2023.01.23

買う

目利きたちの買い物を調査。「無駄遣い」こそ、暮らしと心を豊かにする?

玩具や人形、置物、装飾品、インテリアグッズなどなど……。こういった生活に必要のないものは、ほかの人から見たら「無駄なもの」かもしれません。ですが、無駄なものを買うという行動こそ、自分の暮らしや心を豊かにしてくれるもの。そこで本企画では、無駄遣いと思いながらも最近つい買ってしまったものを、日用品愛好家の渡辺平日さん、日用品デザイナーのた しさん、郷土玩具コレクターの瀬川信太郎さんに調査。もの好きの目利きである3人の回答から、少し先の未来を想像できたり、個性の獲得につながったり、ものの背景を慮ることができたりと、「無駄なもの」の価値が改めて見えてきました。

 

(文:船橋麻貴)

生活に句読点を打つ、

無駄じゃない無駄遣い。

Profile

渡辺平日さん

日用品愛好家。大学を卒業後、インテリアショップに就職。仕事を通じて「もの」に対する知識や感性を養う。現在は執筆活動だけではなく、美術協力や製品開発など、良く言うと多方面に、悪く言うと無軌道に活躍の場を広げている。

Twitter:@wtnbhijt

しっかりと吟味してから購入するので無駄遣いはほとんどしません。たまに衝動買いをしちゃう場合もありますが、それでも「無駄だったなあ」と思うことは少ないです。ただ、他の人、例えば母からしたら、「それって無駄遣いじゃない?」と指摘されるような買い物はたくさんあります。

 

その一つが、〈TG〉のキャンドルホルダー「Heat-resistant Glass Candle Holder(70mm)」です。

お値段は6600円。渡辺さん曰く「母が知ったらビックリするかも」

とある展示会でこのキャンドルホルダーに出会い、すっかり一目惚れしてしまいました。上品で美しいフォルムがたまりません。日本ではあまり流通していないので、わざわざ台湾から取り寄せました。購入の決め手となったのは「もうすぐクリスマスだし、自分のためのプレゼントに……」と考えたこと。でもまあこれは言い訳ですね。買ったのは夏なので(笑)。

 

慌ただしい毎日を送っていますが、キャンドルに火を灯して眺めていると、ぼんやりと寛げます。こういう時間があるのはいいなとしみじみしちゃいますね。生活に句読点を打つというか。

無駄遣いをすると、やはり心が豊かになります。……という答えはありきたりなので、心が豊かになるという言葉を掘り下げてみますね。

 

心が豊かになると、「明日が見える」ようになります。例えば「明日は友人が来るからあの花瓶を出そう」とか、「明日は誕生日だからキャンドルホルダーを磨いておこう」というふうに、少し先の未来を想像できるようになります。こういう生き方はかなり健全なあり方ではないでしょうか。

 

「またそんなものを買ってきて……。それって家にいっぱいあるでしょう?」などと言われながらも、僕はこれからもいろいろと買い集めていくつもりです。明日が見える暮らしをするために。

無駄遣いの醍醐味は、

グッドハプニングと個性の獲得。

Profile

た しさん

日用品デザイナーの合間にちょっとものづくりを。のはずが、いつの間にか本職と間違えられるほどに。つくったものはTwitterにて公開中。

Twitter:@wonder_aaaa

日用品デザインの仕事をしているので、普段からいろいろな物を買い集めて使い、一応、自分がデザインするときに役立てています。といっても半分趣味です。そんな僕がつい買ってしまいがちなのが、栓抜き。普段、瓶の飲み物は全く飲まないので、栓抜きは本当に使いません。だけど、一昔前の栓抜きは特に遊び心のあるユニークなデザインが多く、心が揺さぶられてしまうのです。先日も、古道具市で1セント硬貨が3枚入った栓抜きをうっかり購入。この栓抜きが生まれた意図が全くもって想像できないところに惹かれてしまいました。

「2,000円くらいなら出せるなと思っていたら、300円だったので即買いしました」とた しさん

普段、仕事では無駄をそぎ落としたシンプルなものをデザインしていますが、こちらはその真逆。なぜ栓抜きに1セント硬貨を封入したのか、誰が作ったのか、記念品なのか、お土産か、全てが不明で理解不能。自分では思いつかないものはアイデアの幅を広げてくれるので、その最たるものとして手元に置いています。

日常生活ではほぼ使わないので、置物状態。ですが、友人たちが家に来た時のリアクションがうれしいですね。この栓抜きの場合は、「何これ?」と話題の一つになるのも無駄遣いの買い物ならでは。あとは、リモートワークで自宅にいる時間が長くなったので、この栓抜きを目にするたびに「おっ、やっぱりいいな」と思います。そういうものが家の中にあると、QOL(Quality Of Life)が上がりますね。

 

なんといっても買い物の魅力は、買った人自身が投影されるところ。本人は自分のために買い集めただけかもしれませんが、ものを買って手に入れたということが、その人らしさや個性を形作る一部になることは間違いありません。ストレスの発散や生活の質の向上、新しい価値観の発見など、買い物の目的や意義は様々だと思いますが、僕は無駄遣いでしか起きないグッドハプニングや、無駄遣いでしか得られない個性の獲得がその醍醐味なのかなと思います。

 

この先は、透明なガラスの塊を収集したいなと考えています。置物としてとても良いと思っていて、すでに少しずつ探し出しているのですが、案外これというものに出会えていません。だから5年後、10年後は日本を出て海外に探しに行ったり、工房にオーダーしたり、理想のガラスの塊を作るため自らガラス工房の門を叩き、授業料として無駄遣いをしている可能性が高いです。作った作品を販売して誰かの無駄遣いになるのも、面白い連鎖かもしれません。

自分の視野を広げてくれる、

一目惚れたちとの出会い。

Profile

瀬川信太郎さん

大阪のエスニック雑貨店を経て、2015年に福岡に九州の民芸品と郷土玩具を紹介する店「山響屋」を開店。器をメインに取り扱いながら、店の一角で郷土玩具も販売する。開店1周年を過ぎた頃、郷土玩具にシフトチェンジ。今は、全国の郷土玩具を中心に店を営みつつ、だるま絵師としても活動する。

山響屋:http://yamabikoya.info/

最近つい買ってしまったのは、行きつけのメキシコ雑貨屋さんで見つけたガイコツの木彫り人形です。お店の中でも異彩を放っていたので、これはもう一目惚れです。メキシコにも木彫り人形がたくさんあるのですが、この「ガイコツくん」は色使いや質感が違っていました。店員さんに話を聞くと、「メキシコの隣の国、グアテマラの人形です」とのこと。

瀬川さんが運命の出会いの末に購入したガイコツくん。2,000円ほどだったそう

おそらく私の人生でグアテマラとか行く機会はないでしょうし、ここで出会えたのは運命です。自分の手元に来るまでにどんな旅をしてきたのかを想像して楽しんだり、グアテマラはどんな国なのかと調べたり、このガイコツくんからたくさんのことを学べたので。

 

無駄遣いの何がいいって、その一目惚れしたものたちに囲まれて過ごせること。私は一目惚れで買い物することが多く、それが何よりも幸せです。そしてものには作り手がいて、作られた土地があります。作り手を思い浮かべたり、作られた土地を調べてちょっと旅行した気分になったり。ものには必ずバックグラウンドがあるから、買って終わりではありません。むしろ、手に入れてからがスタートな気がします。

 

同じ趣味を持つ人たちと「一目惚れしたものたちのここが好き」ということを語り合うのも楽しいですね。各々好きなポイントが違うから、新しい発見がありますし。一見無駄遣いのように思えて、実は自分の視野をどんどん広げられる。だから、買い物はやめられませんね。

■F.I.N.編集部が感じた、未来の定番になりそうなポイント

・暮らしが豊かになる、明日が見える買い物

・無駄遣いでしか得られない個性の獲得こそ買い物の醍醐味

・手に入れてからはじまる、もののバックグラウンドを知る楽しみ

【編集後記】

無駄な買い物について調査した結果、最終的には、無駄の有用性を読み解くことになり。 無駄が無駄じゃなくなる瞬間を捉えることになりました。

日常の買い物では、そのものの利便性や価値、価格(お買い得か)にフォーカスして、よく考えながら手に入れることが多いですが、もっと自然体に、感覚的に買い物を楽しんでも良いのかもしれません。 買い物には、自分を労ったり、自己表現、思いを馳せたりと、さまざまな広がりがそこにはあるようです。

(未来定番研究所 窪)