2021.06.23

どう選んでるの? デジタルネイティブ世代の買い物の仕方。

ECサイトや追従型広告が私たちの購買欲を変えたように、テクノロジーの進化によって、「探し方」や「選び方」は常に変わり続けています。そのような変化にも柔軟に対応していけるのが、デジタルネイティブと呼ばれるZ世代。彼ら彼女らの消費行動には、これからの定番となる“選び方”の萌芽が見られるかもしれません。

この記事では、デジタルネイティブ世代の選び方や価値観を探ることを目的に、気鋭の若手クリエイターやインフルエンサー3名に、毎日使いたいものをテーマに「お買い物」を依頼。実際の購入現場に密着し、彼らがどのような価値観で選んでいるのかをお聞きします。

(撮影:黒川ひろみ)

〈cyōdo〉料理家・萌菜さんの場合。

尊敬する人からの口コミと、手に取った時の高揚感で、選ぶ。

まず一人目は、代々木八幡の人気レストラン〈cyōdo〉を夫婦で営む、料理家の萌菜さん。料理とおしゃれが大好きな彼女は、レストランで修行を重ねながら、モデルとしても活動するなど、気になるものに対していつも貪欲な姿勢で取り組んでいる方です。

F.I.N.編集部

今日は、萌菜さんが「毎日使いたいもの」を選び、購入するところまでを追わせていただきたいと、お願いしました。

萌菜さん

お話をいただいてから考えてみましたが、私の場合はやはりスキンケアアイテムかなと。お料理と同じくらい、ビューティーやファッションも大好きで、ついつい調べてしまうんです。

F.I.N.編集部

種類が豊富ですし、情報の入手先も多いですよね。

ビューティーアイテムを買う前は、徹底したリサーチが欠かせないと話す萌菜さん。信頼している情報は、“尊敬する人からの口コミ”だという。

萌菜さん

美容に詳しい友人からおすすめを聞くこともありますし、InstagramやYouTubeを見ながら欲しいアイテムを探すこともあります。

F.I.N.編集部

特に参考にされているアカウントはありますか?

萌菜さん

草場妙子さんや福本敦子さんのアカウントですね。紹介されている商品はもちろん、お二人が発信するライフスタイルや女性像も魅力的に感じていて。SNSは情報収集の手段でもありますが、画面の向こうにいる尊敬する人から “選び方”を学んでいるのかもしれません。

F.I.N.編集部

なるほど。ところで今日、購入を検討しているものは何ですか?

萌菜さん

ナチュラルボディケアブランド〈Soaptopia〉のフェイスブラシです。以前から、SNSなどで話題になっていたので知ってはいたのですが、先日複数の友人からおすすめされ、“気になる”から“欲しい”に変わりました。

実際に見てみて、気持ちがアガるかどうか。

商品が決まったところで萌菜さんが向かった先は、ナチュラルボディケアブランド〈Soaptopia〉の店舗です。

F.I.N.編集部

ネットでそのまま買う、ってことでもないんですね?

萌菜さん

それはあまりしないようにしています。情報を集めたら、必ずお店まで足を運ぶのがマイルール。イメージと違わないか最終確認する目的もありますが、イマイチに思っていた商品でも、実物を見たらいいなって思うこともあるので。絶対に似合わないと思っていたお洋服でも、合わせてみたら意外とよかったということがあるように、コスメやスキンケアアイテムでも店舗で試すことが多いです。その時の体験が、購入の決め手になることもありますね。

いつもよりレベルアップするモノはないか。

F.I.N.編集部

スキンケアアイテムというと、化粧水や美容液を思い浮かべてしまうのですが、今回フェイスブラシを選んだのはなぜですか?

萌菜さん

スキンケアアイテムの中で、ブラシって優先度が低いですよね。私は、商品を使った時に自分の気分が上がるかどうかも大切な判断基準にしています。今回でいえば、普段のスキンケアにプラスして使うことで、いつもの自分よりレベルアップできるような気がしたんです。

F.I.N.編集部

リアル店舗で買い物をする良さって、他にも何かありますか?

萌菜さん

やっぱり、ネットで見た以上の高揚感が得られることでしょうか。私は、ちょっと気持ちが落ち込んでいる時こそお買い物に行くようにしていて。試着をしてみたり、手に取ってみることで、それを使っている自分が想像しやすくなります。新しい自分に出会えたような気がして、気持ちがリフレッシュされるんです。

<萌菜さんのお買い物の作法>

・尊敬する相手から、“選び方”を学ぶ。

・リアル店舗でも体験して、自分の気持ちを確かめる。

・買い物は、気持ちをリフレッシュさせてくれる体験でもある。

Profile

萌菜さん

1996年生まれ。2020年10月、代々木八幡のレストラン〈cyōdo〉を夫婦でオープン。それぞれが「ちょうどよく」落ち着ける場所をコンセプトに、ナチュールワインと食事とデザートを提供している。

https://www.instagram.com/bisous_mona44

https://www.instagram.com/cyodo_official/

 

アーティスト・福井海東さんの場合。

記憶の中にある感動をきっかけに、定番になる商品を、選ぶ。

二人目は、湘南から東京に移り住み創作活動を続ける福井海東さん。イラストや陶芸、パッチワークなどの作品や、幼少期の思い出を綴ったエッセイなど、枠にとらわれない幅広い活動をされている方です。

F.I.N.編集部

先日、福井さんに本記事の主旨をお話したところ、「毎日使うもの」はノートだと即答されてましたね。ですので、本日はお店での待ち合わせにさせていただきました。

福井海東さん(以下、福井さん)

僕は文章を書くことが好きで、個展が終わった後、決まって来場者にお手紙を書いています。なので、いつでも想いを綴れるように、ノートを肌身離さず持っていたいと思ったんです。

F.I.N.編集部

ここ、蔵前にある文具店〈カキモリ〉を指定されましたが、なぜこのお店を選んだのでしょうか?

福井さん

数年前に、旅人の友人が持っていたノートがとっても印象に残っていて。レザーの表紙に雨の跡がついていたり、ノートから地図がはみ出していたり。その時、〈カキモリ〉で買ったと言っていたので、ここにしようと決めました。昔見たものや体験したことを振り返っている時、欲しいものが見つかることが多いですね。当時の感動が、消費行動に繋がっている気がします。

幼い頃に感じた憧れが、今の欲しいに繋がる。

F.I.N.編集部

今回のノートのように、記憶を辿ることで欲しいものが見つかることは、よくあるのでしょうか?

福井さん

そうですね。当時手に入らなかったものを、ちょっと大人になった今、揃えたいという気持ちがあるのかもしれません。それでいうと、電車の“回数券”も気になってます(笑)。幼い頃、スーツを着た大人が駅員さんに回数券を渡して改札を抜ける様子がスマートに見えて憧れたんです。僕が大人になった時にはすでにICカードが定番になっていたから、憧れのまま止まっています。

F.I.N.編集部

なるほど。ちなみに、今、他にも欲しいものはありますか?

福井さん

ママチャリですね。中学生の頃、通学にママチャリを使っていたのですが、校則で荷物は後ろの荷台にロープで巻かなくてはいけなくて。当時はそれが物凄くダサくて嫌でしたけど……

F.I.N.編集部

改札券もそうですけど、福井さんの目には、スマートにデザインされすぎているものではない、アナログの感じが妙にカッコよく映るんですかね?

福井さん

そうですね。今振り返ると、ママチャリでいえば、荷台にロープで巻くって意外に便利だし、実はイケてるのでは? なんて思えてきて、気になっているんです。

迷わないために、長く使える定番をチョイス。

F.I.N.編集部

今回選ばれた「表紙がレザー」のノートは、さまざまなメーカーから出ていると思うのですが、その中でも〈カキモリ〉にした理由は他にもあるのでしょうか?

福井さん

自分で使うアイテムは、極力悩みたくなくて。このノートなら、中紙を取り替えられて、ずっと同じものを使える。いつもの定番アイテムが決まっていれば、使い終わっても次のものをどれにしようか悩む時間が減りますよね。その時間があるなら、創作活動に充てたり、大切な人と過ごしたりしたいんです。

F.I.N.編集部

なるほど。他にも、悩まないようにしていることはありますか?

福井さん

自分が着る洋服も、定番が決まっているので悩まないですね。クローゼットには同じTシャツが20着ほど並んでいます。それから、注文は3秒以内に決める。カフェではアイスコーヒーと決めています。

F.I.N.編集部

徹底されているんですね。

偶然の出会いを求めて、外に出かける。

F.I.N.編集部

今回は、お友達が使っていたことがきっかけになっていますが、インターネットの情報から買い物をすることはありますか?

福井さん

普段お買い物をする時は、街を散策することから始めますね。というのも、iPhoneから入ってくる情報に頼ってしまうのが嫌なんです。SNSやネット広告は、自分の好みの情報が集まってきますよね。そうしていると同じ場所に止まっているように感じてしまって。インターネットでなんでも揃う時代だけれども、もっと未知の領域を開拓して、新しい刺激をもらいたい。そのためには、やっぱり外へ出て、偶然目に入る情報を取り入れていきたいんです。

F.I.N.編集部

ちなみに、先ほど店員さんと何を話していたのでしょうか?

福井さん

お店が新しく始めるサービスについて、教えてもらっていました。思い出のものやエピソードを〈カキモリ〉さんに送ると、インクにしてくれるみたいです。全く知らずにここへ来たのですが、今回のお話と繋がっているような気がして、びっくりしました。こういう耳寄りな話も、インターネットで見ていたらそこまで気にならなかったかもしれません。やっぱりお店に来れてよかったです

<Fukuiさんのお買い物の作法>

・記憶の中に、憧れたものをストックしておく。

・迷わないために、定番を選ぶ。

・偶然の出会いを求めて、街へ繰り出す。

Profile

福井海東さん

1997年、東京都出身。幼少期から波と戯れ、サーフィン、スケートボード、恋に青春。あの時、あの頃の機微を紡ぐように幾層ものレイヤー重ね描き、未来を視る。美化されたり、湾曲、誇張される記憶を、優しく繊細な浮遊感で映し出す作風が人気を集めている。

https://www.instagram.com/kaito_fukui/

 

写真家・ヨシノハナさんの場合。

まずは、通いたくなるお店を、選ぶ。

三人目は、雑誌やブランドのルックブックなどで活躍中の写真家、ヨシノハナさん。フィルムカメラを使って、淡く繊細な色彩を映し出し、被写体を自然に切り取る写真が注目を集めている気鋭の存在です。

焦らないから見つかる、街の変化。

待ち合わせ場所に指定された吉祥寺の裏路地に現れたのは、颯爽と自転車に乗るヨシノさん。

F.I.N.編集部

まさか自転車で登場するとは! 今日はどちらからいらっしゃったんですか?

ヨシノさん

実は吉祥寺が地元なんです(笑)。行きつけのお店もたくさんあって、私の遊び場でもあります。

F.I.N.編集部

普段から自転車で移動を?

ヨシノさん

そうですね。街を散走したり、バスから外を眺めたりすることで、新しいお店や素敵な風景が見つかることが多くて。今回の企画は買い物がテーマですよね。お話をいただいてから思ったんですけど、“探そう!”と躍起になるとどうしても良いものは見つからないなと思いました。自分を見つめる時間を作って、心に余裕を持たせることが大事なのかもしれませんね。

F.I.N.編集部

それは確かにありますね……。さて、この企画を依頼させていただいた際、ヨシノさんは「“毎日使うもの”となるとやはりフィルムなのかな」とおっしゃっていました。普段はどこで入手されているのですか?

ヨシノさん

家電量販店やオンラインショップで買うことが多いです。ただ、毎日使うし、自分の作品に直結するものなのに、それを買うお店に愛着が湧かないことが気になっていて。どこか、通いたくなるような素敵なお店があれば良いなと思っていたんです。

F.I.N.編集部

そこで、「フィルムカメラを扱っているお店を探そう」となったんですよね。

ヨシノさん

はい。仕事柄よく場所をリサーチするので、今日はその店を“どうやって探したのか、選んだのか”も伝えられたらと思います。

F.I.N.編集部

ありがとうございます。そこでご指定された街、吉祥寺に来てみたわけですが。

ヨシノさん

初めて入るお店って、緊張するので苦手なんです。でも、住み慣れたこの場所には、大体どんな人が集まってくるかがわかるので、安心してお店に入れます。それから、吉祥寺はテナントが流動的で、新しいお店を見つけるにはぴったりの場所かなと。

新しいお店は、入る前にじっくり吟味。

F.I.N.編集部

では、さっそく向かいますか?

ヨシノさん

ちょっと待ってください。

スマホを取り出して何かを調べはじめたヨシノさん。この待ち合わせ場所に来る途中に見つけたあるお店が気になっているとのこと。

F.I.N.編集部

何を確認しているのですか?

ヨシノさん

Google Map の“行きたいリスト”にお店の情報をピンしてきたので、場所を確認しています。それから、Instagramでお店が発信しているコンセプトや通っている人の雰囲気を見ているんです。気になったお店にすぐに飛び込むことはあまりありません。一度持ち帰って、安心するまであれこれ調べてしまいますね。

F.I.N.編集部

安心できることがなによりの条件なんですね。行きたいリストには、他にどのようなお店がありますか?

ヨシノさん

最近だと、新しくできた古本屋さん〈古本のんき〉をピンしました。ここも、散歩していたらたまたま見つけたのですが、調べて見るとオープンしたばかりで。まだあまり知られていないお店を発見した時は、嬉しいですね。始まりから見届けられるからなのか、見つけた瞬間から愛着が湧いてきます。

F.I.N.編集部

なるほど。では、今回選んだお店も、安心できて、愛着が湧きそうな新しいお店なのですか?

ヨシノさん

そうなんです。自転車で散策している時に、偶然見つけてから気になっていて。それからSNSを見てみたら、注目している写真家さんも通っていることもわかって。その安心感や信頼感もあってか、気になるお店から行ってみたいお店になりました。

F.I.N.編集部

私も気になってきました。それでは向かいましょうか。

コミュニティとしての魅力を感じると、お店がもっと好きになる。

今回ヨシノさんが買い物場所に選んだのは、吉祥寺の裏路地にある5畳ほどの小さな写真屋〈Prism Lab KICHIJOJI〉。2020年にオープンしたフィルム写真を中心に現像やプリント、さらには展示や作家紹介など、​写真にまつわる事を幅広く取り扱っているお店です。

F.I.N.編集部

〈Prism Lab KICHIJOJI〉さんに惹かれた理由を教えてください。

ヨシノさん

商品以外の体験価値があると思ったんです。調べていくうちに分かったのですが、Prism Labさんに依頼する写真家さんは素敵な人ばかりで。ここに来ればみなさんと意見交換ができたりしないかな、と少し期待しているところもあります。

F.I.N.編集部

確かに、フィルムを売っているだけでなく、お店のスペースを使って写真展を開いたり、自費出版の写真集が置いてあったりと、さまざまな写真家さんが集まっていることが伝わってきます。

ヨシノさん

そうなんです。毎日使うフィルムカメラは、家電量販店やインターネットでも手に入ります。でも、わざわざ足を運びたくなるお店は、人と人の繋がりが密接で、コミュニティとしての役割もあるんです。そこに集う人たちと仲良くなると、お店自体がもっと好きになる。お店にも人にも愛着が湧いて、 “買う”以外の目的も生まれてくるんですよね。こうしてこの街には、行きつけが増えていくのかなと思います。

<ヨシノさんのお買い物の作法>

・散歩をしながら、街を見つめる。

・気になる人が集まるお店を選ぶ。

・お店の“人”を好きになって、行きつけのお店を増やす。

Profile

ヨシノハナさん

写真家。1996年生まれ。東京造形大学デザイン学科写真専攻卒。元フォトグラファーの父の影響で写真を始める。雑誌やファッションブランドのルックを撮影するほか、個展など多方面で活動している。

https://linktr.ee/hanayoshino

 

【編集後記】

取材させて頂いた皆さんの「選ぶ」という行為の中には、彼らを彼らたらしめる魅力が伺えます。それは、人間らしさを大切にした選択でした。

ネット社会を「同じ場所に止まっている」という閉塞感ととらえ、「自分らしくあるために、未知の刺激を求めてリアルに飛び出す」というKaitoさんのお話にはワクワクしました。

3名の方の選ぶ作法の中に、デジタルネイティブ達の新しい時代の息吹を感じました。

(未来定番研究所 出井)