2021.06.16

珍奇植物マニアが考える、「おうち植物」の新定番。

テレワークの広まりとともにおうち時間が増え、観葉植物やお花など、暮らしの中に自然を取り入れようとする動きが高まっています。植物との暮らしは5年先の未来ではさらに一般化しているのでしょうか。もしかすると、今の“おうち植物”の定番・多肉植物や観葉植物とは別の、次世代の“おうち植物”が出現しているかもしれません。

 

そんな“おうち植物”の未来を探るため、珍しくて不思議な植物の世界を紹介するブックレーベル「STRAIGHT(ストレイト)」の代表を務め、雑誌『BRUTUS』の「珍奇植物」特集も手がけた編集者の川端正吾さんにお話を伺います。

めくるめく不思議な珍奇植物の世界。

珍妙な出立ちで植物好きを唸らせる「珍奇植物(ビザールプランツ)」。川端さんがその魅力に取りつかれたのは、なんと今から9年前、2012年ごろのこと。

 

「もともとサボテンや多肉植物といった植物が好きだったですが、ある時、南アフリカに生息するケープバルブと呼ばれる球根植物に出会ったんです。なかでもエリオスペルマムという植物が衝撃的で。葉っぱの上からさらに、触手のような付属器が生えているんですが、その姿があまりにも面白い。『まだこんなに知らない植物があるなんて……』と、好奇心が刺激されてどんどん引き込まれていきました」。

 

こうして知られざる珍奇植物の世界に心酔していった川端さんは、珍奇植物に特化したブックレーベル「STRAIGHT(ストレイト)」まで立ち上げることに。珍奇植物は、雑誌でも何度か特集が組まれ、今でこそ認知度が広がっていますが、当時は入手方法が限られていて極めてニッチな世界でした。

 

「マニアックな植物の栽培を行う〈SPECIES NURSERY(スピーシーズナーサリー)〉の園芸家・藤川史雄さんに、いろいろ教えていただきました。この界隈の第一人者とされる方で、『UNDERGROUNDS -CAPE BULB BOOK- 』という、彼が栽培したケープバルブを紹介する図鑑を一緒に作ったんです。その時はSPECIES NURSERYの農園の近くに引っ越して、2年かけて制作しました。というのも、ケープバルブは休眠期には地上部がなくなってしまうんです。夏型と冬型があり、休眠期が逆さなので、1年通してこまめに撮影しなくてはいけなくて。1シーズンでは撮りきれず結局2年かかりました」。

Gethyllis ciliaris。葉がツイストする冬型のケープバルブ。非常にユニークな姿になるが室内栽培には向いていない。(画像提供:STRAIGHT)

 

意外と難しい? インテリアとしての植物栽培。

コロナ禍によっておうち時間が見直されている今、植物のある暮らしが着目されています。こうした状況は、かねてより植物を愛でてきた川端さんの目にどう映っているのでしょうか?

 

「植物に興味を持つ人が増えるのは、ものすごくいいことだと思います。注目されて愛好家の層がさらに厚くなれば、今まで見たこともなかったような珍しい植物が見られる機会も増えると思いますし(笑)。実際、いろいろ珍しいものも出回るようになっていて、楽しい感じになってきている気がします」。

 

植物がインドアプランツとして生活に馴染む一方で、育て方の注意が必要不可欠だと川端さんは話します。

 

「実は居住空間って、光の量や風通し、湿度などの点で、植物の栽培にはあまり向かない環境だったりするんです。室内に適した植物をちゃんとチョイスしたり、環境を整えたりしないと、家の中で育てるのは意外と難しい。昔からインドアプランツとして人気の高い観葉植物は、室内で育てやすいかと思います。けど、僕が栽培している植物は、基本的に野外で栽培するものが多いです。さきほどのケープバルブも室内では難しい。だから、これまであまり室内で植物を育てたことはなくて。気温の低い時期に室内に避難させることくらいしか」。

栽培が難しい珍奇植物の世界に、大革命。

日本の気候に適しているとはいえない植物を栽培する川端さん。その苦労は耐えないようです。

 

「一番いいのは、その土地で育ったかのような、植物本来の形になってもらうこと。だけど霜が降りるような気候を持つ日本では、やはり冬の栽培が難しいです。そのため、寒い時期だけ部屋に取り込んで窓際で日光を浴びさせるなど、みなさん育てるのに苦労していると思います。好きになったら、どんどん数が増えていくもので、大量の植物を出し入れするのは大変な作業ですね(苦笑)」。

 

川端さんが語るように、植物を室内で育て続けることはなかなか至難の業。ところが、ここ1〜2年の間に起きた技術革命・進化によって、インドアプランツ業界に変化が起き始めているそう。

 

「最近は、LEDの照明が急速に進化してきて、植物の栽培にちょっとした革命が起きています。照度も高くて、植物がよく育つ波長を含んだ、栽培に向くライトがたくさん登場していて。室内栽培の一番のネックは日照でしたから、このLEDライトの進化によって、窓際という制約から開放されました。

 

また、ガラスケースの中で熱帯雨林などの情景を再現して育てる『パルダリウム』という新しい植物趣味の人気も高まっています。ケースの中では雨林のような高湿度も保てますし。こうした流れは、もともとアクアリウムの世界で水槽で水草などを栽培していた人たちが、だんだんと陸上の植物も栽培するようになって、広がっていった背景があって。彼らは人工の光源で植物を育てるということを昔からやっていましたからね。自分は〈BORDER BREAK〉という、アクアリウムから植物のほうにやってきた人たちが中心となってやっているイベントで、こうした栽培方法のことを知りました。会場に入るとブースには、ガラスケースがズラりと並んでいて、その光景は衝撃でしたね。植物のイベントなのに、『なにこれ!?』って。そこで世界中の熱帯雨林を巡っている、イベント主催者の長谷圭祐さんと知り合って。彼からガラスケースでの栽培方法や雨林植物の魅力を教えてもらい、5年前に『MIST LOVERS -Rainforest Plants-』という雨林植物の図鑑を書いてもらい、今回、その姉妹本という感じでパルダリウム製作のためのガイドブックである『パルダリウム ハンドブック 大自然の景色を手本に作る、ガラスケースのジャングル』の執筆もお願いしました」

雨林植物を扱う店が多数出店するイベントBORDER BREAK。各ブースにはガラスケースやプラケースに入った植物がズラリと並ぶ。

パルダリウムの専用機材の登場によって、室内栽培に新たな兆しが。

「まだ『MIST LOVERS』を作った頃は、パルダリウムの専門機材というのはあまりなくて、爬虫類用の飼育ケースだったりを流用して、パルダリウムを作ってたんですよね。でも、最近、専用機材がどんどん増えてきていて。とくにアクアリウムの世界ではカリスマ的な支持を得ているADA(アクアデザインアマノ)がパルダリウムに参入し、専用の機材や用品がひととおり揃ったことで、一般の人もはじめやすくなったと思います。デザイン的にも洗練されていますし」

小型のボトルタイプのパルダリウム容器は、初心者でも手軽に始めやすい。(画像提供:アクアデザインアマノ)

ボトルタイプから水槽までラインナップするパルダリウム。このアイテムの出現によって、 “珍奇植物のある暮らし”も、より身近になっていきそうな予感です。

大型のハイエンド機器を使えば、このようなダイナミックな情景をリビングで楽しむことができる。(画像提供:アクアデザインアマノ)

「ハイエンドな機材だと、LEDライトに、ミスト装置やファンも搭載したケースが組み合わさり、常に高湿度だったり、強光ながら冷涼だったり、といった雨林や高地のような環境なども再現できるようなものもあります。こうした環境が作れるのは室内栽培ならでは。これにより、これまで栽培が難しいとされてきた植物も、工夫次第で栽培できるものが増えそうです。そういう難しいものに限って、ものすごくカッコよかったりするんですけど、そんな憧れだった植物を、自分の手元で立派に成長させられたりしたら最高ですね」。

Begonia gracilicyma。高湿度が必要な原種ベゴニアも、ケースがあれば美しく育てることができる。(画像提供:STRAIGHT)

Aglaonema pictum。印象的な葉模樣は産地によって異なり、コレクターも多い。(画像提供:STRAIGHT)

5年後は、パルダリムがおうち植物の新定番に!?

これまで野外で育てていた珍奇植物が、室内インテリアとして日常に溶け込み始めたという川端さん。愛すべき存在が身近にあると、生活もより豊かに変わるそう。

 

「パルダリウムをリビングに置いているので、外に行かずとも何度も見ることができるんです。あ、新芽が出たな、とか、花が咲きそうだなとか、ささやかな変化にも気付きやすい。そうした時間を持てるのは、やっぱりすごく楽しいし、幸せですね」。

川端さんがティランジアなどを栽培しているパルダリウム。

今後、インドアプランツとしても盛り上がっていきそうな珍奇植物ですが、川端さんが考える5年後の“おうち植物”の新定番とは?

 

「パルダリウムは室内栽培にはなくてはならないものになっているのではと思います。また、パルダリウムが壁に組み込まれている家が建てられるなど、もっとインテリアと密接にもなっていくのではないでしょうか。実際にアクアリウムの世界では、水槽をリビングの壁に埋め込むカルチャーがあったりするので。個人的には、5年先はもっと技術が発達していると思うので、植物の自生地を打ち込むと、現地の気温や湿度などが自動で設定されて、環境を再現してくれるシステムなんかができていたらいいなと思いますね」。

 

パルダリウムの登場によって、珍奇植物の栽培が身近なものになりつつあります。5年先の未来では、より珍奇植物がインテリアとして馴染み、私たちの暮らしの定番アイテムになっているかもしれません。

Profile

川端正吾

編集者/「STRAIGHT」代表。マガジンハウスの雑誌「relax」などを経て、フリーランス編集者に。雑誌『BRUTUS』の「珍奇植物」特集を手がけ、マニアックだった珍奇植物をメジャーシーンに進出させた。今年5月、STRAIGHTで編集を務めた『パルダリウム ハンドブック 大自然の景色を手本に作る、ガラスケースのジャングル』著/長谷圭祐(双葉社)を発売。

http://straight-books.com

【編集後記】

これまでは観葉植物を選ぶ際には、その環境に合わせて育てやすく、扱いやすいかを基準に選ぶのが普通でした。しかしながら、近年の技術の進歩により、育成の制約を越えて、植物自体のフォルムや特性で選べるようになってきています。選択の幅が広がることで、より自分の好きな植物と生活を共にする事できるようになり、擬似的ではあるものの植物と人間との距離は、更に近づいてきている兆しがパルダリウムにありそうです。

植物をより愛でるようになり、植物から癒される、人と自然の新しい関係性を感じます。

(未来定番研究所 窪)