2021.05.31

未来命名会議<全9回>

第1回| インナートレンド

連載『未来命名会議』は、まだ言葉になっていないけれど、未来の定番になるかもしれない事象に名前を授けていく企画です。各分野に眠る事象を、その道の識者とF.I.N.編集部が対話しながら「命名」を行います。

第1回目は「SNS」について。SNSマーケティングの第一線で活躍するホットリンク執行役員CMOのいいたかゆうたさんにお話を伺いました。
(イラスト:megumi yamazaki)

F.I.N.編集部:いいたかさん、はじめまして。今回のテーマはSNSということでお声がけさせていただきました。

 

いいたかゆうたさん(以下、いいたかさん):ありがとうございます。

 

F.I.N.編集部:ご著書(『僕らはSNSでモノを買う』)を読んで印象的だったのが、SNSで口コミが広がることを“井戸端会議”と表現していることです。

 

いいたかさん:そうですね。SNSにおける情報伝播の仕方は昔に戻ってきていて、井戸端会議のように自分たちの周りから広がります。

 

F.I.N.編集部:インフルエンサーによる拡散ではないのですね。

 

いいたかさん:はい。情報はインフルエンサーによって爆発的に広がるよりも、徐々に広がっていく方がブームとして継続しやすいです。

例えば、昨年3月に愛知県・岡崎の「ダイワスーパー」のフルーツサンド屋が東京・中目黒に出店したのですが、オープン当初はお客さんがそれほど入っていませんでした。ところがTwitterで「美味すぎて泣いてる」と投稿されると瞬く間に5万リツイートを超え、行列ができる店になったんです。

この最初のツイートをした人のフォロワー数は40人くらい。そのうち1割がリツイートしたとしても4人。リツイートした人の属性もツイートした人と同じことが多いので、やはりフォロワー数は40人とすると、そこからさらに4人がリツイートして16人くらいにリーチします。16人、64人、254人……と井戸端会議で噂話が伝播するように広がったのがこのケースです。

 

F.I.N.編集部:なるほど。近しい人たちからの評判を聞いてどんどん広がっているのですね。この記事では普遍的に未来にあり続けそうな事象を言葉にしたいと思っているのですが、これを深掘りしていくと良さそうですか?

 

いいたかさん:それでいうと井戸端会議ともつながるのですが、最近個人的に感じているのは、SNSのタイムライン上でモノを買うことがこれまで以上にすごく増えたということです。例えば僕は今、本を買う時は信頼している何人かのSNSを見て決めます。

 

F.I.N.編集部:信頼できる人のリコメンドを基準にモノを選ぶのですね。

 

いいたかさん:SNSでモノが売れる時代には、ちょっとした流行があちこちで起こります。

 

F.I.N.編集部:SNSから始まった流行はそのうち「メジャー」になるものですか?

 

いいたかさん:そもそも「メジャー」がなくなってきています。例えば、リアル店舗はなくネット販売のみの「ミスターチーズケーキ」ははじめに20代、30代の間で人気に火がつき、世代を超えて広く認知されたのはテレビや雑誌で紹介されてからでした。それまではSNSを利用していない、60代以上の人はその存在すら知りませんから。人々のニーズに合わせて趣味嗜好の細分化は進むので、こうした流行のズレはますます広がっていくと見ています。

 

F.I.N.編集部:なるほど。まさに未来の定番につながりそうな事象ですね。さて、これをどんなネーミングにしましょうか。井戸端会議を文字って「イドバター」とか、どうでしょうか(笑)。

 

いいたかさん:なるほど(笑)。

 

F.I.N.編集部:あるいは「タイムライン買い」もありかもしれませんね。

 

いいたか:たしかに、リアルな世界とは別にタイムラインから始まった流行が次々に形成され出したことを言えるといいかもしれないですね。

 

F.I.N.編集部:あるいは、もう1つの世界が立ち現れているから……。「ダブルスタンダード」や「セカンド・トレンド」のような、そういう言い方は近いのですかね?

 

いいたかさん:そうですね、「○○トレンド」というのもあるかもしれない。

 

F.I.N.編集部:セカンド・トレンドと少し角度を変えるなら、マスメディアが牽引するトレンドと差をつけて、「マイクロトレンド」とか。

 

いいたかさん:なるほど。

 

F.I.N.編集部:「ヴァーチャル・トレンド」みたいな言葉を作れるといいですよね。そうですね……、「インナー・トレンド」はいかがでしょう。

 

飯高さん:いいと思います。タイムラインとその内側のトレンドも言い表せられるかな、と。

 

F.I.N.編集部:ありがとうございます。インナー・トレンド。SNSで起こっているのは目には見えない内側の流行という意味ですね。それでは記念すべき第一回目、私たちはSNSに現在起きている未来の兆しを「インナー・トレンド」と命名します。いいたかさん、ありがとうございました。

Profile

いいたかゆうた さん

ホットリンク執行役員CMO。広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、100社以上のコンサルティングを経験。2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴いベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職。2019年よりホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のSNSコンサルティングを実施。

【編集後記】

まわりの人のSNSのタイムラインを覗き、それぞれの「インナートレンド」を知りたくなりました。きっとそこには、規模は小さいかもしれませんが熱狂的でマニアックな「トレンド」があるのだと思います。

(未来定番研究所 中島)