地元の見る目を変えた47人。
2022.03.04
未来命名会議<全9回>
連載『未来命名会議』は、まだ言葉になっていないけれど、未来の定番になるかもしれない事象に名前を授けていく企画です。各分野に眠る事象を、その道の識者とF.I.N.編集部が対話しながら「命名」を行います。
第7回は「無人ショッピング」について。リアルな人間を介さないで成立するサービスは、現在どのような進化を遂げているのか。その新たなサービス形態によって、生活者の間にどのような行動が生まれていくのか。今回は、「無人ショッピング」のひとつのケースとして、AI搭載型無人販売機「SMARITE(スマリテ)」に着目。開発・運営するゴールデンバーグ社長の金澤秀憲さんにお話を伺いました。
(イラスト:megumi yamazaki)
サッと買えるだけじゃない。社会的な課題を解決するのがAI無人販売機。
スマリテはSmart Retail Technologyという無人化小売技術の総称であり、食品や生活用品を販売するAI無人販売機です。冷蔵庫と同じくらいのサイズ感なのでちょっとしたスペースがあればどこでも設置できます。無人販売機から取り出された商品は、AIカメラとRFID(無線自動識別機能)によって自動で識別され、スマホアプリに登録した決済手段にて自動支払いが可能です。
こうお話すると、単に、自販機をAIによってバージョンアップさせたもの、と思われる方もいるかもしれません。ですので、スマリテの意義についてちょっとだけお話させてください。弊社は理念として、「無人小売による“社会的課題解決”」を掲げています。ですので、スマリテも単に小売の進化版というものではなく、それによってSDGsの項目で挙げられているような社会的課題を解決するものとして世の中に送り出したいと考えています。(参照:ゴールデンバーグ社 HP)
例えば、通常の流通には乗せられない規格外野菜をスマリテで販売する。これは実証実験で販売し、その度に良い売り上げを記録しています。別の狙いでいうと、高齢の個人店営業者に対する、経営の支援・雇用の創出にもスマリテを活用したいと思っています。1日中店頭に立つのが難しい店主は、スマリテに商品を補充するというオペレーションをすればよくなるわけです。また他の目的としては、過疎地域などにおける買い物弱者をなくすことや、観光地においては、地産の食べ物を販売する場所として使ってもらってもいいでしょう。膨大な資金を投じて「アンテナショップ」を作る必要がなくなります。このように、場所の数だけ課題があるとも言えるので、スマリテはそれらを解決する、新しい物体可視化技術を搭載した無人販売のためのインフラのように捉えていただけるとよいかと思います。
現在スマリテは、介護施設やマンション、駅ナカなど、さまざまな場所で実証実験を重ねて、今年4月には本格的にサービスを開始する予定です。
これまで実施してきた中での手応えや実感などをお話します。まずは2021年8月から9月まで実施した、大型マンションやJR駅ナカの事例。ここではクイーンズ伊勢丹様にご導入頂きまして厳選した商品を販売しました。販売データからは、出勤時の早朝や会社から帰宅する20時以降など近隣店舗の営業時間外によく売れることが分かっています。全商品の約2〜3割がこの時間帯に売れていました。もともとの狙いとして、近隣のお店が開店しておらず食べ物や飲み物の購入に悩む人、かつコンビニに売ってあるものよりもちょっといいものを手にしたいと思う人、というターゲットを見据えていたので、この実験からはスマリテの需要を改めて確かめることができました。
ちなみに、飲料ですと頻度高く売れていた商品のひとつは、「ヤクルト1000 7本パック」です。まず、この商品はサイズ的に自動販売機では売ることができない飲み物です。それと、「7本パック」という束売りはコンビニでも売っていません。家族2、3人だと3、4日で7本パックが消費されるので、そのようなご家族をお持ちの方が繰り返し購入されたのではないかと思われます。ここでも、通常の自販機やコンビニとはまた違う、潜在的な消費行動を確認できたわけです。
駅ナカは飲食販売の事例ですが、生活用品の購入に関してもスマリテにはご相談が多いです。例えば、消耗品などの販売。こちらは、生活者向けではなく、病院や介護施設などの法人がメインの購買者です。例えば病院や介護施設で紙おむつなどの在庫が切れてしまって店舗も閉まっていたときに自販機で購入できたら助かりますよね。このケースにおいても、自販機では扱えないサイズの商品の購買意欲と、また、「切れてしまったら困るものが24時間いつでも買える」という安心感への希求を確かめられました。それに近いものでいうと、お米などもスマリテで扱えるとよいかもしれませんね。
(金澤秀憲さん)
ワンブロックごとに、ワンボックスの未来がくる?
F.I.N.編集部は、金澤さんからAI無人販売機による消費行動について非常に興味深くお話を伺いました。
特に共感できたのは、コンビニで売っていないような美味しいものが、どんな時間帯でも手軽に買いやすくなる点。仕事でヘトヘトになって夜遅くに帰ってきた時に、開いているのはコンビニしかない……そんな時に、気分が上がる、ちょっと良いものが食べられたらきっと嬉しい。また、帰り道の買い物の幅が広がるという点も興味深いところ。「帰りに牛乳買ってきて」という家族との定番のやりとりがありますが、「帰りにお米買ってきて」という、これまでにない多様な種類の買い物も生まれるかもしれません。「未来には、ひと区画ごとにひとつのスマリテがある、ワンブロック・ワンボックスのような社会になっていたらいいですね」と金澤さんは語ります。
以上のお話を踏まえ、F.I.N.編集部は、AI無人販売機による新しい消費行動に名前を与えることにしました。
扉を開けて・取り出し・そのまま立ち去るだけの、サクッとした買い物の仕方を「サク買い」と名付けてはどうか。取り出して「さよなら(バイバイ)」でOK ……という行動を「買いバイ」と命名してみてはどうか。 金澤さんと意見を交わし合う中で出てきた言葉が、「道買い」です。今までは駅からの帰り道にスーパーかコンビニで「店買い」していましたが、これからスマリテのようなAI無人販売機が広まると、道の上で買い物をするということが定番になるのではないか。そんな思いから命名した造語です。 金澤さんからも「無人化によって新しい買い物をできるイメージにはまります」というお言葉をいただきました。
意味:商店ではなく、道で買い物すること
用例:「お米がないから、道買いしてきて」「夕飯用意して待っているから、道買いしてきちゃだめよ」
第7回目の未来命名会議。またひとつ、世の中の新しい事象に名前を与えることができました。今後、「道買い」が広まり、毎日の生活がより豊かになることを願って。その動向に、皆さまもぜひご注目ください。
金澤秀憲さん
ゴールデンバーグ代表取締役社長。日本大学 機械工学部卒業後、2006年株式会社ゴールデンバーグ創業。AI搭載型無人販売機「SMARITE(スマリテ)」を開発・運営する。国内初の無人化技術によるスマートリテール=SMARITEの実証実験は、大手食品メーカーや不動産事業者、小規模生産者、地域商店街など30社からなる無人販売プラットフォーム構築のためのコンソーシアム事業です。
【編集後記】
コロナ禍の外出自粛も追い風となって、近年ではオンライン通販での買い物が随分と日常的になりました。
しかし一方で、やはり「実物をあれこれ見比べて買いたい」「その場でサッと持ち帰りたい」など、自らの足を使う買い物をしたい場面があることも改めて実感します。
そんなわがままな我々生活者のニーズに応えると同時に、個人商店の経営支援や地域振興にも一役買う可能性を秘める無人販売機はとても頼もしい存在に感じました。
個人的には、ちょっと豪華なスイーツを取り扱う販売機があると、自分へのご褒美やうっかり買い忘れた記念日用などにも対応できて嬉しいなと思いました。
(未来定番研究所 中島)
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