2024.04.26

ときめく

ときめきを通じて、自分の居場所を見つける。透明愛好家のtomeiさん。

誰かに恋をしたり、アイドルに熱狂したり。いつの時代も人が求める「ときめき」。その対象は人だけでなく、なかには思いもよらないモノやコトに及ぶことも。最近は「推し活」や「偏愛」が注目されていたりと、人の「ときめき」のかたちはより多様的に、面白く変化を遂げています。そこで4月のF.I.N.では、「私たちはなぜ、ときめきを求めるのか」という問いを設け、目利きたちの話から「ときめき」の力やその答えを探っていきます。

 

今回話を伺うのは、透明愛好家のtomeiさん。その肩書きの通り、透明なものにときめき続け、その魅力をSNSなどで発信しています。そんなtomeiさんにとって、「ときめき」はどんな意味を持つのでしょうか。

 

(文:船橋麻貴/サムネイルデザイン:藤原琴美)

Profile

tomeiさん(とうめい)

透明愛好家。2019年より、雑貨やインテリア、料理など透明にゆかりのあるものをSNSで発信する。2020年7月には、雑誌『Casa BRUTUS』の「夏のひんやりスイーツ図鑑。」で手掛けた表紙が話題に。現在は、写真や映像の撮影、SNSでの配信、コラムやインタビュー執筆など幅広く活動中。著書に『世界一美しい透明スイーツレシピ』(KADOKAWA)がある。

https://tomeinohito.studio.site/

Q.透明なものに惹かれ始めたきっかけを教えてください。

物心ついた時から、透明なものにときめいていました。

これだという明確な線引きや象徴的なエピソードがあるかというと、実は曖昧な部分が大きいです。昔からふと目で追ってしまうものは何だろう。そう振り返ってみると、小さい頃に見た水族館のクラゲだったり、ガラス張りの建物だったり、光に揺らめくプールだったり……。どれも断片的でパズルのピースみたいなものですが、記憶の破片を手繰り寄せていくと、自分の近くにはいつも透明なものがあったような気がします。

tomeiさんは幼い頃から、海の波や水の波紋を眺める時間が好きだったそう

Q.透明なものの魅力は何ですか?

具現と抽象の間を取り持つ中和性。

「無」と「有」の両方を持っているのが、透明なものが持つ魅力かなと思っています。言葉にするのはなかなか難しいのですが、見えないものの表現として使われながらも、概念としてはあり続けている、といった感じですね。

 

ある時は周りの色を取り込んで馴染んだり、またある時は透かした先の空間を彩ることができたり。曖昧さを持ち合わせながらも、ものがあると生まれる具現と、ものがないことで生まれる抽象の間を取り持ってくれる。透明なものには、そうした中和性があるのかなと個人的には考えています。

Q.食品や雑貨やインテリアなど、tomeiさんが惹かれる透明なものに共通点はありますか?

作り手の思いや物語があるものに惹かれます。

やっぱり物語があることが理由に挙げられるかなと思います。ものが生まれるまでの過程には、作り手の思考や絶え間ない時間が注ぎ込まれているもの。そうした目には見えない思いを経て生まれたものたちが集まっている自身の部屋を見回してみると、まるで言葉のない本棚のようだなと感じます。

白を基調としたtomeiさんの部屋。透明なアイテムが丁寧に並べられている

Q.透明コレクションの中で、思い入れのある作品は?

時間が止まったような感覚にさせてくれる『minaniwa』です。

自宅にある透明コレクションは100点ほど。その中で思い入れのある作品を1つ挙げるとしたら、京都に出かけた時に出会った『minaniwa(みなにわ)』ですね。水の波紋を切り取ったガラスの器は、まるで時間が止まったような感覚にさせてくれるんです。

最新技術の「3Dモデリング」と昔から続くガラス製法「吹きガラス」、2つの技術の融合によって水のような立体的な動きを表現する

普段、部屋に置くものは必要最低限を心掛けているのですが、それでもずっと残り続けているのは、人との繋がりでたどり着いたアイテムがほとんど。どれも思い出深く、手に取るとその時の記憶が蘇って、あたたかな気持ちになります。そんなコレクションの中でも、ものに対しての向き合い方や新たな気づきを与えてくれたのが『minaniwa』。自分の価値観を変えてくれたと思っています。

Q.「ときめき」は一瞬のもの? それとも持続するものですか?

一瞬から永遠に続いていくものだと思います。

透明なものについ目が留まってしまったり、見ている時の時間が止まったかのような感覚になったり。そうした一瞬の「ときめき」は、子供の頃から大人になった今でも残り続けています。透明なものは日常に絶え間なくあり続けているから、私自身からは切っても切り離せません。だから「ときめき」は、一瞬から永遠へとひと続きに繋がっているように感じています。

Q.「ときめき」は、ご自身にとってどんな存在ですか?

生きていくのに欠かせない「水」みたいなもの。

水は暮らしの中に当たり前のように溶け込んでいて、私たちが生きていくために欠かせない存在です。人が常に水とあり続けるように、私が透明とともにあり続けることは、それだけで自分の原動力になっているのかもしれません。

Q.透明なものを発信することで、新たに得た気づきはありますか?

「ときめき」が連鎖していくこと。

透明という視点について発信できたのは、今のSNSがあるからこそです。インターネットの世界は自由な反面、匿名性があって影があるもの。だけど私にとっては、同じ「ときめき」を感じる人たちを繋いでくれる、なくてはならないツールです。

 

国や人種、言語などの壁を越えて共感し、わかち合える今だからこそ、こうした「ときめき」の連鎖が生まれているのかなと日々感じています。

Q.なぜ、人は「ときめき」を求めるのでしょうか?

「ときめき」の先にある自分の居場所を見つけるため。

「ときめき」は一種の砦のような存在なのかなと思っています。YESかNOの選択肢しかないものとは違い、「ときめき」の選択肢はとても広い。その自由さがあるからこそ、情報が何でも手に入る今の世の中で、「らしさ」を築く大切な役割になっているような……。そう考えると、人が求めているのは「ときめき」の先にある心の拠り所のように感じます。「ときめき」を通じて、自分の居場所を見出そうとしているのかもしれませんね。

Q.ときめく人が増えたら、5年先の未来はどんな世界が広がっていると思いますか?

自分らしく、生きやすい世の中に。

私自身、「ときめき」が自分をつくってくれたり、居場所を築いてくれたりしたこともありました。他者と比べることなく、自分が喜びを感じる糸口になったというか。だから「ときめき」という感情が、これからも人々の心に広がり続けていってほしいですね。みなさんの暮らしに、透明なものが寄り添っていたらいいなと思っています。

【編集後記】

私も普段、tomeiさんが発信する透明なものから「ときめき」をいただいているフォロワーの1人です。時として殺伐としたムードが漂う現代で、タイムラインに流れてくるtomeiさんがつくる澄んだ世界観に、何度も心を救われてきました。

「人が求めているのは『ときめき』の先にある心の拠り所」とtomeiさんがおっしゃるように、「ときめき」を通じて、喜びをわかち合ったり、誰かの心に寄り添ったり。「ときめき」への共感やその連鎖が、私たちを温かく優しい未来へと導いてくれるような気がします。

(未来定番研究所 岡田)