なものは何か」を汲み取って、贈りものを考えられるよう心がけています。どうしたら喜ぶ顔が見られるか、どうやって渡そうか、何を振る舞おうか……、そんなことを思考すればするほど、おもてなしまでの物語が生まれるはずです。相手の心情を考察するのは、作品を観てアーティストに想いを馳せるキュレーターの思考回路にも通じる部分があるかもしれません。

Q3.5年先、10年先のおもてなしはどのようなものになっていくと思いますか?

変わらない。

誰かを想う心遣いは、時代に左右されない普遍的な行為。

 

由来は諸説ありますが、実際に平安時代から「持て為す」という言葉は使われていて、ものを「(手で)持って」「為す(行動する)」という意味だったそうです。技術の進歩やライフスタイルの変化は目まぐるしく、選択肢や手段は増えると思いますが、せっかくなら、遠い未来が訪れても、オンラインではなく、大切な人の顔を見て直接おもてなししたいですね。顔を見て、声色を聞いて、その人を目の前にしながらコミュニケーションを取るという行為は、これから5年後も10年後も私たちにとって大事なものであり続けると思います。展覧会を企画するうえでも、実際にこの場を訪れた方にしか味わえない鑑賞体験の提供を目指しました。

例えば「Mother Nature」の際は、アーティストと相談しながら、コンセプトを象徴する一つ(メタファー)として、展示スペースの床一面に枯れ葉を敷き詰めました。落ち葉を踏んだときの足裏の感 覚や、ギャラリーに入ったときのにおいは、リアルで体験しないと得られないですよね。付け焼刃の演出には賛同しませんが、五感を使った作品鑑賞で心を動かす展覧会づくりというのは、意識したいポイントではあります。

Q4.キューレーションを通して、アーティストとお客さんにおもてなしをする際、気をつけていることは?

アーティストの話をとことん聞くこと。

お客さんへは感受性をほぐす工夫や姿勢。

 

キューレーションは、アーティストにとって、相互理解が足りないと暴力的にもなり得る行為だと感じています。なぜなら、それぞれ独自の意図をもって活動している個別のアーティストの方々に対して、こちらが掲げたテーマや空間での作品展示をオファーさせてもらうからです。テーマで扱う題材とアーティストさん方の不一致が生じないように、アーティスト一人ひとりや作品一つひとつを最大限に理解し、一緒に新たな文脈を思考していく過程を丁寧に実践したいです。お客さんに対しては、例えばアートに敷居を感じるような方には、緊張感を和らげ感受性を高める環境づくりや、作品について自由な意見交換を促す工夫ができないか考えています。私も日々さまざまな展覧会に伺うのですが、真っ白なホワイトキューブを前にすると、今でも背筋が伸びます。これからアートを鑑賞するんだという緊張感も個人的には好きですが、場合によってはそれをほぐす仕掛けを用意できたら、もっと裾野が広がるのではないでしょうか。もちろん、作品を魅せることが一番大事なので、工夫や演出により本来の意図や魅力が損なわれないよう心を配り、関わるすべてのものと真摯に対話しながら企画できる人でありたいです。

【編集後記】

私自身、アートには馴染みがなく、その中でも特に現代アートってどう見たらいいの?と思っていましたが、今回取材を進めていく内に作品を見て、あるがままに感じ取ればそれでいいのだと少し安堵のようなものを覚えました。また板橋さんはQ2の「相手の気持ちを最優先にすること。」やQ4の「アーティストさんの話をとことん聞くこと。」といった話にあるように、自分にとって良いことだけを追求するのではなく、相手のニーズにも日々応えられるように意識されているのだと感じました。相手が目の前にいるときはもちろんですが、事前の準備もおもてなしの大切な要素だということに改めて気づくことができました。

(未来定番研究所 榎)