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2018.11.09

空想百貨店。<全17回>

第5回| 山崎亮さんが考える、百貨店版チャリティショップ

様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。

私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。

今回お招きしたのは、コミュニティデザイナーの山崎亮さん。長年、地域の課題解決に取り組み、新しいアプローチで多くの悩める地域に再び息を吹き込んできた山崎さんに、「これからの百貨店がどうあったら面白いか」、アイディアをいただきました。

(イラスト:tent)

百貨店はこれから、単なる”買い物の場”としてではなく、公共性が高く、地域から愛されるような場になるべきだと考えています。そこで考えたのは、チャリティショップという業態を百貨店の中に持ち込むこと。

チャリティショップというのは、人々が家にある不用品を持ち込み、それらを商品として売る。そしてその売り上げを、慈善活動に活用するという仕組みの店です。発祥はイギリスで、欧米では世の中の定番となっているものの、日本ではあまり馴染みがありませんよね。ショップごとに、「がん患者に向けて」、「貧しい国の子供たちに向けて」などの寄付先が決まっていて、人々は支援をしたい相手を見据えてショップを選び、不用品を持ち込んだり、買い物をしたりしているんです。日本ではそもそもチャリティへの意識が高くない中で、百貨店が自らをプラットフォームとし、売り場の一画にチャリティショップのエリアを設けることは、チャリティの意識付けに大きなインパクトがあるのではないでしょうか。

また通常、チャリティショップの販売員は、皆ボランティアで、中には障がいのある方など、社会的な弱者が多いのも事実。そのため、段ボールに詰まったままの商品があったり、雑な並べ方をされていたり、無愛想な接客だったりと、店内は雑然としがちなものです。しかし、販売のプロである百貨店側が、彼らに接客や商品の並べ方のいろはをレクチャーすることで、きっと見るも見事に整然とした素敵なチャリティショップになるのではないでしょうか。これは、ボランティア販売員たちの社会参加、社会復帰の一助ともなると思います。

そして、こうした取り組みは、”損して得取れ”ではないけれど、百貨店が未来も地域に愛される場となっていくための、長期的なブランドイメージの向上に一役を買うのではないかと思います。

Profile

山崎亮

studio-L代表・コミュニティデザイナー・社会福祉士。 1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。

著書に『ふるさとを元気にする仕事(ちくまプリマー新書)』、『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』、『地域ごはん日記(パイインターナショナル)』などがある。

編集後記

近江商人の商売の心得、「三方良し」。この中でも忘れてしまいがちな「世間良し」の視点も体現したのが、山崎さんのチャリティショップというアイディア。ESG経営が注目を集めるなど、近年は企業にも公共性を求める潮流がある中で、企業も「売り手」と「買い手」だけでなく「世間」にもしっかり目を向けることが求められています。その方法のひとつとして、チャリティショップは大きな可能性を秘めているのかもしれません。

(未来定番研究所 菊田)

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