2020.11.04

人工知能技術で、みんながクリエイターになれる!? 竹之内大輔さん、白武ときおさんによる“テクノロジーと笑い”対談。

現代人にとって、身近なものになりつつある人工知能。その技術革新は、エンターテイメント分野にも及び始めています。その代表例が「株式会社わたしは」が開発を進める『大喜利AI』。人工知能が大喜利のお題を出したり、答えたりする機能です。同社の代表を務める竹之内大輔さんに、放送作家の白武ときおさんと一緒に会いに行きました。二人のお話から、未来のお笑いの形を探ります。

(撮影:小野 真太郎)

Profile

竹之内大輔

株式会社わたしは代表。大手コンサルティングファームに勤務後、東京工業大学大学院博士課程で複雑系科学・内部観測論を研究。2016年に株式会社わたしはを創業し、大喜利AIを開発。お笑いにも造詣が深く、ラジオを聴くのが趣味。

Profile

白武ときお

放送作家。テレビのバラエティ番組のほか、お笑い芸人霜降り明星のYouTubeチャンネル『しもふりチューブ』など、多数の芸人のYouTubeチャンネルを手がける。著書に『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社)がある。

大喜利AIってなんだ?

白武さん

「大喜利AI」について千原ジュニアさんが、テレビ番組で大喜利AIの話をしているのを聞いたことがあります。実際に使ったことはまだないので、詳しく仕組みを教えてください。

竹之内さん

Twitterの「大喜利β」のアカウント(@ogiribeta)や、LINEの大喜利人工知能公式アカウントで遊んでいただけます。このAIは、大喜利のお題を出したり、出されたお題に回答したり、「ガヤる」ことができ、他にも写真で一言が楽しむことが可能です。千原ジュニアさんとはNHKの番組『AI育成お笑いバトル! 師匠×弟子』でご一緒させていただきました。ジュニアさんの弟子AIをつくろうというプロジェクトです。千原エンジニアというジュニアさんの弟子AIをつくって、ジュニアさんや仲間の芸人さん、SNS上のファンの方たちがAIを育てる企画でした。

LINEの大喜利人工知能公式アカウントのトーク画面。こちらが出したお題に対して、AIから瞬時に回答が届き、大喜利を無限に楽しむことができる。

白武さん

どのようなきっかけで大喜利AIが生まれたのですか?

竹之内さん

私は大学院で言語哲学を、もう一人の共同創業者は言語学を研究していました。二人の科学者としてのゴールは、人間と同じように会話ができる人工知能をつくること。会社を作ろうと決めたときは、コミュニケーションができる対話型AIで、自分たち独自のものを作れないかと考えていました。現在、対話型AIで有名なものは、AppleのSiriや、amazonのAlexaなどがあります。それらは、質問を投げかけられたとき、どれだけ最適な答えを返すかということに特化しています。しかし、人間と人間のコミュニケーションでは、質問に最適な答えが返ってくる方が珍しいと思っています。

株式会社わたしは代表の竹之内さん。元々大のお笑い好きで、オフィスの本棚にはお笑い関連の本が山のように置かれていた。

白武さん

確かに、会話とは最適な答えを返すのが正解ではないですね。お笑いも、検索して答えが出るものではないです。

竹之内さん

はい。人間のコミュニケーションのなかで、ズレを許容しながらもやり取りが成立するものとはなにかを考えたとき、ユーモアを含んでいるものだと思ったんです。ですから笑いのコミュニケーションで、一番気軽にできるものからはじめようと大喜利を選びました。

白武さん

AIが書いた小説が、賞の選考を通ったというニュースもありましたね。もしかして、人間が考えなくてもエンターテインメントが完成する時代が来るのかなと思いました。

確かに人間が働かなくても、食べ物も、エンターテインメントもあるというような、単純に享受するだけになる未来が、もしかしたら近い将来訪れるかもしれないとは思いますね。より面白いものが出来るのであれば、全然そういう未来でもいいなと思いますね。

竹之内さん

AIが放送作家さんの脅威になることは、きっとないです。私たちが目指しているのは、普段面白いことを言うタイプの人ではなくても“ウケる”という体験ができること。私たちが以前出演したテレビ番組の大喜利で、AIの答えを出したら、すごくウケたことがありました。自分の頭で考えたネタではなくて、ただ出力されたものを読み上げただけでドカーンとウケる。つまり大喜利AIを使えば、その体験の感動を多くの人が味わえるようになるんです。これまで笑いのセンスのある方たちだけがしていた芸を、ある意味”民主化”する仕組みです。

白武さん

うんちくの本を読むという感じですかね? 面白い答えを検索できるようになるということですか?

竹之内さん

候補として、いくつかの答えを提示できるということです。面白い人たちの発話を学習させたAIが独自に生成した候補を提示している。芸人さんたちに偏在していた力を移すような作業ですね。

白武さん

だからこそ、SiriやAlexaとは一線を画しているんですね。

竹之内さん

最適解から、ずらしていきたいんです。

大喜利AIの進化によって、エンタメがアップデートする

白武さん

より人間らしいコミュニケーションができるAIが進化したら、お笑いだけでなく友達や家族、理想の恋人をつくることも可能ですか?映画『ブレードランナー2049』で、恋人のようなAI搭載のホームオートメーションシステムが出てきて、最高だなと思っていたんですが、理想の女性の人格を搭載して、AIをつくることはできるんですか?

放送作家の白武さん。お笑い第7世代の仕掛け人として、今注目を集める人気作家。

竹之内さん

理屈上はできます。私たちが大喜利AIの次で作っているサービスは、特定のキャラクターの人格を持ったAIをつくるものです。著名人の方の言動を取り込んで、その人が言いそうなことを言うAIができます。しかし、私たちは著名人そのものの人格のAIをつくることをゴールとしてはいなくて、AI同士を組み合わせることで新しい人格をつくることを目指しています。例えば、みちょぱさんのAIと、千原ジュニアさんのAIがあって、それを足して2で割ると渋谷のギャルにウケるAIができるという理屈です。

白武さん

へえー。いろんなことに応用できそうですね。

竹之内さん

私は、自分たちのことを「二次創作世代」だと言っています。ニコニコ動画でボーカロイドをつくる時は、音楽をつくるボカロPと、映像をつくる方と分業されていますよね。自分が得意なことだけ自分がやって、あとはAIで全部できるようにしたい。自動で漫画のキャラクターの顔を合成してくれるAIと、キャラクターの声で喋ってくれる音声のAIを足したら、絵が描けない人でも二次創作ができます。二次創作というカルチャーがデジタライズされて、かつ誰でもできるようになる。AIというものは、コンテンツの部品をつくるための装置です。それを組み合わせてユーザーが新しいコンテンツを自由につくれるようになることを目指しています。

白武さん

例えば、霜降り明星の二人のAIを作って、いろんなシチュエーションでの会話ができる機能があったら、その設定の選択だけ人間がして、あとは自動で喋らせてこれができますよね。それが可能になったらアニメやYouTubeが毎日更新できるじゃないですか。

竹之内さん

完成するまでにいくつかのハードルはありますが、多くの人にとってコンテンツをつくることが身近になるはずです。

「お笑い」文化において、変わるものと、変わらないもの。

竹之内さん

大喜利AIで、笑わせる体験、ウケる体験をする人が増えてくれるといいですね。ただ私たちの笑いの好みが少し尖っているので、今後の企画の際には白武さんのようなバランス感覚が必要になってくる気がします。

白武さん

お笑いのボケ、ツッコミの中でのパターンや、笑わせる法則は存在します。今は特にお笑いブームに突入して、新しいパターンがどんどん出てきて、その発見がおもしろいです。そして、近年のお笑いは笑う対象が変わっています。差別や容姿をいじるもの、パワハラ、セクハラなど今まで見過ごされていたことが、きちんとだめなものとしてアップデートしようという段階になっている。よりセンスを研ぎ澄ませていかないと、表現する人たちは残念なことになりかねません。そもそもの考え方を、真から理解していかないといけないと思っています。

終始、お笑い談義に花が咲いた今回の対談取材。お二人のコラボによる、面白企画が実現される日も近いかも。

竹之内さん

私たちも多くの人にウケるような、柔らかい笑いのアウトプットについて苦労している部分があります。白武さんの意見を聞きたいです。

白武さん

ぜひぜひ、近いうちにご飯に行きましょう。

編集後記

1時間あまりの取材時間でしたが、次世代を担う最先端のクリエイター同士の熱量がぶつかり合う瞬間に立ち会えたのは、大変貴重な体験でした。

テクノロジーの可能性が、バランスを重視するお笑いの未来にまで拡がっていることへの驚きと、さらなる期待を感じました。

今回のお二人の出会いが、テクノロジーとお笑いを掛け合わせた新しい企画に繋がることを期待しています。
(未来定番研究所 富田)

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