2024.04.19

ときめく

ときめきは、心のコンパス。起業家・山本愛優美さん。

誰かに恋をしたり、アイドルに熱狂したり。いつの時代も人が求める「ときめき」。その対象は人だけでなく、なかには思いもよらないモノやコトに及ぶことも。最近は「推し活」や「偏愛」が注目されていたりと、人の「ときめき」のかたちはより多様的に、面白く変化を遂げています。そこで4月のF.I.N.では、「私たちはなぜ、ときめきを求めるのか」という問いを設け、目利きたちの話から「ときめき」の力やその答えを探っていきます。

 

今回話を伺うのは、「ときめき」の研究や事業を展開する山本愛優美さん。高校生の時から「ときめき」にときめき続け、現在は「ときめき」を可視化するイヤリング型のデバイス『e-lamp.』を開発しています。そんな山本さんが「ときめき」に惹かれ続ける理由とは?

 

(文:船橋麻貴/写真:武石早代/サムネイルデザイン:藤原琴美)

Profile

山本愛優美さん(やまもと・あゆみ)

〈e-lamp. Co., Ltd〉CEO。

2001年北海道生まれ。中学3年から4つの学生団体の立ち上げ・代表を経て、高校2年生の時に開業。エンターテインメント・教育領域で複数の事業プロデュースを行い、2020年4月より数理心理学・感性工学的に「ときめき」の研究を開始する。現在は心拍に合わせて光るデバイス『e-lamp.』を開発する。

X:@yamampo

Q.なぜ、「ときめき」を研究しようと思ったのですか?

「ときめき」が自分の原動力だからです。

そもそものきっかけは、北海道帯広市で過ごした高校時代まで遡ります。私は14歳の頃から起業家を志していて、高校生になると教育関連の事業を模索したり、高校生向けのイベントを企画したりしていたんです。当時は高校生起業家と呼んでいただくこともありました。そんな中、進路の決断が迫られる高校3年生の時、起業家としての今後を考えてみると、「これからも自分がときめくことに挑戦したい」という思いが強いことに気づいたんです。

 

その一方で、「こんなに私を突き動かす『ときめき』って何?」と自問しても、上手に説明ができませんでした。服を選ぶこと、新しい髪型にすること、幼い頃から日常にある1つ1つの選択にときめいていたのに、この感情を言葉にするのが難しかった。このよくわからない「ときめき」とは何なのだろう。そう興味が湧き、大学で探究しようと思ったことが、私の「ときめき」研究の始まりです。

Q. 「ときめき」研究の面白さや難しさは、どんなところですか?

可能性が未知数なところです。

私が知る限り、心理学的アプローチでひも解く「ときめき」研究が始まったのは2009年。意外と最近始まった研究領域なのですが、その中でも私たちが特に扱っていきたいのは、人がときめいた時、心拍数や脳の血流、表情はどう変化するのかという生体反応との関係性です。今はそういった研究を進めていますが、昨今の先行研究の中で興味深かったのは化粧品における「ときめき」研究です。アイカラーと「ときめき」の関係性を調査してみた結果、人は色に惹かれるというより、自分がこれまでつけたことのない色にときめくということがわかったんです。つまり、人は今まで実現されていないことに対して期待感を抱き、胸が高鳴るということ。「ときめき」の対象が人やものでもなく、自分に向いている。なんて面白いのだろう、そう胸がワクワクしました。

 

反対に難しいと感じているのは、「ときめき」を完全に推定できないこと。人がときめく時は心の動きはもちろん、個人の背景や状況にも依存するので、「こうしたら人はときめく」と推定するのは難しい。それが研究の面白さでもありますが、この先さらに研究が進んでいけば「ときめき」の芯を捉えることができると思っています。

Q.「ときめき」はみんなに備わっているものですか?

実は日本特有のものです。

「ときめき」という概念は、日本でのみ扱われているものなんです。片づけコンサルタントのこんまりさん(近藤麻理恵さん)が、「ときめき」を「spark joy(スパーク・ジョイ)」と訳して国際的流行語になりましたが、そもそも英語の概念にないんですよね。

 

ところが日本では、平安時代の『源氏物語』にも記載がある通り、1,000年以上前から存在していたものといわれています。現代でも歌詞や広告の中でよく使われていて、自分たちの行動の源にもなるくらい身近な存在です。「ときめき」は昔から当たり前に、無意識的な感情であることは間違いないのですが、それは私たちが日本の文化の中で生まれ育っているからかもしれません。そもそも人の感情は、どんな環境で暮らし、どんな文化に触れてきたかという文化的背景に影響されやすいもの。「ときめき」という概念がない欧米人と違って、日本人は「ときめき」にまつわる文化に常に触れているから、「ときめき」という感情を抱きやすいというのはあると思います。

Q.どうしたら、ときめくことができますか?

新しいことをして、「ときめき」をチャージ。

心の余裕がない時は、「ときめき」が不足しがちです。私の場合だと、大好きな写真に気持ちが向かなくなっている時がシグナルですね。そんな時は、意識的に何か新しいことをするようにしています。気になっていたカフェに行ったり、降りたことのない駅で下車してみたり。先日、はじめてネイルサロンに行ってみたら、すごくワクワクしました。ちょっとやってみたかったけどできてなかったことに挑戦してみる。そうすると、自分の中で「ときめく」感覚が湧きあがってくるような気がします。

Q.「ときめき」の感情は瞬間的なもの? それとも持続するものですか?

短期と長期、どちらの「ときめき」もあると思います。

その瞬間、ドキドキワクワクする「ときめき」はもちろん、幸せな気持ちが安定的に持続する「ときめき」もあると考えています。例えば、素敵な洋服に出会って瞬間的にときめき、その後もお気に入りの服として着るたびにときめきが持続する、ということだってあるじゃないですか。だから、「ときめき」は短期と長期のどちらもあっていいと私は思っています。

Q.なぜ、「ときめき」を可視化するのですか?

新しい世界が広がるからです。

「ときめき」は自分を突き動かすようなポジティブな力を持つもの。感情なのでもちろん目に見えないものですが、そんな感情こそ可視化してシェアし合えたら楽しそうだなと思って、心拍に合わせて光るデバイス『e-lamp.』を開発し始めました。

心拍に合わせて「ときめき」を可視化する『e-lamp.』。興奮して脈拍が上がっている時は赤、リラックスして脈拍が安定している時は青や緑に光る

『e-lamp.』を作ってみてわかったのは、今まで自分でも気づけなかった感情に気づけるということ。というのもユーザーさんの中に、とてもうれしい使い方をされている方がいらしたんです。結婚式場を決める際に使ってくださったそうなのですが、ある式場を見ている時、「今、赤く光ってるよ」とパートナーの方が教えてくれたと。相手とコミュニケーションを取りながら自分でも気づかない感情に気づくと、新しい世界が開くきっかけになるかもしれません。

Q.私たちはなぜ、「ときめき」を求めるのでしょうか?

自分の軸となるものを探しているのかもしれません。

選択肢が多様になった今、意思決定するのが難しくなりました。自分が何を選び、どう生きていくのか。そう迷った時、自分の内側から湧きあがるポジティブな気持ちを大切にしたいと思うもの。誰からも抑圧されず、自分の感情で意思決定したいから、その指針となる「ときめき」を探しているのかなと思います。

Q.「ときめき」を言葉にすると?

心のコンパスです。

人生を「ときめき」とともに歩んでいる私にとっては、「ゆらゆら揺れながらも、進む方向を指し示してくれるもの」です。自分がどこに向かえばいいのか迷った時、「ときめき」を指針にしておくと、行くべきところに導いてくれると思っています。人生に悩み迷った時、自分が何にときめくのか。最終的な決断は原点に立ち返って、「ときめき」を指針にしています。

Q.「ときめき」が世の中に広がっていくと、5年先はどんな未来が待っていると思いますか?

お互いをリスペクトし、受容できる社会になっていてほしい。

私が高校生の時から目指しているのが、「ときめきがあふれる世界の創造」です。自分の「ときめき」に気づくのは意外と難しいのですが、自分が心を動かされたものを選んでいく人生のほうが幸せなんじゃないかって思うんです。だから5年先は、いろいろなことにときめきながら「自分の好き」をお互いにリスペクトし、それを尊重できる寛容な社会になっていてほしいですね。そんな未来を実現するために「ときめき」研究を続けて、新しいプロダクトやアイデアを作り、もっと「ときめき」の魅力を発信していきたいと思っています。

【編集後記】

「自分の『ときめき』に気づくのは意外と難しい」という山本さんのお話に、たしかにこれまで私は周りの目が気になったり、自意識が妨げになったりして、知らず知らずのうちに自分の「ときめき」をないことにしてしまったこともあるかもしれない……と気づくことができました。それらのしがらみから解放され、自身の「ときめき」を素直に受け止められるようになると、きっと他者の「ときめき」も尊ぶことができます。そうすることで自身の「ときめき」を表現しやすくなる素晴らしい社会を、山本さんのお力をお借りしてイメージすることができました。

(未来定番研究所 中島)

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